ジャパン/コンピュータ・ネット代表 岩戸あつし

■ ――変化の波を、どう乗り越えるか
オーストラリアの大手銀行ANZが3,500名の人員削減を発表したというニュースがありました。経営合理化の一環とはいえ、長く安定の象徴とされてきた銀行業界にも、新しい時代の波が押し寄せています。AIの発達、業務の自動化、リモートワークの普及――働く環境は想像以上のスピードで変化しています。

そしてこの変化は、決して遠い世界の話ではありません。私たち一人ひとりの仕事の形も、知らぬ間にAIやデジタル化の影響を受けています。数年前には当たり前だった「とび込み営業」「会議」「報告書」「顧客対応」のやり方が、いまやすっかり姿を変えています。

かつては、営業といえば足で稼ぐ時代でした。用件がなくても顔を出し、たわいない世間話をして信頼を育む――そんな昭和の光景が今では遠い記憶になりました。いまや新規顧客探しもネットが中心で、同じビルの会社にさえ気軽に立ち寄れません。便利さと引き換えに、仕事から「人のぬくもり」が薄れていったように感じます。変化の波は静かに、けれど確実に、私たちの足元を包み込んでいるのです。

オーストラリアに暮らしていると、ブルーカラーの賃金の高さに驚かされることがあります。下水道工事や電気工事の作業員が1時間あたり日本円で2万円近くを請求することもあります。もちろん弁護士や会計士といった専門職はそれ以上の報酬を得ていますが、いわゆる技能職の待遇が非常に高いのです。日本と比べると、その差は5倍から10倍に及ぶこともあります。

こうした動きは、今やアメリカや日本でも広がっています。アメリカでは物流や建設、整備などの現場で人手不足が続き、給与水準が上昇しています。中にはホワイトカラーの平均を上回る職種もあると報じられています。日本ではまだブルーカラーの賃金上昇は緩やかですが、低賃金労働を外国人に依存する政策には限界が見え始めています。社会全体が、人の仕事の価値を見直す時期に入っているのかもしれません。

かつては「ホワイトカラー=頭脳労働」「ブルーカラー=現場労働」と明確に分けられていました。しかし今では、どちらの仕事もテクノロジーと深く結びついています。事務職や金融業務はデジタルツールやAIによって効率化され、職人や技術者もデータ管理や自動化技術の理解を求められます。両者の境界は薄れ、仕事のかたちは多様に広がっています。

日本ではいまだに「長く勤めること」や「組織への忠誠心」そのものが評価されがちですが、世界の潮流はすでに「どれだけ学び続けられるか」「どれだけ変化に適応できるか」へと価値の軸を移しています。かつての常識や年功序列の仕組みが通用しにくくなる中で、私たち一人ひとりが自分のキャリアを主体的にデザインする時代が到来しています。

では、こうした時代にあってホワイトカラーが「生き残る」ためには何が必要でしょうか。僭越ですが、ここでは三つの視点から考えてみました。

①専門性を磨き、学び直しを続ける
一つのスキルだけで一生働ける時代は過ぎました。技術や経済の変化に合わせて、自分の知識を常に更新することが欠かせません。たとえば金融の人ならデータ分析、教育関係なら心理学やIT、AI活用など、「本業+α」の知識を身につけることが新しい価値を生みます。学び直し(リスキリング)は若者だけのものではありません。むしろ経験を積んだ世代ほど、現場感覚をもとにした学びが大きな力になります。

②「人にしかできない力」を磨く
AIは速く、正確ですが、人の心を読み取ったり、信頼関係を築いたりはできません。だからこそ、これからは「共感」「説明」「誠実な対話」が一層重要になります。医療、教育、営業、マネジメント――どの仕事も最終的には「人が人を動かす」世界です。相手を理解し、安心を与える力こそが、AI時代の最大の武器になるでしょう。

③テクノロジーを恐れず、味方につける
新しい技術を避けるより、積極的に使いこなす姿勢が求められます。AIを「脅威」ではなく「協力者」として捉え、自分の仕事をどう効率化し、どう創造的に変えられるかを考えること。それができる人は、どんな職場でも欠かせない存在になります。AIが資料を作っても、それをどう使い、どう人を動かすかを決めるのは人間です。

社会の変化は止められませんが、その波に流されるか、うまく帆を張るかは私たち次第です。
学び続け、人と関わり、技術を使いこなす――この三つを心に留めることで、どんな時代でも「必要とされるホワイトカラー」であり続けることができるでしょう。
次の変化の波が訪れる前に、私たちは何を学び、どんな人とつながり、どんな未来を描くのか――。
その問いを、今日から少しずつ考え始めてみませんか。

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