ジャパン/コンピュータ・ネット代表取締役 岩戸あつし

 

次の日もプロバイダーが送ってくれたテキストのリンクから呼び出して、どうなっているのか様子を聞いたが、かけて来たオペレーターは昨日の人ではなく、「なんの問題か」と聞かれた。私はケース番号で参照すれば、今までの経過が書かれていると思うのでそれをまず読んでほしいとリクエストした。オペレーターは記録を読んだようだったが、どうも詳しくは記録されていなかったらしく、昨日テクニシャンが言った「電話ケーブルが切断されたのが原因」ということはメモには書かれていなかったようだ。そこでまた一から説明したが、「それならまだ直っていないので、直ったら連絡する」というなんともそっけない情けない返事だった。

そして1週間過ぎて私の携帯に電話があった。もうそのころには、もうどうでもいいわという厭世観が私のなかに漂っており、最初の勢いはすでに失われていた。オペレーターは、「電話を修復したのでチェックしてほしい。」と言った。私はその時家にいなかったので、家に帰ってからチェックすると返事した。夕方家に帰ると電話は正常に戻っていた。ただインターネットはまだ不通で、何度テストしてもうまくいかなかったため、また例のテキストのリンクでオペレーターを呼び出した。もちろん今まで話したことのないオペレーターが出て、電話は直ったが、インターネットはまだ繋がっていないことを告げると、そのケースは別のケース番号になると言って新しいケース番号をくれた。そして、Due Dateはそれから1週間後になると。私は驚きあきれ、電話を切ろうとするオペレーターに待ったをかけ、「最初から電話とインターネットの両方の故障だと言ってある。なぜ一つ一つしかできないのか?」と文句を言ったが、そのような規則になっており、彼女は規則に則って働いているだけでそれ以外の権限はないとのことであった。それなら上司と話したいと言ったが、上司に話しても同じで上司もシステムを変えることができないと。では誰が最終的な責任者なのかと聞いたら、「さあ」という返事だった。

つまりこういうシステムなのだ。まず一件一件毎に担当者を置くことはせず、最終責任者を明確にしない。ケース番号を元にその都度出たオペレーターが対応する。オペレーターはその時の処置をケースノートに書き込んで記録する。ただ技術的なことに関してはおそらく担当者がある時点から存在するはずであるが、それは客には伏せられている。このシステムの事業者側のメリットとしては、
1)従業員が客とトラブルになるのを回避できる
2)従業員が休んでも他の従業員がカバーできる
3)海外のコントラクターがサポートしやすくなる
このことで、客は誰に腹を立てたらよいのかわからなくなり、日本でよくあるところの「責任者出て来い!」、「上司を呼んで来い!」と言った決め台詞が使えなくなる。逆にディメリットを考えると数限りない。しかし、気に入らないから他のプロバイダーに移行したいと思っても、他も同じシステムであれば同じ問題が将来起こる可能性がある。つまりオーストラリア全体がこのような状態なのだ。

日本人にとっては無責任で腹立たしいシステムであるが、しかし日本のシステムが必ずしもよいかどうか、このことも反省する必要があると思う。たとえば、担当者を置いた場合、客にとってはよいことだが、担当者にとってはかなりのストレスになる。休みも取れないかも知れない、定時で家に帰れないかも知れない。生命にかかわるような職種、たとえば医者の場合、担当医は長い休暇を取ることができないだろう。オーストラリアでも担当医はあるが、その医者がいない場合は、他の医師が代わりを勤めるようになっていて、医者でも2,3ヶ月の長期休暇を取っている人がざらにいる。日本では客は神様であり、それは客にとってとてもうれしいことだが、売り手は奴隷のような扱いを受けることがある。買い手は何を言っても許されると勘違いしている人もいる。先進国ではおよそ買い手も売り手も平等ということになっている。

以前にも書いたかも知れないが、私の知っているシドニーにある会社は、世界中を電話サポートしている。各国の担当が3,4名いて対応しているが、その中で日本語スタッフの交代が一番激しい。その理由として、客からの激しいクレームに耐えることができず辞めていくという。日本人は自分では認めないが、電話業界ではクレーマーに分類されている。細かいことに拘りすぎて、寛容の心を失う。普段は紳士的で大人しいといわれる日本人も、客の立場になると、相手のミスや怠慢を見逃すことができず、寛容を忘れとても攻撃的になる。それは、お客様は神様という三波春夫が言った台詞が一人歩きして、さも神様の言葉として崇められているよう思われる。

日本では負わされた責任が重過ぎて自殺する人たちがいる。サービス残業、ブラック企業、過労自殺、オーストラリア人から見れば考えられないことだ。日本のみなさんに問う、お客様は神様なのか、それとも客も売り手も平等なのか。そしてどちらにしてもそのベストな運用方法とは?

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