鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


このコンデイションは遺伝性の要素が強く、他に喘息や枯草熱 (Hay fever) なども伴うことが、よくあります。同じ家族の人でアトピーの病気を持っている事もよくあります。アトピー性皮膚炎は年齢を問わずに何歳の時からでもおこりますが、75%の場合は生後6か月以内には兆候を見せています。

アトピー性皮膚炎の遺伝的要素
表皮の顆粒層という層の中にFilaggrin(フィラグリン)という淡白があり、ケラチノサイト(Keratinocyte)という細胞と反応して水分を通さない障壁(barrier)を作ります。アトピー性皮膚炎や喘息の人はこの淡白を製造するための遺伝子の欠陥があることが多く、皮膚を保護するバリアが正常に機能しないために外部環境から損傷を受けやすく、その刺激によって炎症反応がおこりやすくなるようです。保湿機能が低いため、アトピー性皮膚炎の人は皮膚が乾燥しやすくなっています。そして保護機能が弱まっている皮膚は外部からの刺激に反応して皮膚炎をおこしてしまいます。この遺伝子の欠陥は今の医学では改善することができませんので皮膚炎をおこしやすい体質は一生続きます。ですから、アトピー性皮膚炎は根治することはできません。
しかし、普段から皮膚の保湿に気を配り、皮膚への刺激を最小限に食い止め、よく皮膚をケアーしていれば皮膚の炎症がおこることを防ぎ、皮膚疾患をコントロールすることはできます。
近年アトピー性皮膚炎の発生率が増加しています。上記のような遺伝的要素は古くからあることなので、何らかの環境の変化によってアトピー性皮膚炎が増えているのではないかと思われています。ひとつの仮説は極度の衛生観念からくる”きれい好き”も影響しているのではないかという考えです。1歳までのあいだにより多くのバクテリア毒素に接した幼児のほうが1歳時点でアトピー性皮膚炎がおこっている確率が低いというデータがあります。乳幼児期にある程度の刺激に接していれば後ほどそのような刺激に耐性ができるために重要なのではないかと考えられます。

アトピー性皮膚炎の管理
アトピー性皮膚炎の人は、乾燥した過敏な肌を持っていると言う事を念頭におくことが大事です。このような人の皮膚は一生過敏で弱い傾向があります。大切なことは環境が変われば皮膚の状態も変わるということです。今まで湿疹がおこらなくても、乾燥した地域に移ったら初めて出ることもあります。皮膚の乾燥を防ぎ、そして刺激を与えない事が最も大事です。肌が乾燥すると痒くなりやすく、そして痒くなると掻きますので、炎症をひどくします。そして炎症がひどくなるとまた掻くのでますます炎症をおこすという悪循環におちいります。ですから最初にこの悪循環のサイクルを断ち切るためには皮膚を乾燥させないことが大切です。

皮膚に対する刺激をさけるためには
*きめの粗い衣類(毛やナイロン)を直接肌につけないようにする。患者さん自信の衣類だけではなく、母親の衣類、毛布、絨毯、それにおもちゃなどにも気をつける。
*砂をなるべく避ける。砂場の遊びは非常に乾いた皮膚には刺激になります。海岸や砂場で遊んだ時はなるべく早く砂を体からとるようにして下さい。
*プールのクローリンも皮膚を刺激します。プールで泳いだあともなるべく早く薬品をシャワーで洗いおとしてください。また、泳ぐ前にべっとりとした油性の保湿軟膏をよく塗っておくことも大切です。
*草、芝生などの接触を避ける。
*石鹸、特に匂いの強い石鹸などなるべくつかわないように。
*香料のついた製品もなるべく避けるように。
*薬用製品(例えば消毒液)はなるべく避ける。
*過熱ーからだが暖まりすぎて汗をかきすぎると湿疹になる引き金となります。つねに風呂の温度や寝具や衣類に気を配るようにしてください。
これらの事項は、子供の日常生活が制限され過ぎない程度に注意するべきです。子供にとっては砂で遊んだり、あらゆるものの感触を肌で経験することも大事です。上記のこと以外にアトピー性皮膚炎をおこしやすい引き金もあります。
*気候の変化(熱過ぎたり寒すぎたりすることが刺激になります)
*風邪などの感染症がおこったとき
*予防接種を受けたとき
*空気中の抗原ーイエダニ、花粉、ペット(犬や猫)のふけ

