鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


この病気は内耳の蝸牛(cochlea)と骨半規管(semi-circular canal)の異常からおこる病気で、めまい、難聴、耳鳴りをおこします。また、耳の膨満感も症状のひとつです。
男性よりも女性におこりやすく、発症率は年齢とともに上昇し、60~69歳がピークです。20歳以下の年齢層にはまれです。
右図でもわかるように骨半規管(身体のバランスをコントロールする器官、前庭)と蝸牛(音を感じとる器官)とは隣り合わせの臓器です。神経も骨半規管とつながっている前庭神経と蝸牛とつながっている蝸牛神経が合流した内耳神経によって脳に信号を送っているのでメニエール氏病によってこれらの器官に異常が発生すればめまい、難聴、耳鳴りという症状がおこるのも不思議ではありません。
なお、メニエール氏病によるめまいは真に回転性のめまいで、立ちくらみや貧血などからくるフラフラ感やふわふわとした感覚とは違います。回転性のめまいをよくおこすひとつの原因には良性頭位めまい症(benign positional vertigo)という疾患がありますが、この場合、難聴や耳鳴りは通常おこりません。

骨半規管のしくみ
3つの半規管、すなわち「前半規管」「後半規管」「外半規管」は、それぞれがおよそ90度の角度で傾いており、X軸・Y軸・Z軸のように三次元的なあらゆる回転運動を感知することができます。その管の中には内リンパ (内耳の膜迷路にある液体, endolymph)という液体があり、頭が動くとその液体も動き、有毛細胞 (ラセン器, 耳の膜迷路の斑および稜にある感覚上皮細胞、hair cells)がその動きを探知し、前庭神経を伝わって脳に電気信号を送ります。脳がこの信号を分析し、頭の位置と回転を探知します。

蝸牛のしくみ
音は空気の振動として鼓膜を振動させ、耳小骨を動かします。 耳小骨は卵円窓 (鼓室の内側壁の膜におおわれた卵形開口で, 前庭に通じている)を動かし、蝸牛の中の液体(内リンパ、endolymph)を振動させます。
蝸牛の中にも有毛細胞があり、音という機械的な振動が蝸牛に伝わると、有毛細胞の毛が揺らされ、この機械的な振動を電気的な信号に変えて、有毛細胞とつながっている神経細胞に伝えます。そして、この信号が内耳神経に集結され、脳へ”音”を伝えます。
有毛細胞は4列になって並んでいます。一番内側の1列が内有毛細胞、外側の3列が外有毛細胞と呼ばれます。音を脳に伝える聴神経の90~95%は内有毛細胞とつながっています。つまり音は、主に内有毛細胞で感じ取られます。外有毛細胞は異なった音程の音に対する感受性を調節する働きをもつと考えられ、小さな音を増幅したり、似たような音を区別して内有毛細胞に伝える働きをしています。有毛細胞は非常にデリケートでちょっとしたショックに対してもダメージを受けてしまいます。
外有毛細胞が傷つけば、微妙な音の聞き分けができなくなったり、雑音が響くなど、軽度から中度の聴覚障害を引き起こし
ます。一方、内有毛細胞が傷つけられると、音に対する感覚そのものが低下し、時には音がまったく聞こえなくなるということもあります。

メニエール氏病の病態生理学
骨半規管と蝸牛のメカニスムは非常に複雑でまだよくわかっていないことも多くあります。しかし、最近の学説ではこの器官の中の内リンパの生理学に異常があり、時々この液が何かの理由で溜まりすぎ、有毛細胞の働きに影響を及ぼすのではないかと考えられています。自己免疫疾患、先天性風疹症候群、ヴイールス性の感染症などからおこることもあるようですが、ほとんどの場合は原因不明です。

症状
突然おこる回転性のめまいで、20分以上続くものです。吐きけ、嘔吐、下痢、発汗を伴うこともあります。良性頭位めまい症の場合、めまいは数秒から数分で治まることが大半です。もし数時間も続くようでしたら前庭ニューロン炎 (強いめまいの突発する発作で, 難聴や耳鳴は伴わない. 若年成人, 中年成人を侵し, しばしば非特異的上気道感染に引き続いて起こる、vestibular neuritis)か小脳性の脳卒中が考えられます。
メニエール氏病の場合、初期症状はめまいだけかもしれません。病気が進行するとともに変動制の難聴がおこってきます。
低音が聞こえにくくなることが多いのですが、完全に聞こえなくなることもあります。
難聴と同時に耳鳴りも徐々にひどくなっていきます。同時にめまいの症状が改善していくパターンが典型的です。病気の後期に入るとドロップアタック(drop attack)といって突然倒れたりする(意識障害)こともあります。病気の進展のパターンは様々です。
初期に難聴がおこり、逆に病気が進むにつれてめまいがおこってくると同時に難聴が改善したり、難聴や耳鳴りが変動的におこり、めまいが全くないこともあります。

検査
*聴力検査: 純音オージオグラム (種々の周波数における聴力閾値を表した図表. 125—8,000Hzの周波数を用いる、
pure tone audiometry)が適切な検査ですが、病気の初期では異常が見られないこともあります。
*前庭機能検査:身体のバランス機能を測定する検査で、症状がはっきりしない場合に行われます。
*蝸電図法: 音刺激の結果として内耳および蝸牛神経に発生する電位を測定する検査で、やはり診断がはっきりと
しない場合にします。(Electrocochleography)
*造影検査: 頭のMRI、あるいはCTで聴神経腫(acoustic neuroma)や神経鞘腫(Schwannoma)、水頭症(hydrocephalus)、
それに多発性硬化症(multiple sclerosis) など、めまいと難聴をおこすその他の疾患を除外することができます。

治療法
治療の目的は症状を緩和することです。めまいに関してはおこったときの対処と予防があります。難聴に関しては補聴器の使用や人工内耳(cochlear implant)が必要となることもあります。耳鳴りと耳の膨満感に関しての治療が一番困難です。
*急性のめまい:めまいは発作的におこる症状で吐きけを伴うことがよくあります。前庭を抑制し、吐きけを抑えるような薬
(StemetilやZofran)を服用するとともに発作が治まるあいだからだを休めることが大切です。
また、Diazepamという精神安定剤をごく短期間だけ(24時間)服用する方法もあります。
*めまいの予防:
ストレス(肉体的、精神的)もよく引き金となるので、なるべく毎日規則正しい食事と生活をするように心がけ、定期的に運動もするようにして体調管理に気をかけることも大切です。
#減塩-
塩分の摂取を控えておくとめまいの頻度を抑える効果があるようです。1日1ー2gまでに制限することが大事です。調理や食卓で塩分を加えるのを控え、加工食品などの塩分の多いものは摂らないようにしてください。また、カフェインやアルコールも控えると効果があるようです。
#薬-
Betahistine(Serc)という薬は内耳への血行をよくする効果があるようで、めまいの予防として使われます。
ステロイドの服用も効果があるかもしれませんがはっきりとした結論は出ていません。
*外科的治療:
中耳腔換気用チューブ(Grommets,グロメッツ)の挿入でめまいと耳の膨満感が和らぐこともあります。また、鼓膜に穴を開け、小さなプローブを内耳に入れ、定期的に\内耳に微量の圧力をかける装置(Micropressure therapy)もめまいを和らげる効果があるようです。また、難治性のめまいには最終手段としてGentamicinという耳毒性の薬を内耳に注入し、めまいを抑えるという手段があります。これによって難聴をおこす低リスクがあります。
*耳鳴り:
治療は難しく、短期間の精神安定剤や抗うつ剤の使用や心理療法が必要となることもあります。

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