情報提供:アドバンテージ・パートナーシップ外国法事務弁護士事務所
国際仲裁弁護人・国際調停人 堀江純一(国際商業会議所本部仲裁・調停委員)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)専門家

概要
日本の法律は、日本国憲法で定められた範囲においてしか制定することができません。では、オーストラリアではどうでしょうか。オーストラリアの法律に関する個人的な考察の第123回では、連邦憲法(Constitution of the Commonwealth of Australia)と州法の法的関係について考えてみます

オーストラリア連邦憲法と州法の法的関係

日本国憲法は、「国の最高法規」(第98条1項)であり、「その条約に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない」とされています。つまり、日本の法律は、憲法で定められた範囲においてしか制定することができないのです。

では、オーストラリアではどうなのでしょうか。オーストラリア政府は、連邦憲法の根拠規定をおく連邦政府と6つの州政府、自治権を持2つの特別地域政府から成っています。そうした政府構造において、連邦憲法と州法はどのような関係をもっているのでしょうか。

例えば、タスマニア・ダム ケースという事例があります。1978年、タスマニア州の水力電気委員会が、ゴードン川にダムを建設する案を発表しました。ダムの建設による広範囲に渡る洪水被害は当初から予定されていました。しかし、建設が予定されていた場所は1981に世界遺産に登録されたことで状況は一変します。豊かな自然を守るべきだとする国民の声が大きくなり、1983年の連邦議会総選挙において当時のボブ・ホークを党首とする労働党は、「ダムの建設を止めること」を主要な政策の一部として取り入れ、見事勝利します。

さて、タスマニア政府は1982年にゴードン川水力発電開発法という、水力電気委員会によるタスマニア南西部の原野でのダム建設を許可する法案が可決されました。この州法が連邦法と矛盾しない限り、その有効性を疑う理由は全くありません。しかし問題となるのは、1975年の国立公園・野生生物保護法と、1983年の世界遺産保護法は、連邦大臣の同意なしにダムの建設やその他の行為を阻止する旨の記載があります。これらの法律のいずれかが有効であった場合は、州法と連邦法の間で明らかな矛盾があるわけです。そのような矛盾を解決する条項が、連邦憲法109条です。ここには、「第 109 条では州法が連邦法に抵触した場合は連邦法が優先し、州法は抵触する限度において無効となること」が定められています。

結局のところ、この裁判では連邦政府が勝利しました。連邦政府大臣の同意が無い限り、ダム建設やその他の工事を禁止したのです。州法は有効ではあるが、連邦大臣の同意が無い限り無効である、とされたので、この場合連邦大臣の同意は得られなかったため、ダムの建設はやむを得ず中止されました。

このように、オーストラリアでは連邦憲法に抵触されない限り州憲法の継続は認められていますが、抵触した場合は連邦憲法が優先し、州法は抵触する限度において無効になるとされています。

注意事項:
本稿は法的アドバイスを目的としたものではありません。必要に応じて専門家の意見をお求めください。
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