情報提供:アドバンテージ・パートナーシップ外国法事務弁護士事務所
国際仲裁弁護人・国際調停人 堀江純一(国際商業会議所本部仲裁・調停委員)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)専門家

日豪間のクラウドファンディング

概要
「こんな商品を開発したい」「こんな商品を売りたい」「こんなプロジェクトを始めたい」、けれども資金がない! そんなときに画期的なシステムがあります。「クラウドファンディング」です。今回は、このクラウドファンディングについて取り上げます。

「こんな商品を開発したい」、「こんな商品を売りたい」、「こんなプロジェクトを始めたい」
けれど、そのための資金がない!

そんな人のために画期的なシステムがあります。それが、クラウドファンディングです。クラウドファンディングとは、個人や団体がインターネットを介して、実現したいプロジェクトや企画などをっ発信し、賛同してくれる人に支援を募る仕組みです。

最近よく耳にすることが多いクラウドファンディングですが、実はその原型となるものは17世紀初頭からみられたといわれています。イギリスのある出版社の書籍編集者が、書籍の印刷にかかる費用の寄付を募り、その見返りとして寄付した人の名前を書籍に掲載する権利を提供したというのが、現代のクラウドファンディングに近いものとされています。また、アメリカ合衆国の独立100周年を記念してフランスから贈られた自由の女神像の制作も、新聞に掲載された広告を見た一般大衆からの寄付で実現しました。近年では、インターネットの普及に伴って現在のようなクラウドファンディングが一気に広まりました。

個人で簡単に資金を集めることができるのが、その最大のメリットでありますが、当然リスクも伴います。例えば、最近では次のような事例がありました。

ある日本人が、商品を販売するために日本でクラウドファンディングを開始しました。目標金額に達成したため、以前クラウドファンディング契約を交わした、オーストラリアのサプライヤーに商品の調達を頼んだところ、発送準備完了の連絡を受け商品代金を送金した直後に、オーストラリア東部で大洪水が発生し、納期遅延が発生したという事案です。大幅な遅延の後、商品は発送されましたが注文数よりも大幅に少ない数しか納品されず支払い済みの未納品の状態が数ヶ月続いていました。さらに、サプライヤーは音信不通になってしまったので、解決交渉もできなくなってしまったのです。

通常、国際的な取引においては、契約書が作成され、このような事態に陥った場合はその契約書に基づいて紛争解決が進められます。しかし、この事案で交わされたのは、ディストリビューション契約のみでした。このような契約の場合、準拠法はどこになるのかが問題となります。

当該事案における、どの国の法律を適用するかについて特段合意していない場合、国際私法または抵触法と呼ばれる原則により、どこの法律を適用するかを決めます。
日本では、法の適用に関する通則法という法律がこれに当たります。当事者が、準拠法を選択していない場合は、原則としてその法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時、当該法律行為に最も密接な関係がある国の法律によるとされています。では、ここでいう「最も密接な関係がある国」とはどこなのかを判断するわけですが、非常に抽象的な表現であるため、一義的に明らかにすることはできません。

上記の事例において、最も密接な関係のある国とは、日本人レイザーからすれば、日本であります。また、オーストラリア人サプライヤーからすればオーストラリアになります。オンライン上で契約が交わされたので、双方が自分の国で契約が交わされた、と解釈するのは当然のことでしょう。

故に、日本人レイザーとしては、日本法を準拠法とする判断をすることが可能です。そうなった場合、日本の裁判所に訴えることができますが、訴状を英文化し、ハーグ条約に基づき外交ルートでオーストラリアの被告人にお送りする必要があります。費用と時間を掛けて判決を得ても、日本の裁判所に執行能力がない為、オーストラリアの裁判所で承認決定を得た上で、再度差し押さえ等の裁判を行う必要があります。

→故に、ニューヨーク仲裁条約や、シンガポール調停条約のように、批准国同士での紛争であれば、執行力が認められるようなものが存在するのであり、この場合でも、そのような条約に基づいた紛争解決が有利であると考えられる。

注意事項:
本稿は法的アドバイスを目的としたものではありません。必要に応じて専門家の意見をお求めください。
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