情報提供:アドバンテージ・パートナーシップ外国法事務弁護士事務所
国際仲裁弁護人・国際調停人 堀江純一(国際商業会議所本部仲裁・調停委員)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)専門家
移民の歴史
その3 最初の裁判
植民地ができた当初はこの自然の厳しい条件の基にいかに生き延び、ニューサウスウェールズを流刑地として建設して行くかということが何よりもまず重要でした。総督が軍隊を指揮し植民地を統治していたため戒厳令等は敷く必要がありませんでした。軍の指令で動いており、総督とその兵士が植民地を当時の法のもとに統治していました。
軍事政権であるにも拘わらず、ニューサウスウェールズ州に出来る限り英国法を適応し、民事及び刑事裁判所の基礎を築こうとしました。ニューサウス・ウェールズはそういう意味では法事国家でした。1787年4月2日付けの総督宛ての英国国王特命状の中には裁判官1名と2名の補佐役をもって民事裁判所を設立せよとの指示がありました。この民事裁判所はあらゆる民事訴訟を取り扱いました。契約、債務、不法侵入、土地の権利まで取り扱いました。さらには遺言や遺産まで取り扱いました。当然司法権の長は英国国王でした。同様に1787年に刑事裁判所が設けられましたが、刑法は成文化されていました。1名の裁判官と6名の将校で成り立つ法廷でした。また、外部からの侵略等が発生した時、英国法に基づき総督は戒厳令を敷くことができました。実際に戒厳令は植民地建設後5-6年のうちに何度か実施されました。
また、1787年の特命状は治安判事に英国と同じ権限を与えよとの事も指示されていました。総督、副総督や判事は職権状の司法官を兼ねていました。ほかの官吏も裁判官として任命されました。それは英国と同じ様に名誉であったにもかかわらず、裁判官は司法及び植民地全体の問題に関しても重要な役割を果たしました。裁判官は軽犯罪や懲罰刑を裁判しました。総督マックアリーは一般市民や見習い工の賃金問題についても彼らに申議する様委託するようになりました。
法廷はこの植民地の出来あがった当事より建設されていましたが実際この法廷が最初の刑事裁判に使われたのは1788年2月11日でした。どんな刑罰を流刑人に与えるよりも、まず正しい裁判がなされるべきであると考えました。植民地での刑事裁判所は英国のとはかなり違っていました。勿論陪審員はいなくただ軍の将校が並んでいるだけでした。起訴状を裁判官が作り上げ、検察になりあがってそれを読み上げ時には陪審員にもなるという有様でした。
従って、正しい法の解釈が出来る者はオーストラリアには誰もいませんでした。裁判官は陪審員もどきの者達と一緒に有罪か無罪かを決定しました。初めて派遣された有資格の裁判官、エリス・ベントはこの異様な裁判について1811年にロンドンに注意報告書を書き送りました。「ここの裁判官は法廷の議長を務め、被疑者の調書を取り、囚人の裁判に関しての資料を用意したり、目撃者に出頭を命じたり、法廷に必要な書類を提出したり、裁判の覚書を作ったり、証言を書き留めたり、裁判に関しての調査書を他の審査員に報告したりする。都合良く裁判官が法廷の判決を宣告したり、囚人の有罪、無罪を記録に取ったり、また法廷での記録を全て彼が管理している。この様に判事は委託総督であり、検察官であり、また作成された報告書に関して正当かどうか審判し、それを自分自身で公表することが出来る。」この様に英国とニューサウスウェールズの刑事訴訟法がかなり違いました。1787年の法令で英国とほぼ同様の刑事訴訟がニューサウスウェールズでも取り入れられるようになりました。また植民地建設以来数ヶ月後、民事裁判所もできました。実際、その法廷での最初の裁判では囚人でも法的権利が認められその権利を裁判所で行使することが実証されました。それは1788年7月2人の囚人、ヘンリーとスザナ・ケーブルが最初の移民船団シンクレアー船長にたいして訴訟したケースでした。彼らは船長を相手取って15ポンドほどの衣服などの小包の損失の賠償を要求しました。その小包は1787年彼らが乗船する前に囚人船アレキサンダーに積まれたことが判りましたが、ニューサウスウェールズに着いた時にはそれは見当たらなかったとの告訴でした。結局彼らに対して15ポンドの賠償が命じられました。この判決は目を見張るものがありました。英国法では囚人には人権を認めておりませんでした。また、裁判をする権利も与えておりませんでした。
この様に植民地が出来たての頃囚人達はこの新しい法廷でのびのびと民事を争う事が出来ました。従って、船長のような権力者に対しても囚人は法廷に訴訟を起こし、堂々と英国より12000マイルも離れた新大陸で、その法律に基づいて真剣に裁判され、結果囚人に賠償金が払われたことで人権の平等がここに実証されたのです。
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