鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


最近まではアトピー性皮膚炎に使われるステロイドは副作用が多く、長期の使用は危険であると広く信じられていました。これは一般の人のあいだだけではなく、このような薬を処方する医師のあいだでも多少の懸念はあったようです。しかし、この考えは根拠のないもので、むしろひどい皮膚炎に対してステロイドの使用を渋っているとかえって病気を長引かせてしまうことになります。そこで、オーストラリアとニュージーランドの専門医のあいだでステロイド塗布薬に関する経験とデータを集め、検討し、あらゆる”副作用”に関する統一見解を発表しました。

皮膚の菲薄
*皮膚の結合組織が減少し、皮膚が薄くなり、弾性を失うことです。
*強いステロイドを長期間使用しても皮膚の菲薄がおこった形跡は小児でも大人でもありませんでした。
*例外として強いステロイドを数か月も色素脱失か色素過剰がおこっている肘、膝、鼠蹊部、わきの下などの体の弯曲部に使用した場合にだけ皮膚が薄くなることもあるようです。
*むしろ皮膚の菲薄はアトピー性皮膚炎がよく抑えられていない場合におこるようです。

萎縮性皮膚線条(しわの寄った帯条の薄い皮膚で, 初めは赤いが紫色と白色となる. 通常, 思春期や, または妊娠中と 妊娠後に腹部,殿部, 大腿上に現れ, 真皮の萎縮や皮膚の伸展過度による.)
*ステロイド塗布薬は小児の湿疹に使用した場合、推奨されている使用量を過度に超えていなければ萎縮性皮膚線条はおこしません。

皮膚の感染症や瘡痕
*ステロイド塗布薬の使用によって感染症がおこったり、状態を悪化させることはありません。
*感染症がおこっている皮膚炎にステロイドを使用すれば皮膚のバリアを強化することができ、炎症を抑え、皮膚炎のコントロールを良くします。

ステロイド塗布薬に対するアレルギー
*ステロイド塗布薬に対するアレルギーはあまりおこりませんが、ステロイド治療にあまり良く反応 しないような場合は、この可能性も考慮しなければなりません。

骨減少、骨粗鬆症
*経口ステロイドの長期服用では骨粗鬆症がみられることはありますが、塗布薬に関しては骨減少、あるいは骨粗鬆症がおこるという症例はないようです。

目への影響
*ステロイド点眼薬を長期間使うと白内障、緑内障や目の感染症などの副作用がおこることもあります。また、経口ステロイドの長期間使用でこのような副作用が出ることもあります。
*通常、顔に使われる弱いステロイド塗布薬を瞼や目の周りに長期間使用しても目に関する副作用がおこった症例はありません。
*顔以外に使われるような強いステロイド塗布薬を長期間使用した場合、白内障や緑内障がまれにおこることはあるようです。
*ひどいアトピー性皮膚炎が顔や目の周りの皮膚に出ている場合、目をよくこすることによって外傷性白内障をおこすことはあるかもしれません。また、このような患者さんの場合、経口ステロイドも服用 していることもあるので、そちらからの影響で目の副作用はおこるかもしれません。

多毛症
*円盤状(discoid)の湿疹と結節性痒疹 (強いかゆみを伴い, 掻把により生じる硬い半球状隆起結節からなる皮膚の発疹)に強いステロイド塗布薬を使用した場合、疾患部の周りに限局性の多毛症がおこる 症例は少数あったようです。また、この現象は皮膚の炎症が治まり、ステロイドの使用を止めれば消散したようです。
*通常の湿疹のパターンでステロイド塗布薬を長期間使用してもこのような現象はおこりません。

口周囲の皮膚炎、酒さ(Rosacea)(鼻とそれに続く頬部とを侵す慢性の血管拡張および毛孔開大)
*この疾患は原因が解明されていませんが、この疾患をおこす傾向にある人は、ステロイド塗布薬の使用は控えるか、あるいは注意深く使用したほうがいいようです。
*口周囲皮膚炎の場合、6週間の経口抗生物質を使用するか、Metronidazoleの塗布薬を使用すれば治まります。

タキフィラキシー(薬理学的または生理学的有効成分の反復投与により反応が漸次減少する現象)
*ステロイド塗布薬に関してはタキフィラクシーがおこることはまずみられません。
*むしろ、効果が薄れるというよりもステロイドを充分に塗らなかったり指示通りに使っていなかったりと いうことから効果が悪いという説明が合っているようです。

紫斑 (皮膚の血管をサポートする組織が減少し、毛細血管が破れて出血する現象)
*強いステロイド塗布薬を長期間(何か月から何年も)、皮膚の炎症が治まってからも使った場合に紫斑 ができたという症例は少数あります。
*小児に適切な強さのステロイド塗布薬を適切な期間だけ使用した場合には紫斑はおこりません。

色素脱失
*湿疹でみられる色素脱失はステロイド塗布薬の副作用ではなく、ほとんどの場合は白色ひこう疹といって色素が抜けるタイプの湿疹によるもので、ステロイドを使用して紫外線にあたれば治まります。
*まれに強いステロイドを不適切な使い方で使用した場合に色素脱失がおこることがありますが、ステロイドの使用を止めれば数週間のあいだで改善します。

毛細血管拡張症
*適切な強さのステロイドを正しく使用し、湿疹が治まった時点で止めれば毛細血管拡張はおこりません。
*強いステロイドを長期間使った場合には毛細血管拡張症がおこることもあります。

ステロイド塗布薬の量
アトピー性皮膚炎を効果的に治療するには充分な量を使うことが大切です。そしていったん皮膚の炎症が治ったらやめることも大事なポイントです。ステロイドの量を図る目安として大人の指の先端部が用いられます。指の先端から第一関節までチューブから出てきたステロイドを載せた量が1単位(1 fingertip unit, FTU)です。年齢と体の部分に適したステロイドの量は下記の表を参考にしてください。

Fingertip units

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