鳥居泰宏/ Northbridge Family Clinic


 

斜頭症とは静的仰臥位(長時間仰向けで寝ること)によって頭蓋骨に圧迫がかかっておこる頭の歪みです。頭蓋骨には下図のようにいくつかの骨が組み合わさってできています。


乳幼児のあいだ脳が発達して大きくなっていく期間中は頭蓋骨もそれに伴って大きくなっていかなければならないので骨と骨の間の部分は融合されていません。骨が融合するまでは強い繊維組織でつながれています。2歳前後で骨は融合しますが、何かの理由で骨の融合が早くおこってしまうことがあります。これを頭蓋骨早期融合症といい、早期融合した骨によって頭の形が違い、斜頭症との区別がつきにくいこともあります。
斜頭症の場合、いくつかの点に気をつけて様子を見ていれば赤ちゃんが成長して座れるようになれば改善されていきますが、頭蓋骨早期融合症の場合は外科的な手段をとらないと脳に圧迫がかかり、脳障害をおこす危険性もあります。
斜頭症から脳障害がおこることはありません。

斜頭症

原因はいくつかありますが、最も多いのは長い時間仰向けの姿勢で寝ている事です。
*静的仰臥位による圧迫:これは特に乳児突然死症候群がうつ伏せの姿勢で寝ると起こりやすいということが判明し、赤ちゃんを仰向けに寝かせることが薦められるようになってから絶壁頭の症例が急増しました。乳児突然死症候群の発症率はそのかわり激減しています。
*胎内で、あるいは分娩時におこった成形:多胎妊娠(狭い胎内での押し合いによる圧迫)や未熟児の場合(頭蓋冠が比較的柔らかいので)おこりやすくなります。また、出産後仰向けで寝るようにしていれば出産時の変形はしばらく続きます。
*斜頚(左右どちらかの胸鎖乳突筋が縮んでいる場合)頭が絶えず縮んでいる方にかたむいているので頭蓋冠に変形をおこすこともあります。
*脊柱側弯でも斜頚と同じ原理で頭が左右どちらかに絶えず向いていると頭蓋冠の変形がおこることもあります。

斜頭症の診断と対処法

特に検査をしなくても長時間仰向けで寝ているという経歴からほとんどの場合は判断できます。また、斜頭症からくる頭蓋冠の変形と、頭蓋骨早期融合症による変形とでは微妙な違いもあります。診断が確かでなかったり親の不安がある場合には頭部レントゲンをまず撮ってみます。レントゲンだけではっきりしない場合は頭部CTスキャンも撮ることもあります。大切なことは頭蓋骨早期融合症の場合は早めに診断し、早めに対処することです。

*斜頭症の対処法で一番大事なのは寝ているときの体位です。乳児突然死を防ぐにはやはり仰向けに寝かせることが大事ですが、頭の向きをよく変えることが必要です。これには多少の工夫をしなくてはなりません。片方の頭の後ろにタオルや枕を置いたり、赤ちゃんの注意を引くようなおもちゃを顔を向けさせたい側においたり、天井からおもちゃを吊ったりしてみることです。また、窓を見たり、壁に掛かっている絵を見たりするのが好きなようでしたら毎回寝かせる時にコットの向きを変えたりなどという手段もあります。
*起きていて観察していられる時間帯にはなるべくうつ伏せにして遊ばせてあげるようにしてください。
*斜頚により決まった向きでしか眠れないようでしたら物理療法士にかかり、縮んでいる胸鎖乳突筋を伸ばす体操をしなければなりません。このような手段で斜頚が改善されない場合は外科的治療が必要となることもあります。
*ひどい斜頭症の場合、特殊なヘルメットを使用することもありますが、この方法の効果は専門科のあいだでも意見がわかれています。頭の向きに注意するだけで自然に頭の形が正常化していくのを待っている方法に比べ、結果が現れるのは早いかもしれませんが、長期的には有利な点はなさそうです。

頭蓋骨早期融合症の主なタイプ

頭蓋縫合早期癒合症は、主として頭蓋骨縫合のみが早期に癒合する非症候群性と、頭蓋に加え顔面骨などにも発育障害をみる症候群性に分類されます。前者には短頭蓋(両側冠状縫合の早期癒合)、舟状頭蓋(矢状縫合の早期癒合)、三角頭蓋(前頭縫合早期癒合)などが、後者にはクルーゾン病、アペルト症候群などが含まれます。

舟状頭(Scaphocephaly)
矢状縫合の早期融合によっておこり、三角頭とともに、最もよくおこる頭蓋骨早期融合症です。頭は前後に細長いのが特徴です。頭頂の真ん中に隆起があり、おでこも出っ張っています。女子よりも男子に多くおこります。
融合した部分の長さによって頭の変形の度合いも変わります。
治療をしないと頭蓋内圧が上昇したり言語の発達が遅れたりします。神経的な問題以外に外見上の偏見によりいじめを受けることもよくあります。
骨の早期融合があることが確認されればほとんどの場合は外科治療が必要となります。手術のタイミングは発見された年齢にもよりますし、医師の間でも多少意見が違ってくるようです。非症候群性で単純な融合だけでしたら生後3ヶ月以降でなるべく早めにするようです。この場合、早期癒合がおこった骨縫合を除去する比較的簡便な術式ですみます。症候群性で顔面骨の発育障害も起こっているような場合は頭蓋骨の複数の骨を分解して再構築するというような複雑な手術をしなければならないこともあります。

三角頭(Trigonocephaly)
前頭縫合の早期融合によっておこる頭蓋骨の変形です。眉間から大泉門にかけて隆起があり、両側頭部が狭く、後方の頭頂後頭部が突出して前部から後部に向かって広がる三角形のような形が特徴です。両目が異常に接近している現象も見られます。この頭蓋骨の異常と脳神経との関連ははっきりとしていません。前頭部の骨の異常が脳に圧迫をかけるのか、それとも脳の前頭部の未発達が骨の異常をおこすのかはわかっていません。わかっているのは三角頭の異常がある場合、発育異常や行動異常がおこるリスクが高いことです。軽い異常でも注意深いフォローアップが必要です。頭蓋骨の形の異常が軽い場合は手術は必要ないようです。あまりにも変形がひどければ手術で修正しますが、必ずしも手術をしたからといって認知行動異常のリスクを低めるということでもなさそうです。

前頭斜頭症(Frontal plagiocephaly)
舟状頭と三角頭に次いでよくおこる頭蓋縫合早期癒合症です。
女児:男児比は7:3です。
片側の前頭骨が退縮し、平らになり、眼窩上に隆起があり、同側の眉毛が吊り上がっているのが特徴です。
融合部分は冠状縫合の内側ではなく、外側がまず起こり、頭蓋骨の測底部の蝶前頭縫合まで達します。そのため、顔が成長とともに徐々に歪んでいきます。この頭蓋骨の異常では脳神経的な異常がおこることはまれで、外観的な異常からくる精神面への影響が主な問題点です。
この疾患に関してはなるべく早めに治療を施すことが大切です。できれば生後3-6ヶ月のあいだに手術をすれば自然な脳の成長によって正常な頭蓋骨の成長が保たれ、ほとんど顔の歪みはおこらずにすみます。もし、診断がおそく、すでに顔の変形が顕著な場合は治療も複雑で技術的に困難となります。

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