情報提供:アドバンテージ・パートナーシップ外国法事務弁護士事務所
国際仲裁弁護人・国際調停人 堀江純一(国際商業会議所本部仲裁・調停委員)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)専門家

商業用賃貸借契約を締結する前に

商業用リース契約は、事業主が貸主の所有する不動産を借りるための契約です。多くの企業は、資本投資が少なくてすむため、不動産を購入するより賃貸物件を借りることを選択します。リース契約はリース条件を定めるものであり、テナントの業務や財務状況に影響を与えます。オーストラリアの商業用リース契約について考察します。

概要
商業用賃貸借契約(Commercial Lease:以下、「商業用リース契約」)の締結は、オーストラリアで事業を営むために物理的なスペースを必要とする企業にとって重要なステップです。商業用リース契約は、貸主が所有する不動産を借りるための、貸主と事業主との間の契約です。多くの企業は、不動産を購入するよりも、商業用リース契約を締結し、賃貸物件を借りて事業を運営することを選択します。その方が、資本投資が少なくてすむからです。商業用リース契約はリース条件を定めるものであり、テナント(借主)の業務や財務状況に影響を与えます。

商業用リース(賃貸)契約
商業用リース契約における法律は、居住用物件の賃貸借契約の法律とは異なります。ニュー・サウス・ウェールズ州では契約に関するコモン・ローが適用され、リース契約がその条件を決定します。トーレンス・タイトル(Torrens title:土地登記制度)の土地でリース期間が3年以上の場合、借主の独占的占有を保証するためにニュー・サウス・ウェールズ州土地財産情報局に登録しなければなりません。また、商業用リースに適用される法律には「1919年譲渡法(Conveyancing Act 1919)」「1900年不動産法(Real Property Act 1900)」など、小売店に関するリースについては「1994年小売店リース法(Retail Leases Act 1994)」などがあります。

不文律条件
ニュー・サウス・ウェールズ州の商業リース契約には、コモン・ローと法令により、いくつかの不文律条件があります。これらの条件には以下のものが含まれます。
・借主は建物を良好な状態に維持すること
・借主は賃料を支払うこと
・借主が貸主に物件を検査することを許可すること
・借主が賃貸条件に違反した場合、または賃料を滞納した場合、貸主が建物に立ち入ることを許可すること

考慮事項
オーストラリアで商業用リース契約を締結する前に、借主が十分に検討すべき主な考慮事項を以下に挙げます。

(1)リース期間と更新オプション
リース期間の把握は極めて重要です。借主は、当初のリース期間、更新オプション、延長に伴う条件を認識しておく必要があります。長期のリース契約は安定性を、短期のリース契約は柔軟性を提供します。

(2)賃料と支払い条件
家賃の金額、頻度、そして、いつ、どのように家賃が上がるかを示すエスカレーション条項の有無を確認しましょう。総支払額を把握し、事業予算との整合性を確認することが重要です。

(3)営業経費と支出
商業用リース契約では、多くの場合、借主が維持費、光熱費、不動産管理費などの経費の一部を支払う必要があります。借主は、どの費用を負担するのか、どのように計算されて請求されるのかを確認する必要があります。

(4)賃料見直しの仕組み
商業用リース契約には、貸主が定期的に賃料を見直し、調整できる条項が含まれる場合があります。借主は、そのような賃料の見直しの仕組みについて理解しておくべきです。賃料の見直しが、固定的なパーセンテージによるものか、外部指標(消費者物価指数:CPI)に連動したものかを理解しておく必要があります。

(5)使用とゾーニングの制限
商業用リース契約には、現地のゾーニング規制に従って、施設等の許容される用途を明確にしておくべきです。施設等が意図した事業目的に使用できるか確認することは、法的な複雑さを避けるために不可欠です。

(6)修繕とメンテナンス
借主と貸主双方のメンテナンス責任を理解しておくべきです。商業用リース契約では、修繕、改築、構造改善について、誰が責任を負うかを定めている場合が多いです。

(7)敷金と保証金
借主は、必要な保証金と、貸主が保証金を使用できる条件を知っておく必要があります。また、契約によっては、借主に個人的な責任を負わせる個人保証を伴う場合もあります。

(8)譲渡と転貸
賃貸スペースの譲渡や転貸に関する条項を検討しましょう。これらの条項は、借主がリース物件を他者に譲渡、または他者に転貸できるかどうかを定めています。

(9)解約・中断条項
リース契約を早期に解約できる状況と、それに伴う費用や違約金について理解しておくべきです。解約条項は柔軟性をもたらしますが、慎重に検討する必要があります。

(10)メークグッド(復元)義務
リース契約終了時に物件をどのような状態に戻すべきかを定めた条項を確認しましょう。借主が一定の基準を満たすために修繕や改装を行わなければならない場合があります。

(11)紛争解決
リース契約書には、借主と貸主の間の紛争を解決するための手続き(調停や仲裁を利用するかどうかなど)をくわしく記載しておきましょう。

(12)法律の順守
リース契約が、小売店リース法(該当する場合)やその他の州特有の規制など、オーストラリアの関連法規に準拠していることを確認しましょう。

結論
商業用リース契約の締結は、企業にとって重要な責任を伴う約束事です。借主は、リース条件を総合的に検討し、必要に応じて法的助言を求め、権利、責任、潜在的な金銭的責任を確実に理解する必要があります。契約締結前に契約内容を十分に検討することは、借主が自らの事業目標やニーズに沿った意思決定を行う上で極めて重要です。

注意事項:
本稿は法的アドバイスを目的としたものではありません。必要に応じて専門家の意見をお求めください。
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