鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


社会恐怖(Social phobia)とも言われる疾患で人口の3-5%に影響があります。単純に内気とかはにかみではなく、毎日の生活にも悪影響をおよぼしたり鬱病、アルコール乱用、自殺観念などにもつながりうる問題です。あらゆる不安症のなかでも最も患者さんから治療を求めることが少ない疾患です。
発症は10代の初期から中期に多く、治療を受けなければ慢性的に続きます。効果的な治療はありますが、鬱病、全般性不安障害やパニック障害と比べ、治癒率は低めです。
オーストラリアで調査した結果、社会不安障害という診断にあてはまる患者さんの中で的確な治療を受けている人はわずか7%しかいないことがわかっています。
治療を求めなかった理由で最も多いのは人の助けを借りないで自分で改善したかったという意向です。
その他には助けを求めるのが怖かった、あるいは助けを求めたときの他人の目が気になった、どこに助けを求めればいいのかわからなかった、治療法があることを知らなかったなどです。

原因
一番大きな要因は遺伝的な陰性感情の気質のようです。このような因子は鬱病や不安症にもつながります。
家庭環境もこの疾患の表現に影響を与えます。例えば両親が不安になりがちな子供にその恐怖感に対して前向きに向かい合うような態度を教示すれば役立ちます。

症状
だれでも会議で人前で発表したりするときに不安や緊張を感じたりすることはありますが、社会不安障害の人は普通よりも強い不安を感じたり、そのような状況を避けることによって毎日の生活を障害なく生きることができなくなります。
また、この障害により、その人が持っている知性的、あるいは職業的な素質を充分に満たせなくしてしまう
こともあります。
社会不安障害の人が不安を感じるような状況は:
*会議などで発表したり、意見を言ったりする
*人前で電話をかける
*権威ある人(学校の先生や職場の上司)や良く知らない人と話をする
*多くの人の前で話したり、歌を歌ったりする
*趣味のサークル、PTA、ゼミ等のグループ活動に参加する
*レストラン、喫茶店、居酒屋等で飲食をする
*職場や学校など、人前で仕事をしたり字を書く
*会議やゼミ等他の人たちがいる部屋に入る
*人と目を合わせる
*来客を迎える
*自分を紹介される
このような状況の中でおこる症状は次のようなものです:
*手足が震える
*息が苦しくなる
*動悸がする
*大量の汗をかく
*顔が赤くなる
*声が出なくなる
*頻繁にトイレに行きたくなる

診断基準
あらゆる国の医療組織によって診断基準は多少異なりますが次のような基準が主なポイントです。
*よく知らない人と交流する、他人の注目を浴びるといった、1つまたはそれ以上の状況において顕著で持続的な恐怖を感じ、自分が恥をかいたり、不安症状を示したりするのではないかと恐れる。
*恐れている社会的状況にさらされると、ほぼ必ず不安を生じる。
*自分の恐怖が過剰であり、また、不合理であることに気づいている。
*予期不安、回避行動、苦痛により、社会生活が障害される。または、その恐怖のために著しく悩む。
*18才以下の場合は、症状が6ヶ月以上続いている。

治療法
大きく分けて薬物療法(SSRIなどの抗鬱剤)と認知行動療法(Cognitive behavioural therapy, CBT)があります。そのときの
状況により、どちらを選択するかが異なってきます。重度の鬱病も併発しているようでしたら抗鬱剤を早めに使用し、鬱の状態が回復してマイナス思考が少なくなってから認知行動療法をはじめたほうがいい場合もあります。また、二つの治療を併用することもあります。
どちらかといえば認知行動療法のほうが効果を長く維持できる傾向があります。抗鬱剤はいったん止めれば不安症が再発することがあります。

*薬物療法
現在抗鬱剤が効果のある治療法として認められています。その中でも SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻剤,Fluvoxamine, Paroxetine, Sertralineなど) と SNRI(セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害剤、Efexorなど) というクラスの抗鬱剤がより適切とされています。MAOI(モノアミン酸化酵素阻害薬)も多少の効果は認められますが、あまり薦められていません。
精神安定剤(ベンゾジアゼピン)も効果はありますが、依存症もおこりやすく、あまり薦められていません。
ベータ遮断剤は主に高血圧のために使われる薬ですが、脈拍数を下げるとともに不安からくる手の震えなどを抑える効果もありますが、最近では不安症の治療には薦められていません。喘息持ちの人が服用すると喘息が悪化するおそれもあります。
SSRI や SNRI の治療効果はすぐには現れません。抗鬱剤としての抗鬱効果が現れるよりも不安を静める効果のほうが時間がかかりますので、最低4-6週間は様子をみる必要があります。また、この薬の特徴として飲み始めた初期にかえって不安の症状が高まるということもあります。しかし、投薬を続ければこのような副作用も治まります。

*認知行動療法
この治療法の目的は不安を引き起こす場面に遭遇したときの窮迫を抑え、またそのような状況を避けようとする回避行動をなくし、毎日の生活がよりスムーズに送れるようにすることです。
この治療は経験のある心理療法士が患者さんの問題を細かく理解した上で治療のプログラムを組むことが大切です。患者さん自身の努力も必要とします。最低10-15回のセッションが必要となるでしょう。
成功すれば患者さんが難しい状況にたった場合に自分である程度対処できるようになっているはずです。認知行動療法の主なポイントを列記します。

◎エクスポージャー:不安症状をひきおこす状況に身を置き、不安症状が治まるまでの時間、その状況に身を置き続けることを繰り返し、不安症状や回避行動を少なくします。これは段階的に行うことが必要で、まず軽い不安をおこすような状況へのエクスポージャーから始めてみてその状況に慣れれば次の段階に進んでいきます。

◎社会技術訓練:(Social skill training)社会不安障害の人は自分が人との接し方が下手だと思いこんでいることが多いので実際に社交的な場面でどのように接したらいいのかを訓練します。

◎不安対処訓練:実際に不安になる立場に遭遇したときの対処法(リラクセーション、呼吸訓練など)を学びます。

◎認知修正法:自分が変だと思っている行動(例えば顔が紅潮したり発汗したり手が震えたり)が他人が実際に気づいているのか、あるいはそれほどに不快感や不信感を与えているのかということをよく見つめ直したり実際に確認したりして考え方を修正していきます。

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