首藤まり子(Mariko SHUDO)
Mariko’s Wellness
Mental Health Counselor
精神科医・公認心理士(日本)
https://www.marikos-wellness.com


親のストレス、子どものストレス

― 家族の中をめぐる感情と、上手につき合うために ―

こんにちは。
心理カウンセラーの首藤まり子です。
これまでのコラムでは、海外生活のストレスや孤独感、不安との付き合い方、そして前回は「完璧主義」についてお話ししました。また、愛子先生からは女性のヘルスケアや男性の健康についてのお話もありました。

今回は少し視点を広げて、「親のストレス、子どものストレス」について考えてみたいと思います。

海外で生活していると、大人だけでなく、子どももまた新しい環境に適応しながら毎日を過ごしています。そして家族は、同じ生活の場を共有する存在です。一人の気分や感情は、良くも悪くも少しずつ家族内で伝わり、誰かが疲れていたり、イライラしていたり、反対に楽しそうだったりすると、その空気はなんとなく伝わります。

だからこそ今回は、「誰が悪い」「どうするのが正解」という話ではなく、家族の中を行き来するストレスや感情を少し離れたところから眺めてみるところから始めてみましょう。


子どもはストレスを言葉ではなく「行動」で表す

「最近、仕事が忙しくて余裕がない」
「環境の変化が続いて、少し疲れているみたい」

大人は、ストレスがかかっている自分の状態をある程度言葉にすることができます。
でも、子どもは必ずしもそうではありません。
例えば、
●いつもより怒りっぽい
●些細なことで泣く・ぐずる
●親から離れたがらない
●寝つきが悪い
●頭痛や腹痛を訴える
●学校に行きたがらない
●以前はできていたことを、急に嫌がる
こうした体調や行動の変化として、ストレスを表現することがあります。

もちろん、こうした行動のすべてがストレスによるものとは限りませんが、子どもにこうした変化が見られたときは、

「何かいつもと違うことが起きてるのかな」
「もしかすると、この子自身も何かに困っているのかな?」

という視点で子どもを観察してみましょう。それだけでも、こちらの気持ちが少し変化して、子どもへの声かけが変わり、少し落ち着いて向き合えることがあります。


気分や感情は伝わり合う

子どもは、大人が思っている以上に周囲をよく観察していて、また察することができます。親の表情や声のトーン、いつもと違う行動などから、「今日はなんだかいつもと違う」と感じ取ります。

親が疲れている。
子どもは心配や不安になり、いつもよりちょっと不安定になる。
それに対応する親は余裕がさらに少なくなる。
そこにまた子どもが反応する。

家族の中では、そんなふうにお互いの感情が影響し合う循環が生まれることがあります。
でも、ここで大切なのは、
「だから親がいつも穏やかでいなければならないわけではない」
ということです。

親も、親である前に一人の人間です。
疲れる日もあれば、イライラする日もあります。
気分や体調の波もあります。それはごく自然なことです。
「子どもの前ではいつも笑顔で」
「親のストレスを子どもに感じさせてはいけない」
それを過度に意識しすぎると、親自身が苦しくなり、それがまた新しいストレスになってしまいます。そして家族内での良くない循環が始まってしまうのです。
「気分が晴れない日もあるさ」
「今週は頑張れない週かも」
「来週は少し笑顔が増やせると良いな」
それくらいの気持ちで、親自身のあなたが、自分を追い込みすぎないようにしましょう。


いつも完璧な親でなくてもいい

子どもに強く言ってしまった。
余裕がなくて、話を十分に聞けなかった。
そんな日もあるでしょう。もちろん私にもあります。

大切なのは、一度も失敗しないことではありません。
もし失敗したな、と感じた時は、少し落ち着いたタイミングできちんと話をすれば良いのです。
「さっきは言い過ぎちゃった、ごめんね」
「今日は私もちょっと疲れていたみたい」
「あなたが悪かったわけじゃないの」

