ジャパン/コンピュータ・ネット代表取締役 岩戸あつし

本誌第198話、199話で機械翻訳について述べた。この時はGoogle Translateを使って評価したが、ここに来てDeepLというドイツ発の無料翻訳ソフトが人気を呼んでいる。Googleと比べて実際どうなのか? 前回ご紹介した契約文書の英日、日英訳にDeepLの翻訳を追加して比べてみた。また、論文やエッセイの日英翻訳でどう異なるのか実験してみた。

1.契約書例 英語→日本語

”the Contractor”はGoogleでは「請負業者」、DeepLでは「契約者」となっている。この場合は、おそらく「請負業者」の方が正しい法律用語であろう。また”the Principal”は、Googleでは「本人」、DeepLでは「校長」になっており、DeepLは明らかに間違っている。唯一DeepLがよいと感じるのは文体で。Googleで「です、ます」調になっているのに対して、DeepLでは契約書に使われる「である、になる」調になっていることである。

2.契約書例 日本語→英語

Googleでは、日本の契約書でよく使われる「乙」という当事者の表記がYouになっている。他方DeepLでは、(2)という表現になっている。甲が(1)で乙が(2)と考えたのであろう。(2)では主語にならないためDeepLはJQAという主語を勝手に作っている。JQAとはJapan Quality Assurance Organization(日本品質保証機構)のことだと思うが、どこからJQAを類推したのだろう? まあ、すごい冒険的な(当てずっぽうの)翻訳だ。
原文の「以下同じ」に関してはGoogleでは、”And” と表現され、DeepLではなんと1センテンス丸ごとリピートさせてしまっている。この場合の「以下同じ」は、きっとこの文章の前に()内で述べられた同じ文章があり、長くなるので省略するという意味だろう。上の文は契約文書の一部切り取りなので、このような前後が欠けた文章を翻訳させた私の責任の方が大きいと思う。

3.論文、エッセイ例 日本語→英語

Googleと比べてDeepLの翻訳はくだけた口語調になっている。「自分を含む」の訳がGoogleでは”ourselves”、DeepLでは”myself”の違いがあるが、これは日本語原文からしてどちらとも取れる。

4.比較した感想
上の翻訳だけ見ると、Googleの方に軍配が上がっているように見える。しかし日本語と英語ではなく、ヨーロッパ各国語と英語の翻訳に関してはDeepLの人気が高い。Google TranslateもDeepL Translateも人工知能を使ったプログラムなので、多くの人が使えば使う程精度が上がってくる。それで言えばより多くのユーザーを持つGoogleが有利と思われる。しかし人間に凡人と天才がいるように、少ない例で多くを学ぶ人工知能であればいずれは追い抜くかも知れない。

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