鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


不穏下肢症候群とは足、特にふくらはぎに安静時におこる不快感で、足を動かすことによってその不快感が解消される現象です。夜間、特に就寝前によくおこり、不眠の原因にもなります。
この現象は起きていて意識のあるときにもおこります。大人の人口では約10%の人が軽度の不穏下肢症候群の症状を持っています。そして約2.7%の人は症状が最低週に2回以上おこる重度の病気にかかっています。
一次性と二次性のものがあり、二次性のものは中年から高齢の人におこります。女性対男性比は2:1です。
不穏下肢症候群の人の85%は周期性四肢運動障害(Periodic limb movement disorder) も併発しています。
この疾患では、睡眠中に突然足が痙動をおこし、眠りを妨げられます。

原因
はっきりとした原因はまだわかっていませんが、あらゆる疾患との関連はあるようです。遺伝的な要素もある
ようで、家族歴が強いこともあります。
二次性の場合、鉄欠乏性貧血、妊娠、腎不全、神経疾患、リューマチ性関節炎などとの関連もあります。
妊娠後期に26%の妊婦は不穏下肢症を経験します。ほとんどの場合は出産とともに解消します。
人工透析の患者さんの20-70%はこの現象を経験しますが、腎臓移植をうければ軽減するようです。
鉄欠乏性貧血でも同じようなことが言え、鉄分を補充すれば症状が和らぐようです。
また、抗精神病薬や抗鬱剤などを服用しているとこの現象がおこりやすいようです。
最近では自己免疫疾患(リューマチ性関節炎など)、セリアック病 (グルテン過敏性と上部小腸粘膜萎縮を特徴とする小児および成人に起こる病気. 下痢, 吸収不良, 脂肪便, 栄養およびビタミン欠乏, 成長障害, 短躯などの症状を呈する)、パーキンソン病、それに多発性硬化症(multiple sclerosis)などの疾患との関連も見られるようになっています。
抗うつ剤、抗精神病薬、それにmetoclopramideという抗嘔吐薬も下肢不穏症候群の症状を悪化させることも
あります。

不穏下肢症候群の病態生理学
脳神経系統のあらゆるレベルで異常が起こっているようです。
不穏下肢症候群の患者さんの脳脊髄液のフェリチン (23%の鉄を含む鉄蛋白複合体)のレベルは低く、血液脳関門の内皮細胞が血液から脳脊髄液への鉄分の入り口を狭くしているようです。
また、脳の黒質(substantia nigra)の中の神経メラニン細胞の中の鉄分のレベルも通常より低いようです。
鉄分は脳細胞のドーパミンの生産に必要なものです。不穏下肢症候群では脳や末梢神経でのドーパミン作用に異常がおこっているようです。ドーパミンは神経伝達物質のひとつでパーキンソン病ではドーパミンの欠乏がおこっています。

症状
足に心地悪い感覚(痛みの場合もある)がおこり、足を動かしたくなります。また、足を動かすことによって症状が和らぎます。時にはベッドから出て、歩き回ったり足のストレッチをしなければ治まらないこともあります。ほとんどの場合は夜間に症状がおこり、特に午前12時から2時のあいだに頻繁におこるようです。重症になってくると昼間でもおこってくるようになります。
上記したように周期性四肢運動障害も伴い、突然手や足が動いて眠りから起こされることもあります。どちらも睡眠を妨げるので毎日の生活に影響を与えることもあります。

診断
臨床診断で、特別な検査はありません。血液検査で血色素や鉄分のレベルを調べておいたり、Periodic limb movement disorder や睡眠無呼吸症などが疑われる場合は睡眠観測(sleep study)が必要となるかもしれません。血中の鉄分、ビタミンB12,それに腎機能検査もし、二次性の下肢不穏症候群かを調べます。
もし鉄分の不足による貧血があればその原因を追及(月経過多、消化器からの出血など)しなければなりません。

治療
この疾患のために使われる薬はいくつかありますが、まず症状がどの程度の頻度でおこり、患者さんの日常生活にどのような影響を与えているのかということを考慮にいれないといけません。
症状が軽ければ次のようなことが役に立つかもしれません。
*夜間に体をよく動かすようにする
*マグネシウムの錠剤を夜服用してみる
*定期的な運動
*アルコール、カフェイン、たばこを止めるか少なくする。特にカフェインなどの刺激物は夜に摂らないようする
*もし血中フェリチンが低ければ鉄分補給をする

症状が毎日のようにおこる人には投薬治療が必要になることもあります。ドーパミン作用薬、抗てんかん薬、精神安定剤、オピオイド鎮痛薬などが使われます。また、ドーパミン作用薬を使い、症状が軽減するようでしたら、診断の確認にも役立ちます。

*ドーパミン作用薬:
Levodpoaはパーキンソン病にも使われる薬ですが、薬の半減期が短く、リバウンド現象がおこり、夜間を通して効いていないこともあります。また、衝動調節障害(ギャンブリング、衝動買い、性欲増大)や不穏下肢症候群の症状の悪化などという副作用もおこることもあります。その他のドーパミン作用薬にはPramipexole, Ropninirol,Rotigotineなどという薬があります。共通した副作用は吐き気、頭痛、めまい、むくみなどです。睡眠の向上、それに周期性四肢運動障害の軽減も見られるようです。

*抗てんかん薬:
Gabapentin(Neurontin), Pregabalin(Lyrica)などという薬があります。不穏下肢症候群の軽減とともに睡眠向上も見られるようです。眠気、めまい、むくみなどが主な副作用で、特に高齢者により頻繁におこるようです。

*オピオイド鎮痛薬:
重症の患者さんで上記のような薬だけで症状がコントロールされない場合に使われます。Oxycodone や Tramadol という薬です。主な副作用は便秘、呼吸低下、それに依存症です。

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