情報提供:アドバンテージ・パートナーシップ外国法事務弁護士事務所
国際仲裁弁護人・国際調停人 堀江純一(国際商業会議所本部仲裁・調停委員)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)専門家
オーストラリアの駐在員に適応される労使法
概要
従業員が海外子会社からオーストラリアに出向する場合、オーストラリアの公正労働法(Fair Work Act 2009)は適用されるのでしょうか。判例を見ながら、出向契約の場合にどの国の労働法が適用されるのか、また出向の条件がこれらの法律に準拠するのか、考えます。
従業員が海外子会社からオーストラリアに出向する場合(「受入従業員」)、オーストラリアの従業員に関する法律は適用されるのでしょうか? 1つの国に数年間住んで働く、という伝統的な駐在員制度は最近、1年未満の赴任、ローテーション赴任、転勤など、より柔軟な制度に取って代わられつつあります。
出向契約は、雇用主が従業員を一時的に別の部署、事業、オフィスに配属することを決定することです。社外出向とは、従業員を一定期間、社内ではなく社外の受け入れ組織に異動させることです。出向先は、地元、国内、あるいは海外でも可能です。社外出向は、通常、専門的なパートナーシップを結んでいる企業や、州をまたいで海外に事務所を構えている企業の間で行われます。
このような取り決めを実施する際には、どの国の労働法が適用されるのか、また出向の条件がこれらの法律に準拠するのかを検討することが重要です。準拠法条項(その契約の法的解釈をする場合に、どの国の法律を基準とするかについて取り決める条項)で、特定の国の法律が適用されることを指定しても、雇用関係が他国と十分に関連している場合は、必ずしも強制力を持ちません。雇用関係が特定の国と十分に関連している場合、一般的にはその国の労働法が適用されます。オーストラリアの公正労働法(Fair Work Act 2009)と同様に、多くの国で従業員の最低限の権利と保護を規定する法律が制定されています。
譲渡条件に準拠法条項を含めることにより、当事者は契約関係を規制する法律を選択することができます。しかし、次のような場合、当事者は、A国の労働法をB国の労働法より選択することはできません。
a)当事者関係の実態において、雇用がB国に関連していることを示している場合
b)B国の法律を施行することが、B国の公益に資する場合
一般的に、海外の従業員をオーストラリアの企業に出向させる場合、例えば、株式会社Xが、従業員をXインターナショナル株式会社に出向させる場合、オーストラリアの法律が適用されます。
<判例>
出向従業員に対する公正労働法の適用については、2014年にオーストラリア連邦裁判所の一判事が下した判決であるFair Work Ombudsman v Valuair Ltd(No2)16(以下、Valuair)で検討された。Valuairの判決は、インバウンド従業員に対する公正労働法の適用を判断する上で関連性がある。本判決の中心的なポイントは比較的単純で、公正労働法または「現代の裁定」が適用されるためには、状況全体を考慮した上で、雇用関係が「オーストラリア国内」でなければならないということである。Valuairの判決を下した裁判所によれば、公正労働法が適用されるのは、オーストラリアと十分な雇用関係があり、オーストラリア「内」の場合のみであるとした。公正労働法は、オーストラリア国内で実質的に働くこと、またはオーストラリアを長期間拠点とすることを目的として、オーストラリア国外で形成された関係にも適用される可能性がある。
Deane裁判官によるNew South Wales v Commonwealth(1990)169 CLR 481 at 504;Gardner v Milka-Ware International Ltd[2010]FWA 1589 at[24]では、インバウンド従業員に対する公正労働法の適用を検討する目的上、外国法人とは、単に連邦外に設立された法人を指す、としている。
オーストラリア連邦裁判所の全法廷は、Cummins South Pacific Pty Ltd v Keenan[2020]FCAFCにおいて、インバウンド従業員に対する長期勤続休暇法(LSL法)の適用について検討した。従業員であるキーナン氏は、米国に本社を置くカミンズの英国子会社に英国で雇用されていた。1995年にオーストラリアのビクトリア州に赴任するまで、13年間英国で雇用された。ビクトリア州への赴任後、キーナン氏はオーストラリア法人であるCummins Australia Pty Ltdで雇用された。
裁判所は、キーナン氏の34年に及ぶ「全体的な勤務」は、ビクトリア州での勤務とみなすことができるとした。注目すべきは、キーナン氏がオーストラリア法人に雇用された期間は勤続年数全体の60%に相当するが、ビクトリア州内で勤務したのは勤続年数34年のうち20年にすぎないという点である。裁判所は、最後の20年間はビクトリア州で勤務していたという事実を強調した。裁判所は、受給資格が発生した時期に最も近い年数が重要であるとの見解を示しており、この点が裁判所の判断に大きく影響したようである。
注意事項:
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