鳥居泰宏/ Northbridge Family Clinic


 

子宮筋腫とは子宮壁にできる筋肉、繊維質の腫瘍です。腫瘍といっても悪性のものではなく、癌ではありません。無症状のことも多いので、実際の発生率は確かではありませんが、50歳代までには約45%の女性が子宮筋腫を持っているのではないかと推測されています。初潮以前には希で、閉経後には萎縮します。妊娠中や、閉経後に顔面紅潮などのためにホルモン補充療法をしている場合は筋腫は拡大するかもしれません。

子宮筋腫の症状

全く症状がない場合もあれば様々な症状がおこることもあります。筋腫の大きさや子宮壁の中の位置によって症状も変わってきます。次のような症状が含まれます。
*月経過多-出血が多くなるのにはいくつかのメカニズムがあります。子宮内粘膜の表面積が増えること、子宮の血行が増えること、子宮の収縮性が筋腫があることによって劣るなどということがあげられます。
*痛み-有茎性の筋腫の茎の部分がねじれて筋腫への血行が止まり、筋腫が壊死したり、粘膜下筋腫を筋腫が収縮して押し出そうとしているときなどに痛みがおこることもあります。
*頻尿-筋腫が大きいと膀胱を圧迫し、膀胱の許容量が小さくなることによって頻尿になります。
*便秘-やはり筋腫が大きいと腸にも圧迫がかかり、便秘になるかもしれません。
*不妊症-卵管の機能に弊害をおこしたり、子宮に受精卵が着床しにくくなったりして妊娠しにくい場合もあります。

子宮筋腫の塞栓形成(Uterine fibroid embolizatrion, UFE)

子宮筋腫治療のもう一つの選択肢として1995年から行われている治療手段です。全身麻酔を必要とせず、局部麻酔で鼠径部の大腿動脈からカテーテルを入れ、両側の子宮動脈に細かいプラスチックの粒子を注入して子宮動脈を塞ぐ方法です。子宮腺筋症の治療にも効果があります。筋腫や腺筋症の細胞を壊死させますが、通常の子宮筋層の細胞は虚血に耐えることができ、壊死しません。筋腫の大きさを縮小させることによって生理痛、月経過多、それに子宮からの圧迫によっておこる症状(頻尿や便秘)を改善します。
子宮摘出術による症状の改善に匹敵する効果があるようです。
利点は入院期間が短縮(1-2日)され、日常生活にも早く復帰(~1週間)できるということです。患者さんの満足度は90%程度です。治療後数時間は痛みがあるかもしれません。軽い鎮痛剤、あるいは消炎剤でコントロールできます。また、軽度の発熱、倦怠感、吐き気、嘔吐、それに軽いおりものを経験する人もいます。最も注意しなければならない合併症は子宮内膜炎です。発症率は約2%です。抗生物質の投与で対処します。
もし抗生物質で治まらなかったり、痛み、出血がひどければ子宮摘出が必要となるかもしれません。子宮摘出にまで至るリスクは0.25~1.6%です。

UFE後の生理

閉経に間近い年齢でしたら生理が止まることもありますが、若い年齢層の人は卵巣機能は通常通り継続しますので生理は続けておこります。

UFE後の妊娠

子宮筋腫の塞栓形成を行った後卵巣が機能し、生理がある人でしたら妊娠は可能です。出産時の赤ちゃんの体重は筋腫のない人と比較して劣らなかったようです。ただし、この治療を必要とする人は元々子宮筋腫があったわけで、子宮筋腫が全くない人と比べれば流産、帝王切開、分娩後出血などは多少おこりやすくなります。

平滑筋肉腫(Leiomyosarcoma)

子宮の筋肉細胞に変化がおこり、平滑筋肉腫という癌が発生することもありますが、希です。MRIや超音波検査、それに子宮筋腫の成長速度などによってこの癌を筋腫と区別することは困難です。手術で摘出された子宮から平滑筋肉腫が発見される確率は0.2~0.5%です。子宮筋腫の塞栓形成を行った後で経過が思わしくなく、筋腫が縮小していなかったり映像検査で疑われるような結果が出れば子宮摘出が薦められます。