合併症状
バクテリアによる感染を併発することがよくあります。普段、皮膚にはあらゆるバクテリアが生存していますが、皮膚を掻くことによって皮膚内にバクテリアが入り、感染します。保湿管理とステロイドの治療でなかなか改善しないような皮膚炎の場合、バクテリアの二次感染が考えられます。このような場合、抗生物質の投与も必要となります。
バクテリアだけではなく、ヘルペスヴイールスによる二次感染がおこることもあります。ヘルペスが確認されれば抗ヴイールス薬が必要となります。また、アトピー性皮膚炎の人は重症の口唇ヘルペスにもかかりやすいので、口唇ヘルペスの感染を持っている人にはなるべく接近しないように注意する必要があります。

乾燥した皮膚の管理
*お風呂に入れる油ー QV Bath Oil が効果的です。毎日、お風呂やシャワーで使用してください。
*皮膚軟化剤、保湿剤ーアトピー性皮膚炎の治療で最も大切な手段です。常時肌が乾燥しないように、できれば1日3回全身に塗るようにすると効果的です。また、保湿に気を配ることによってステロイドの使用を少なくすることができます。クリーム状のもの(10% glycerine in sorbolene)は軽症のとき、軟膏性のもの(Dermeze)は重症のときに使います。
*保湿剤を塗る場合、直接手でクリーム、あるいは軟膏を瓶から採らずきれいなへらのようなもので採って塗るようにしてください。手に細菌がついていれば容器に感染するかもしれません。また、クリームが入っている容器は他人とシェアーしないようにしてください。

副腎皮質ホルモン(ステロイド)
軟膏(透明)とクリーム(白色)がありますが、ほとんどの場合は軟膏のほうが皮膚に浸透性があり、効き目がいいようです。顔や脇の下など、皮膚が比較的弱い部分には Hydrocortisone や Logoderm のような弱めのクリームが使われます。副腎皮質ホルモンは皮膚に炎症がおこっているとき(赤くなったりかゆみがひどい)だけに使うようにしてください。肌が乾燥して少しざらざらしているような状態だけでしたら保湿剤をよく使用してください。
ステロイドは皮膚が赤くなってかゆみがおこっているとき(つまり炎症反応があるとき)にだけ使用し、炎症が治まれば保湿ケアーだけで皮膚の健康状態を保つようにするのが治療方針です。ステロイドはなるべく早めにアグレッシブに使用して炎症を抑えることが大切です。重症の場合、ステロイドを塗布した上に水に浸した布をあてて包帯やネットで患部に抑えておく方法が必要となることもあります。

ステロイドに関する懸念
*ひび割れの部分や湿った部分に塗らない方がいい?ーステロイドはひび割れ部分や二次感染がおこって湿っぽい部分の皮膚の回復に効果的で、危険ではありません。
*ステロイドは成長を留める?ー経口ステロイドと違い、皮膚に塗るステロイドはごく低量で、体循環にまで吸収されることはほとんどないので安全です。
*ステロイドは皮膚の色を濃くしたり薄くしたりする?ーごくまれにステロイドによって色素脱失がおこることもありますが、この場合、一時的な変化で、いずれ通常の色にもどります。むしろ、皮膚炎を治療せずに放置した場合のほうがこのような変化はおこりやすく、ステロイドをきちんと使用することによって改善しま す。
*ステロイドを使うと毛深くなる?ーごくまれにステロイドを長期使用するとその部分に繊毛が発生することはあります。
*ステロイドを使うと皮膚が薄くなる?ー強いステロイドを長期間(数ヶ月~数年)毎日のように塗っていればこのような変化がおこることはありますが、強いステロイドでも正しく、断続的に使用することによってこのような変化はおこりません。

鎮静(かゆみ止め)
ひどい湿疹でかゆみもひどく夜も眠れないような場合に使用します。 Vallergan や Phenergan などという抗ヒスタミン剤が使用されます。鎮静効果もある薬です。

食事について
食べ物が引き金となってアトピー性皮膚炎をおこすケースは全体の約10%です。アトピー性皮膚炎と比較的関連のある食べ物は卵、牛乳、麦、大豆、それにピーナッツですが、必ずしもアナフィラキシーをおこすようなひどいアレルギー反応ではありません。どのようなアレルギーのメカニズムがアトピー性皮膚炎をおこすのかはまだはっきりと解明されていません。ただし、80%の場合、5歳までには改善しているようです。
重症な皮膚炎で、しかも上記のような食べ物を摂取したあとに必ずアトピーがひどくなるというパターンがはっきりとしているような場合にはアレルギー検査をしてみる価値はあります。軽度の皮膚炎で、しかも食べ物との関連がはっきりと見られないような場合、ただ漠然とアレルギー検査をしてもあまり意味がありません。
一般的には妊娠中に好酸化物質(特にビタミンEとC)を摂ると幼児のアトピー性皮膚炎が軽くなるという統計データもあります。
また、乳幼児のビタミンE、葉酸と鉄分の摂取が充分であればアトピー性皮膚炎に関しては有益な効果があるようです。 

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