親子の関係は、その一瞬のやり取りで決まるものではありません。

うまくいかなかったと気付いたときに、また声をかけ直す。距離が離れすぎたと思ったら、少し近付いてみる。
そんな小さな「やり直し」も、親子関係の大切な一部であり、そのやり取りを通して、子供は人との関係や信頼について学んでいくこともあります。


子どもを落ち着かせる前に、自分を少し整える

子どもが泣いている。怒っている。「学校に行きたくない」と言っている。
そんなとき、親自身に余裕がなければ、

「早くして」
「そんなことで泣かないの」
「どうして分かってくれないの?」

と、つい言ってしまいます。
そんな自分に気づいたら、子どもをなんとかしようとする前に、まず自分の状態を少し観察してみるのも一つの方法です。

「私も今、かなり疲れているかも」
「今日は余裕がないな」
「いつもならもうちょっと優しく待てるのに」

そういうちょっとした気付きでも構いません。
そして考えるのと同時に、ほんのわずかな時間を使って、冷静になれる方法を取り入れましょう。
部屋を移動して、1回深呼吸。
水を飲む。手を洗う。
可能ならパートナーと交代する。
今日やろうと思っていた家事を一つ諦めてみる。
そうして落ち着きを取り戻すと、少しだけ頭が冷静になり、子供に対してちょっとだけ穏やかな対応ができるかもしれません。
親自身のセルフケアは、親だけのためのものではありません。
親に少し余裕が戻ることで、子どもの感情を受け止める余白も生まれやすくなります。


「解決する」より先に、「そう感じているんだね」という共感

子どもが、
「学校に行きたくない」
「友達が嫌だ」

と言ったとき、大人はつい問題を解決したくなります。
「でも学校には行かなきゃ」
「そんなこと気にしなくていいよ」
「先生に言えばいいじゃない」

もちろん、最終的には解決策を一緒に考える必要があるかもしれません。
でもその前に、
「学校に行きたくないくらい嫌なんだね」
「何かあったのかな?」
「あなたはそう考えてるのね」

と、まず子どもが今感じていることを、そのまま受け止めてみる。それだけで、「味方がいる」「分かってくれる」と感じた子供は、落ち着きを取り戻し、自分なりに前へ進もうとできるようになるかもしれません。
感情を認めることと、子どもの要求をすべて受け入れることは同じではありません。「行きたくないんだね」と気持ちを受け止めながら、それでも学校へ行く方法を一緒に考えることもできます。
理解することと、何でも許すことは別なのです。


家族だけで抱え込まなくていい

親子の問題というと、つい「家庭の中でなんとかしなければ」と考えてしまいます。
でも、子どもを支えてくれる人は、親だけではありません。
学校なら担任やWellbeing担当、医療職ならGPや心理士・カウンセラー、また友人や家族、日本人コミュニティなど、家族の外にも頼れる場所があります。

そして、必ずしも最初から「子どもを専門家に相談させなければ」と考える必要もありません。まず親自身が誰かに話してみることから始めてもいいのです。誰かに話すことで、状況が整理されより良く見えるようになったり、問題解決のヒントや気付きが得られることもあります。


おわりに

家族だからこそ、お互いの感情は影響し合います。
親のストレスが子どもに伝わることもあれば、子どもの不安定さに親が疲れてしまうこともあるでしょう。
でもそれは「誰かが悪い」「誰かがダメだ」ということではありません。
家族だから、ストレスは伝わります。
でも家族だからこそ、安心もまた同じように伝わります。
親も子どもも、常に穏やかでいることはできませんし、その必要もありません。
イライラしたり、泣いたり、うまくいかなかったり。少し距離ができてしまう日もあるでしょう。それでも、また話をしてみる、笑顔を向ける、一緒にご飯を食べる。
そんな小さな「つながり直し」を繰り返しながら、家族・親子は安心できる場所になっていくのかもしれません。
もし今日のお話が、ご自身やお子さんのことを少し違った角度から眺めてみるきっかけになれば、とても嬉しく思います。


【次回予告】
次号は、富田愛子先生が「季節の変わり目に増える不調」をテーマにお届けします。
どうぞお楽しみに!

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