子宮筋腫の塞栓形成に適さない筋腫

右図の有茎粘膜下筋腫や子宮内部に張り出しているような粘膜下筋腫は適していません。このような筋腫が壊死した場合、子宮内に落ち、子宮頸部で詰まってしまう恐れがあります。子宮頸部から取り除かなければなりません。ですから子宮筋腫の塞栓形成をする場合、あらかじめ筋腫の位置を確認しておかなければなりません。

子宮筋腫のその他の治療法

*投薬治療:避妊ピルは出血量を抑える効果はありますが、かえって筋腫を大きくさせることもあります。Cyclokapronという抗線維素溶解剤も生理の出血量を減らすことができます。血栓塞栓症をおこす危険もあるのでこのような既往歴のある人には禁忌です。性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)作用薬(Zoladexなど)は脳下垂体から分泌されて子宮を刺激するホルモンを抑制する効果があり、人工的に閉経をおこします。それによって筋腫を縮小させる効果がありますが、更年期症状をおこしたり長期間の使用では骨粗鬆症をおこす危険もあるので、手術がしやすくなるように子宮摘出術の前に子宮を小さくしておくための使用に限られます。
*Mirena:子宮内に挿入しておいて黄体ホルモンを放出するシステムで避妊に使用するとともに月経量を減らす効果があります。筋腫がある場合、子宮の内壁が筋腫のためにどの程度歪んでいるかによって効果に差がおこり、必ずしも月経量を少なくする効果は得られないかもしれません。また、妊娠を希望している患者さんには適していません。
*子宮内膜剥離術(endometrial ablation):電気、マイクロウェーブ、放射線、レーザーなどによって子宮の内膜を破壊する方法です。粘膜下筋腫や壁内筋腫によって子宮の内壁が歪んでいる場合、このようなエネルギー源が子宮壁をむらなく照射できず、効果が薄れるかもしれません。筋腫事態を縮小させることはできないので大きな筋腫の圧迫からくるような症状(頻尿、便秘)などは改善されません。もちろん、妊娠を望んでいる人には不適切です。
*子宮鏡下切除術(Hysteroscopic resection):子宮の内壁に突出しているような小さな筋腫の治療に適しています。ただし、子宮の外壁との間の厚みがあまりない筋腫の場合、この治療法では子宮壁を貫通し、周りの臓器に損傷を来す危険もあります。短期的には生理痛を抑える効果がありますが、新しい筋腫の発生などにより症状が再発することもあります。
*筋腫核出術(Myomectomy):大きな漿膜下筋腫(子宮の外壁に近い筋腫)の摘出に適しています。主に大きな筋腫からおこる圧迫症状を緩和するために行われます。単純な子宮摘出術よりも技術的に難しく、術中の出血が多かったり術後に周りの臓器(腸など)との癒着などもおこる可能性も出てきます。月桂過多にはあまり効果はありません。
*子宮摘出術(Hysterectomy):もし、平滑筋肉腫のような癌が子宮内にあると断定できるような場合は子宮を摘出しなければなりません。子宮筋腫や腺筋症の場合、子宮摘出以外の選択肢が上記のようにいくつかありますので、このような治療法で症状が改善されなかった場合の最終手段として位置付けられます。子宮筋腫の塞栓形成術と比較すると、子宮摘出の場合、全身麻酔 が必要ですし、入院日数も長く、日常生活に復帰するまでには4-6週間かかります。

子宮腺筋症(Adenomyosis)について

子宮腺筋症は子宮内膜が子宮の筋肉層の中にできる疾患です。子宮内膜は子宮の内壁を覆うもので、妊娠すれば赤ちゃんが着床して育っていくためのベースとなりますが、その月に妊娠しなかった場合は女性ホルモンと黄体ホルモンの作用により剥がれ落ちて生理となります。この子宮内膜が子宮内ではなく骨盤内の卵管や卵巣、あるいは腸や膀胱にもできる疾患を子宮内膜症といいます。生理痛、月桂過多、不妊症などをおこします。原因はわかっていません。子宮腺筋症も子宮動脈塞栓方で治療できる疾患です。

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