鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


ヒトの体の中には血管のほかにもリンパ管が全身に広がっています。全身の組織中の細胞と細胞との間の組織液は、毛細血管を経て血液中に戻りますが、一部(約10%)は毛細リンパ管に入り、静脈に送られます。この循環をリンパ系といい、その中を通る液をリンパといいます。
毛細リンパ管が合流し太くなったものがリンパ管で、多くの弁を持ち、とくに太いものでは弁のところがふくらみ、数珠(じゅず)状につながって見えます。
リンパ管にはところどころリンパ節(腺)というソラマメ状の丸いふくらみがついています。
リンパ節は新しいリンパ球や免疫抗体を産生し、細菌や異物を処理しています。リンパ管は、リンパ節を経由しながら、最後はリンパ本幹となって静脈に注ぎます。

右図のように首のまわりにはいくつかのリンパ節のグループがあります。
リンパ液が排泄されるルートは決まっていて、体の特定の部分から特定のリンパ節へリンパ液が流れていきます。
例えば、顎下部のリンパ節は頬、上唇、歯茎、鼻横、下唇の両脇、そして頤下部のリンパ節は下唇の中央部、口床部、舌先からリンパ液を収集しています。そして、体のその部分に感染症がおこったり、何らかの異常な変化がおこったときにリンパ節がその細菌や異物を処理しようとして反応をおこします。扁桃炎がおこったときに扁桃部のリンパ節が腫れたりするのはこの現象です。
ほとんどの場合、感染症が治まればリンパ節の腫れは徐々にひいていきます。
風邪や扁桃炎などの感染症以外に結核や癌などでリンパ節が腫れる場合もあります。また、首の周りにしこりを感じた場合、
必ずしもリンパ節の腫れが原因ではなく、その他の原因も考えられます。例えば甲状舌管嚢胞(甲状舌管の一部の開存によって起こる頸中央部に生じる嚢胞)、おたふく風邪、甲状腺の腫れ、膿瘍などがあります。

一般的には急に腫れたリンパ節で2週間以内に萎縮してしまうものは良性のものです。1年以上もあるリンパ節で、大きさが直径1cm以下でそのまま大きくならないものでしたらほとんど心配はありません。癌の可能性は年齢とともに高まります。
逆にリンパ節が徐々に大きくなったり、数が増えていったり、その他に全身症状(高熱が続く、寝汗をかく、理由もなく体重が減るなど)がおこっていたら要注意です。最も用心しなければならないのは結核、自己免疫疾患などの慢性疾患、それに癌です。癌の場合、リンパ腫、白血病、他の臓器からの転移などが考えられます。首のまわりのリンパ節が腫れている場合、鎖骨上部、脇の下、鼠径部のリンパ節が腫れているかをチェックしておかなければなりません。また、肝臓と脾臓の肥大がないかということも確認します。

リンパ節症の原因

原因 首のまわりだけのリンパ節肥大 全身のリンパ節症
感染症 ★バクテリア感染(例えば連鎖球菌性の扁桃炎)
★結核
★口腔内の感染症
★歯の感染症
★首や顔の皮膚の感染症
★ ヴイールス感染
ー伝染性腺熱(Epstein-Barr virus)
ーHIV
ーサイトメガロヴイルス(CMV) など
★頭部や頸部の癌 ー 口腔咽頭部、鼻咽頭部、喉頭部、甲状腺
★食道
*鎖骨上部のリンパ節が腫れている場合は肺がんや胃がんからの転移が考えられる
★ 血液性の癌
ーリンパ腫
ー非ホジキンリンパ腫
ーホジキンリンパ腫
ー白血病
ー急性
ー慢性
薬品 ★フェニトインやカルバマゼピンなど の抗てんかん薬でリンパ腺が腫れることもある
その他 ★菊池病 (自然に軽快する発熱を伴うリンパ節腫脹を特徴とする病因不明の壊死性リンパ節炎. 多くは若年日本人女性に起こるが他の国でもみられる) ★全身性紅斑性狼瘡(発熱, 脱力感, 易疲労性, 関節リウマチに似た関節痛や関節炎のほか,顔面, 頸部, 上肢にびまん性の紅斑性皮膚病変をきたす. リンパ節腫大, 胸膜炎, 心膜炎, 腎糸球体病変など種々の所見)
★サルコイドーシス(原因不明の全身性肉芽腫症)

癌の疑いが高いケース
ー4週間以上続くリンパ節の腫れ
ー年齢50歳以上
ー6ヶ月間において体重が10%以上落ちた場合
ー寝汗
ーリンパ節の触感 ー 硬く、周りの組織に癒着している様子

検査
*血液検査
ー非定型のリンパ球が見られたら腺熱 (Epstein-Barr virus)の診断に役立ちます。白血球数が多ければ何らかの感染症がおこっ
ているかもしれません。あるいは白血球の中でもリンパ球の数が異常に上昇していれば慢性リンパ性白血病が疑われます。リンパ腫の場合は通常血液検査で診断することはできません。
*映像検査
ー胸部レントゲンで肺結核、サルコイドーシス、ホジキンリンパ腫などの所見が見つかるかもしれません。また、胸部のCT、あるいは腹部のCTや超音波検査も必要となるかもしれません。
*生研(Biopsy)
ーもし診断がはっきりとせず、癌や結核の疑いが高い場合は最終的には腫れているリンパ腫から細胞を採って組織検査をしなければなりません。細い針を患部に入れて組織を採る針生研(Fine needle aspiration biopsy, FNAB)は比較的簡単で負担の少ない検査法ですが、患部の的確な部分に針が入らなかったりして偽陰性の結果が出ることもあります。リンパ節自体を取って細胞検査をする切除生研(Excisionbiopsy)のほうが診断率が高まります。少数の細胞しか収獲できない針生研に比べ、この方法でしたら充分の細胞がとれ、しかもリンパ節の中の細胞の構築もわかりますのでリンパ腫などの血液癌を診断するには大事な検査です。全身麻酔が必要となることもあり、身体への負担は針生研よりも大きいかもしれません。

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