鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


口内乾燥症はよくおこる症状で、主観的に口が渇いていると感じていて実際には唾液分泌減退がおこっている場合とそうではない場合とあります。もし、唾液の分泌が減っている場合、通常の分泌量の50%以下まで低下していると口の渇きという症状がおこるようです。唾液は味覚の認知、そしゃく (えん下および消化の準備として食物をかむことで, 歯ですりつぶし細かく砕く行為をいう)、食べ物の飲み込み、そして発語に欠かせない要素です。そして口の中で殺菌効果も発揮します。
唾液分泌が減っていなくて口の渇きを感じる疾患の一つに口内焼灼感症候群 (口腔粘膜は正常であるにもかかわらず, 患者が口内焼灼感を訴える状態. Burning mouth syndrome)というものもあります。不安症、鬱病でもこのような症状がおこることもあります。

唾液の分泌
右図のように、口の中に分泌される唾液は耳下腺、顎下腺、そして舌下腺の3つの臓器で作られています。
その他にたくさんの小さな腺が口腔内の粘膜層に散在しています。通常、1日で1L~1.5Lの唾液が生産されます。これは体内を循環している血漿からの限外濾過によってできるものです。ですから、水分摂取が少なかったりして脱水状態になれば唾液の分泌量も減少します。全唾液の60%~65%は耳下腺で作られ、食べ物を噛むという刺激に反応して耳下腺が唾液を分泌します。
耳下腺からの唾液は漿液性のもので、低張性でしかもアルカリ性です。
顎下腺、舌下腺、それに多数の小さな腺からはものを噛むという刺激がなくても絶えず唾液が分泌されています。この場合の唾液は粘液性で酸性です。顎下腺は漿液性の唾液と粘液性のものが混ざっています。耳下腺からの漿液性の唾液にはアミラーゼという酵素も含まれていて、澱粉を分解し、消化機能を持っています。その他の唾液腺から分泌される粘液性の唾液は口の中を保護し、潤滑液としての機能があります。

口内感想の症状
*口の乾き
*乾燥した食べ物を飲み込むことが困難になる
*入れ歯が使いにくくなる
*虫歯が多くなったり、口臭が悪くなる
*枯れ声、発語の困難
*口や喉の痛み
*口腔内のカンジダ

口内焼灼感症候群の場合、次のような症状もおこります。
*舌が焼けるような感覚
*唾液の質や粘液性が変化したような感覚
*味覚異常

唾液分泌減退の原因
*薬品
抗コリン作用(Anticholinergic)のある薬は唾液分泌を刺激する副交感神経の働きを抑え るので唾液分泌を少なくします。また、利尿作用のある薬(アルコールやカフェインを含む)は体内の水分を減らす効果によって唾液分泌を減少させることもあります。

*ショーグレン症候群(Sjogren’s syndrome)
自己免疫疾患のひとつで、体内の外分泌腺 (分泌物がしばしば導管を通して体表面に放出される腺、唾液腺も含む)に対して炎症反応がおこり、唾液腺の機能を低下させます。ショーグレン症候群は単独でおこることもあればリューマチ性関節炎、全身性紅斑性狼瘡(SLE)や硬皮症(scleroderma)などの膠原病と併発することもあります。口とともに目の乾きもおこります。唾液腺が腫れていることもあります。関節痛、レイノー現象 (手指の白色化, しびれ, 疼痛を生じる指動脈の攣縮. しばしば寒冷によって増悪し,指が赤, 白, 青に変色する)、脈管炎などを伴うこともあります。また、リンパ種(lymphoma)もときにおこる合併症です。

*類肉腫症(Sarcoidosis)
原因不明の全身性肉芽腫症で, 特に肺を侵し, その結果, 間質性線維症を起こします。 また, リンパ節, 皮膚, 肝臓, 脾臓, 眼, 指骨, および耳下腺も侵すことがあり、唾液分泌減退をおこすこともあります。

*内分泌疾患
尿崩症 (Diabetes insipidus,淡色で低比重の尿を大量に慢性的に排出し, 脱水と極度の口渇を伴う。通常は下垂体抗利尿ホルモンの分泌が不十分なために生じる)、糖尿病、それに甲状腺機能低下症でもおこることはあります。

*放射線治療
頭部、あるいは首の腫瘍の治療のために放射線治療を受けた場合、唾液腺に損傷が生じ、機能が低下することもあります。

検査
唾液の分泌量が正常かどうかを確かめるには実際に出た唾液を容器に採取してみることです。無刺激のとき(口を動かしていないとき)に30秒ごと、15分間採取した量が1.5ml以上なら正常です。また、刺激があるとき(口を動かして何かを噛んでいるとき)の唾液を同じようにして収集した場合、15分間で5ml以上なら正常といえます。
*イメージング
テクネチウム99を使って唾液腺を見ればその機能がわかります。ショーグレン症候群の診断に役立ちます。もし、唾液腺が腫れていた場合は超音波やCTスキャンで腫瘍などがないかを確認します。

*血液検査
血色素、白血球数、血沈、C反応性タンパク(CRP)、甲状腺機能、それに自己免疫疾患に関する血液検査も必要です。

*生検
ショーグレン症候群の診断がはっきりしない場合や唾液腺が腫れていて腫瘍などが疑われる場合などは生検で組織を採って検査をすることもあります。

治療
口の渇きだけで唾液分泌減退はおこっていない人、例えば口内焼灼感症候群と思われる人は口腔内科、あるいは口腔外科のような専門医で受診したほうがいいでしょう。唾液分泌減退がおこっている場合は次のような点に気をつけてください。
*人工唾液
スプレー、液体、あるいは薬用ドロップのようなものがありますが、自然の唾液とは成分も違い、消化作用や抗菌作用はありません。頻繁に使用しなければなりません。また、その代わりに炭酸水素ナトリウム(ベーキングソーダ)で口の中をゆすぐ方法もありますが、ゆすいだ後飲み込まずに吐き出さないといけません。

*乾燥防止
水分をこまめによく採るように注意し、口の中の衛生にも気を配らないといけません。また、エアーコンのよく効いている環境はなるべく避け、部屋の中に加湿器を置くと乾燥した環境を避けられます。

*虫歯予防
定期的に歯科医でチェックを受けることも大切です。クリーニングをしたり、フッ素治療も役立ちます。口の渇きに対処するためにソフトドリンクをよく飲む人もいますが、このような飲み物は糖分が多く、酸性でもあるので虫歯をおこしやすくします。

*唾液の刺激
ガムを噛んだりミントや飴などを舐めていると唾液の分泌が刺激され、口の渇きが癒されます。ただし、糖分のあるものは避けないといけません。

*カンジダ
入れ歯を使用している人は口腔内カンジダもおこりやすいようです。なるべく、一日最低2時間は取り外し、Chlorhexidineのような消毒液につけておくようにしてください。もしカンジダが発症すればAmphotericinのロゼンジやMiconazoleのジェルなどがあります。口角炎(口角部におこる炎症でカンジダ感染に伴う場合がよくある)の場合、Hydrozoleという塗り薬が効果的です。

*ショーグレン
この症候群とともに全身性の自己免疫疾患(リューマチ性関節炎、全身性紅斑性狼瘡や硬皮症など)もおこっている場合には消炎剤や免疫抑制剤などが効果があるかもしれません。

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