鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


糖尿病は主に年輩の人の病気です。オーストラリアの全人口の約1.6%が糖尿病をもっています。21歳以上の
人口では2.4%、そして70歳以上の人口では7-8%の人が糖尿病を患っています。
遺伝的な要素が強く、両親や兄弟姉妹に糖尿病の人がいればそのような家族歴のない人と比べると糖尿になりやすいようです。しかし、環境からの影響もあり、暴飲暴食をしたり、不規則な生活をしたり、極度の疲労が重なると発病を早めることになります。

糖尿病とは
高血糖値と糖尿が認められれば糖尿病の診断ができます。糖尿病では血液中のブドウ糖濃度が異常に高くなる慢性の病気で、それによって体内のあらゆる臓器に影響をおよぼし、あらゆる症状が発生します。ブドウ糖の血中濃度が
高すぎると尿にも糖分が排泄され、”糖尿” となります。なかには腎臓の濾過機能に異常があり、糖分がもれやすいこともあります。このような人は”糖尿”がおこっていても血糖値は高くありません。ですから”糖尿病”という
診断はつきません。健康診断などで尿に糖が出ていることがあっても血液検査で血糖値を測らないと正確な診断は
できません。
血液中のブドウ糖のレベルは膵臓から分泌されるインシュリンというホルモンの作用によって大きくコントロールされています。インシュリンは血糖を体内の筋肉や脂肪の細胞に送り込む働きがあり、これらの細胞にエネルギー源を与えます。糖尿病ではインシュリンが不足し、血糖をからだの細胞に送り込むことが充分にできないので血液中に糖が停滞し、血糖値が上昇します。また、インシュリンの影響だけではなく、からだの細胞がインシュリンの作用に
対して鈍感になっているという要素もあって高血糖になります(インシュリン抵抗)。糖尿の患者さんは必ずしも完全にインシュリンの分泌がなくなっている人ばかりではありません。多少は体内にインシュリンの分泌が続いている人もいます(Type 2糖尿)。

糖尿病のタイプ

Type 1 (Insulinn dependent diabetes, IDDM、インシュリン依存型糖尿病)
糖尿病患者の約15%がこのタイプです。主に小児期や若い年代で発病するタイプです。症状は突然多尿、
多飲、そして体重減少がおこります。1型糖尿病は自己免疫疾患の一種で、体がインシュリンを生産している
膵臓の中のベータ細胞に抗体反応をおこし、ベータ細胞を破壊してしまいますので体内でのインシュリンの
生産が不能となります。このタイプは必ずインシュリンの治療を必要とします。
Type 2(Non-insulin dependent diabetes, NIDDM,非インシュリン依存型糖尿病)
約80%がこのタイプです。中年以降からおこる病気で肥満体の患者さんに多く見られます。症状の発生は
徐々で、高血糖であっても何年も気づかずにいる場合もよくあります。2型糖尿病ではインシュリンの生産
体内で行われていますが、インシュリン抵抗により体内に入ってきた糖分を筋肉細胞などに能率良く送り込め
ず、血糖値が高くなります。このインシュリン抵抗に対して体はさらにインシュリンを送り出して対抗しよう
としますが、いずれベータ細胞のインシュリン生産能力の限度に達すれば体内インシュリンもなくなって しまいます。治療は食事制限と運動をまずしてみることが大切です。運動をして筋肉を増やせばインシュリン
抵抗を低下させることができます。このような手段で血糖値が充分に下がらない場合は経口薬が使われます。
病気が進行し、数年後にインシュリンも使わなければならなくなることもあります。

糖尿病の症状
Type 2 の場合は初期だと症状が全くない場合もあり、健康診断で初めて発見されることもあります。
*多尿: 腎臓にくる糖分が多すぎ、オーバーロードの状態になり、体外に糖を出すために水分が多く必要と
なるので排尿量が多くなります。
*多飲: 体外に出る水分が多くなるのと糖の血中濃度が高いので喉が乾き、水分をたくさんとります。
*体重減少: 栄養分としての糖がからだのあらゆる細胞に届かないので飢えた状態になります。この不足分を補お
うとして多食になりますが、体重は増えません。Type 1で特に顕著にみられます。
*倦怠感
*その他: 視界のかすみ、外陰部のかゆみ、インポテンツ、手足のしびれ、感染症など。

