ジャパン/コンピュータ・ネット代表 岩戸あつし

――インターネットの「ほころび」が問いかけるもの
AIに翻訳を頼んだり、文章を整えてもらったりすることが、日常になりつつあります。しかし、その優れた能力は、私たちの目に触れない場所でも働いています。インターネットを守るために、そして時には、それを攻撃するために。
2026年10月、ウェブサイトを動かすプログラミング言語「PHP」に重大な弱点が見つかり、世界各地で緊急の対応が進められています。発見にはAIが活用されました。人間が見落としていた危険を探し出せることは、AIの大きな恩恵です。同時に、その力が悪用されたらどうなるのかという不安も浮かび上がりました。

何が問題なのか
PHPという名前になじみがない方も多いでしょう。これは、問い合わせフォームや会員ページなど、ウェブサイトの裏側の処理を動かすために広く使われている言語です。
今回の問題は、ウェブサイトを置くコンピューター、つまり「サーバー」の内部で、作業用の記憶領域を扱う仕組みに不備があったことです。条件がそろうと、外部の攻撃者がログインせずに不正な命令を実行し、情報を盗んだり、書き換えたりするおそれがあります。建物にたとえれば、正面玄関に鍵をかけていても、建物そのものに侵入経路が残っていたようなものです。ただし、PHPを使うすべてのサイトが、すでに被害を受けたという意味ではありません。

企業はどう動いているのか
PHPの開発チームは、問題を修正する更新版を公開しました。Google Cloudは、対応する一部のサービスで自動更新を行うとともに、利用者自身による更新が必要な環境を案内しています。ウェブサイトの保護サービスを提供するCloudflareも、今回の攻撃を遮断するための防御ルールを無料プランを含めて提供しています。ただし、こうした防御だけに頼らず、PHP自体を修正することが必要です。
オーストラリアでも、政府のサイバーセキュリティ機関ACSCが緊急の注意喚起を出し、PHPの使用状況の確認、更新、不審な動作の監視を呼びかけています。

シドニーの企業が、まずすること
自社のホームページを制作会社に任せている場合は、まず次のように問い合わせてください。
「当社のサイトはPHPを使っていますか。今回の脆弱性への対応は完了していますか」
大切なのは、「管理を任せているから大丈夫」と思い込まず、対応したことを確認することです。WordPressなどの画面から通常の更新を済ませても、その土台となるPHPの更新まで完了しているとは限りません。担当者には、修正版が実際に稼働しているか、不正アクセスの形跡がないかも確認してもらいましょう。すぐに更新できない場合は、一時的なアクセス制限や公開停止の必要性を相談します。

個人ではどうすればよいか
今回、直接の修正が必要なのは、主にウェブサイトを運営する側です。一般の利用者が、自宅のパソコンにPHPの修正版を入れる必要は通常ありません。
ただし、日頃の備えは変わりません。パソコンやスマートフォンを更新し、パスワードを使い回さず、可能なら二段階認証を設定すること。そして「緊急のセキュリティ対策が必要です」というメールが届いても、慌ててリンクを押さず、公式アプリやいつもの公式サイトから確認することです。自分でブログやネットショップを運営している方は、運営者として管理会社に対応を確認してください。

守る力も、攻める力も
今回の出来事で注目したいのは、AIが新たに弱点を作ったのではなく、すでにあった弱点の発見に役立ったという点です。しかし、弱点を見つける能力は、そのまま攻撃方法を考える能力にもつながります。Google側も、AIが発見だけでなく、攻撃手法の検証や修正の確認にも貢献したと説明しています。
AIは、私たちの暮らしを照らす光であると同時に、新たな影を生む力でもあります。その便利さを享受する私たちに必要なのは、漠然と恐れることよりも、身近な仕組みを確かめ、必要な手入れを怠らないことでしょう。会社のホームページについて、管理者に一本連絡を入れる。それもまた、AI時代を生きるための、確かな一歩です。

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