鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


むち打ち症とは身体が外部からの衝撃を受けたときに頭とからだの接続部にあたる首が急激な動きに対応してエネルギーを吸収しようとしたときにおこるあらゆる症状です。最も多いのは自動車の追突事故によるものですが、正面衝突、側面衝突、それにスポーツの事故(球技、体操、ダイビング)や頭に重いものが落ちたときなどでもおこります。
追突事故の場合、衝撃によってからだが前方向に飛び出しますが、頭部は重いのでその場に残ろうとしてしまいます。
よって衝撃時には首が後ろに引き伸ばされます。次の瞬間、反動で頭が前に倒れ、首が前方に強く曲げられます。
首には頸骨が積み重なっていますが、あまりに激しい衝撃を受けたときには骨がずれたり骨折がおこらないように頸骨の間の椎間板やまわりの筋肉や靱帯がサポートしようとして衝撃を吸収します。しかし、その衝撃があまり大きすぎればこのような組織に損傷がおこります。そして椎間板や筋肉と靱帯でサポートしきれないような衝撃の場合、頸骨がずれたり骨折がおこったりもします。

症状
首の痛みが最もよくある症状です。怪我をした直後は軽い痛みでも、その後1-2日から数日のあいだで痛みが増して
くることが典型的なパターンです。
その他の症状:

*頭痛 *肩の痛み *めまい *腕や手のしびれ *腕の筋力低下

強い痛み、こわばりによって首の可動域が狭まったり(左右に45°以上動かせない)、腕や手のしびれがおこっていれば重症度が高いことを意味しています。意識がうとうとしたり混乱状態になったり、吐き気、嘔吐を伴っていれば首だけではなく、脳への危害もあるかもしれません。

検査
頸部のレントゲンをとるかどうかは症状のひどさや年齢、事故状況にもよります。患者さんが高齢である場合(65才以上)、高速(時速100km以上)の事故、転覆事故、車外に放出された事故の場合はもちろん必要です。また、首の可動域が狭くなっているような場合もレコメンドされます。レントゲンは骨折と頸骨のずれがわかります。
もし腕や手のしびれや筋力低下がおこっている場合は椎間板ヘルニアなどによって脊髄から分岐している神経に圧迫がかかっているかもしれませんのでこの場合は頸部のCT、あるいはMRIが必要となります。

治療
治療の主旨はもちろん早期回復ですが、その目標を達成するためには痛みを鎮痛剤で抑えながらなるべく普段の日常生活を続けることが大切と考えられています。回復の早さには個人差があります。数週間から数ヶ月かかることもあります。痛みを感じるということは人体に損傷があったときの通常の反応です。
多少時間がかかっているようでも徐々に痛みが軽減しているということは回復に向かっているということですのでなるべくプラス思考で治療に励むようにしてください。もちろん、回復が停滞気味になったり痛みがひどくなったような場合はもう一度医師と相談する必要があります。軽症ならば自分で首の筋肉を強化する体操をすることもできます。物理療法士(Physiotherapist) で治療を受けることもひとつの手段です。

日常生活における注意点
*仕事:
職種にもよりますが、オフイスワークで肉体的な重労働を要するような仕事でなければ仕事は続けることを勧められています。ですが、たとえオフイスワークでも重い物を持ち上げたりしなければならないこともおこると思いますが、これはなるべく避けなければいけません。座って仕事をしているときは時々息抜きをして20分ごとに立って歩くか、姿勢も変えるようにしてください。体操のページの図4のような体操もしてください。
また、下の図のようにデスクワークのときの姿勢にも気を配るようにしてください。

*家事:
買い物などでは一度にたくさんの物を買わず、数回にわけて荷物が重くなりすぎないように注意してください。
家事も一度にすべてをこなさないで、時間をかけて分けてするようにしてください。
なるべく作業は身近でするようにしてください。例えば洗濯物を干したり取り込んだりするときは物干しラインを低くしたり、庭の草取りのときはひざまずいてしたりしてください。洗濯機から洗濯物を取り出すときも一度に全部出さないで少しずつ取り出すようにしてください。

*レジャー:
映画館では中央の座席に座り、画面が真正面になるように注意してください。会食のときはなるべく相手の人の反対側に座り、首を横に向けながら長いこと会話をすることは避けてください。
車を後退させるときは首から回して後ろを見ないでなるべくからだ全体を回すようにしてください。
テレビを見ているときなどは時々軽い体操をしてください。長時間座りっぱなしは避けるように
してください。
スポーツは急激に激しい運動はしないで徐々に復活にのぞんでください。

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