糖尿病の診断
尿検査で糖が出ていれば糖尿病の可能性があります。確実な診断をするには血液検査も必要です。
血液検査は空腹時(fasting blood glucose)に測る血糖値と空腹でない時に(random blood glucose)測るものがあります。Fasting blood glucoseが6 mmol/L 以上、あるいはrandom blood glucose が10mmol/L 以上なら糖尿病といえます。
これらの数値が境界線で、症状もはっきりとでていないような場合にブドウ糖負荷試験をします。
これは空腹時にブドウ糖を一定量飲み、その後2-3時間のあいだに数回血糖値と尿糖をはかり、からだがこの糖分の負荷に対してどのように反応するかをみる検査です。糖尿病の人は糖分に対するインシュリンの反応が鈍く、負荷試験で典型的なパターンがみられます。

糖尿病の合併症
糖尿病によって寿命が短くなるかどうかは単に血糖値のレベルによって左右されるわけではなく、下記のような
合併症をともなっているかが大事なポイントです。このような合併症がおこることを防ぐには食事療法を守り、
規則正しい生活をして血糖値のレベルが激しく上下しないようにコントロールすることが大切です。
*血管障害:糖尿病の人は動脈硬化がおこりやすく、その血管が供給している臓器に影響を与えやすくなります。
糖尿病だけではなく、高血圧や高脂血症もあると動脈硬化はより顕著になります。
1)心臓:心臓を供給する動脈が狭くなり、狭心症や心筋梗塞がおこりやすくなります。
2)脳:脳を供給する頸動脈や脳の中の動脈が狭くなったりもろくなったりして脳卒中がおこりやすく
なります。
3)腎臓:腎臓の細小血管がおかされ、腎機能が低下し、高血圧、尿蛋白、浮腫などがおこり、やがて
尿毒症へと進展することもあります。
4)下肢:足を供給する動脈がやはり動脈硬化により狭くなり、足が冷えたりある程度歩くと足が痛く
なったりします。
5)目:網膜の細小血管に動脈硬化がおこり、硝子体に出血がおこったり緑内障、白内障、網膜剥離など
もおこりやすくなります。
*神経障害:特に下肢が影響されやすく、足がしびれ、皮膚の感覚が鈍感になり、火傷や怪我をしても気づかなく
なることもあります。なお、自律神経にも影響があると尿が出にくくなったりインポテンスがおこったりもします。
*感染症: あらゆる菌に対しての抵抗力が弱くなり、また一度感染しても治りにくくなります。
肺炎、肺結核、胆嚢炎、膀胱炎、膣炎などが特におきやすい感染症です。

糖尿病の治療
*食事療法: カロリーを制限しなければなりません。炭水化物、脂肪、蛋白の配分がかたよらないように注意しな
がら特に脂肪と糖分を摂りすぎないようにする必要があります。特にType 1の糖尿病でインシュリンも使用すような場合はインシュリンの投与と合わせて三度の食事を規則正しく摂らないと低血糖症がおこる危険もあります。
*インシュリン:この薬は皮下注射で投与します。インシュリンの種類によって薬の持続時間が長いものと短いもの
とがあります。どの種類を使用するかはその人の生活様式と糖尿のひどさによって左右されます。
一日に1回から4回までが通常使用される回数です。食事を摂らなかったり運動量が予想外に多か
ったりインシュリンの投与量が多すぎたりすると低血糖症(空腹感、頭痛、めまい、冷や汗、
震え、動悸)がおこります。すぐに飴をなめたりジュースを飲むようにしないと意識を失って
しまいます。
*経口薬: Type 2 の場合、食事制限だけで改善されなければ経口薬を使います。
Biguanide (Metformin) という系統の薬は体重を下げ、腸からの糖分の吸収を少なくする効果があります。この種類の薬には低血糖症をおこす副作用はありません。
DP4 Inhibitor という薬はインシュリンの分泌を高める効果があります。体内のベータ細胞がまだ
働いていてインシュリンの生産がかのうでなければこの薬はあまり効果はありません。
SGLT2という薬は腎臓の尿細管からの糖の再吸収を押さえることによって糖の排出を促し、血糖値を
下げる効果があります。なお、この薬は心疾患による入院率を下げるという利点もあり、減重効果も
あります。
さらに最近ではGLP-1というクラスの薬があり、血糖値のレベルに反応してインシュリンの分泌を
コントロールする効果があります。1週間に1回の皮下注射で投与されます。このクラスの薬も減重
効果があり、糖尿病患者の心疾患の発症、あるいは悪化を防ぐ効果もあります。
最近の治療傾向としては体内のインシュリン生産機能をなるべく長く保っておくためにインシュリン
を早めに使いはじめるようになってきています。

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