情報提供:アドバンテージ・パートナーシップ外国法事務弁護士事務所
国際仲裁弁護人・国際調停人 堀江純一(国際商業会議所本部仲裁・調停委員)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)専門家
デジタル署名における法的リスク
概要
デジタル署名は便利だが、同時に法的リスクも伴います。署名者の身元の確認や契約の有効性、セキュリティの脆弱性などが問題となり得ます。特に、国・地域や州によっては電子署名が法的拘束力を持たない場合もあり、企業には慎重な対応が求められます。デジタル署名における法的リスクを提示します。
デジタル署名の主な法的リスクは、インクによる署名(手書きの署名)とは異なり、正しく実行されない場合、契約全体が無効となる可能性があります。これは、署名者の身元の確認や契約拘束への意思確認の難しさ、署名後の内容改ざんのリスク、特定要件への不適合などが原因で発生します。これらのリスクは、権利証書などの特定の書類や、会社定款などの準拠法がデジタル署名を採用していない場合に特に顕著となります。その他のリスクには、詐欺やデジタル認証情報の侵害による不正署名が含まれ、文書が無効となる可能性があります。デジタルプラットフォームのセキュリティ脆弱性もリスク要因であります。そこで、デジタル執行の法的リスクを以下に4つ挙げます。
デジタル執行の法的リスク
1.有効性と執行可能性
・管轄区域による差異:一部の国・地域や州などでは電子署名法が完全には採用されておらず、デジタル署名がどこでも法的拘束力を持つとは限りません。
・対象外文書:特定のカテゴリー(例:遺言書、委任状、土地譲渡、権利証書)では、依然としてインクによる署名または公証が必要となる場合があります。
2.認証と身元詐欺
・デジタル本人確認が脆弱な場合、なりすましや不正アクセスのリスクが生じます。
・パスワードベースや単純なクリック署名方式は、高額取引や規制対象取引において法的基準を満たさない可能性があります。
3.証拠能力に関する課題
・裁判所が文書の完全性や署名者の真偽を疑う可能性があります。
→証拠としての重みを確保するには、メタデータ、監査証跡、安全な保管が不可欠であります。
4.技術依存性
・サードパーティプラットフォーム(例:DocuSign、Adobe Acrobat Sign)への依存は、プロバイダーのダウンタイム、データ侵害、事業停止時にリスクを生みます。
・ブロックチェーンベースのソリューションは、データの永続性に関する問題を引き起こす可能性があり、プライバシー法(例:EU(欧州連合)一般データ保護規則(GDPR)の「忘れられる権利」)と矛盾する可能性があります。
注意事項:
本稿は法的アドバイスを目的としたものではありません。必要に応じて専門家の意見をお求めください。
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