鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


胃液が不随意に食道に逆流することを胃食道逆流(Gastro-oesophageal reflux, GOR) と言います。
ほとんどの場合は生理学的現象で、問題はありませんが、逆流の度合いがひどければ合併症をおこすことがあります。
これを胃食道逆流性疾患(Gastro-oesophageal reflux disease, GORD)と言います。
大人の胃食道逆流と違い、小児の場合は胸焼け、胃痛、逆流のような症状を訴えることは少なく、食行動の異常、体重増加不良、それに呼吸器の症状などがおこります(特に乳幼児の場合)。

原因
下部食道括約筋が一時的に弛緩することによっておこります。そのときに胃液が食道に逆流します。ほとんどの軽度のGORは自然と改善されていきます。

症状
GORの場合はミルクの吐出がおこるだけで元気で発育も正常です。生後3ヶ月未満の乳児の半数は1日に1回は逆流をおこします。7ヶ月からは改善が見られ、12-18ヶ月で治まっているはずです。
GORDの場合の合併症は三つのタイプがあります。1)胃酸による食道炎、2)栄養の問題、3)肺におこる合併症です。
1)食道炎がおこっていると食道の粘膜の損傷から軽度の出血がおこり、鉄欠乏性貧血がおこることもあります。
吐血をすることもまれにあります。症状を訴えることのできる年齢の子供でしたら上腹部の痛み、胸焼け、それに嚥下痛があるかもしれません。食道の炎症が長期間続いていれば食道の狭窄がおこり、食べ物がひっかかり嚥下困難をおこすこともあります。
2)乳幼児の場合は栄養が充分に摂れずに発育不全がおこるかもしれません。機嫌が悪かったりよく泣いたりする場合、とくにミルクや食事をとったときにこのような症状がおこっていればGORD が疑われます。
3)胃液が逆流して気管に入ったり声帯を絶えず刺激したりしていると喉頭炎、誤嚥、肺炎、呼吸停止がおこるかもしれません。

診断
問診で上記のような症状が伺えるかもしれませんが、軽度のGORの場合はミルクの吐出がおこるだけかもしれません。診察ではよほど疾患が進んでいなければ異常は見られません。嗄れ声があったり、呼吸音の異常があるかもしれません。また、身長、体重の促進が遅れているかもしれません。

検査
通常はGORDは臨床診断で、検査によって診断を確認する必要はありません。しかし、何らかの合併症が疑われる場合はそれに適した検査が必要となります。

*胸部レントゲン ー肺炎や誤嚥が疑われる場合
*胃食道のバリウム検査 ー腸管回転異常(intestinal malrotation)、裂孔ヘルニア、食道狭窄、食道ヒダなどの解剖学的異常が疑われる場合
*胃内の24時間pHモニター ー胃液逆流の定量測定ができ、逆流の頻度と持続期間を見ることができます。
*胃カメラ ー食道や胃壁の粘膜がどのように影響されているかを見ることができます。また、粘膜の組織を採って細胞検査をし、鑑別診断のひとつである好酸性食道炎(eosinophilic oesophagitis)の確認を行うことにも役立ちます。

鑑別診断
*嘔吐:GORは嘔吐とは違うメカニズムです。嘔吐の場合、嘔吐反射により蠕動(食道が飲み込んだ食べ物を胃の方へ押そうとする動き)の逆行がおこり、食べ物が口から排出される現象です。嘔吐がおこる原因には胃腸炎、尿路感染、頭蓋内圧の上昇、敗血症などがあります。GORの場合は不随意に胃の中のものが逆流し、吐出します。

*好酸性食道炎 :この疾患はアトピーや食べ物アレルギーと関連があります。症状からはGORDと区別することは困難です。しかし、GORDで使われる逆流防止処置が効果を現さない場合にこの診断が疑われます。胃カメラで食道から生検をして診断されます。治療は除外食(アレルギー患者に対し,抗原となる物質を除外して与えるもの).に重点がおかれます。また、喘息で使われるようなステロイドの煙霧質を服用することもあります。

*食物蛋白性GORD :少数の乳児は食べ物アレルギーからGORD の症状をおこすことがあります。最もよくおこるアレルギーが牛乳の蛋白です。食べ物から牛乳蛋白を除外して症状が改善されるようでしたらこの診断が確認されます。加水分解されたミルクフォーミュラを使用したり母乳を与えている場合は母親が牛乳蛋白を断てば症状が治まります。また、しばらく間をおいて少しずつ牛乳蛋白を再導入して見ることも可能です。

治療
軽度のGORだけなら薬物投与などは必要なく、簡単な逆流防止処置だけで改善します。
逆流防止処置とは:
*コットの頭部が高くなるようにコットを30°傾斜させる(赤ちゃんをうつ伏せに寝かせることは乳児突然死のリスクがあるので避けてください)

*赤ちゃんのミルクにコーンスターチを加え、肥厚させて逆流がおこりにくくする

乳児ではなく、大きい子供や大人の場合は胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitor, PPI)を使います。2-4週間で効果は現れてくるはずです。もし4-6週間後には症状が改善されていればまた薬を止めて様子を見てみます。
もしこのような薬を服用しても効果が現れない場合は食物蛋白性GORD が疑われます。加水分解されたミルクフォーミュラを使用したり母乳を与えている場合は母親が牛乳蛋白を断ってみて様子を見ます。
好酸性食道炎(eosinophilic oesophagitis) が疑われる場合は上記のような検査が必要となります。
GORDがあまりにもひどく、プロトンポンプ阻害薬の服用でも改善されなず、食道炎がおこったり肺炎や誤嚥がおこったりする場合は胃底ヒダ形成術(横隔膜ヘルニアの手術で,逆流を防ぐために,食道を巻くように胃底部を縫合すること(undoplication) をしなければならないこともあります。

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