首藤まり子(Mariko SHUDO)
Mariko’s Wellness
Mental Health Counselor
精神科医・公認心理士(日本)
https://www.marikos-wellness.com
感情を“ためこまない”暮らし方

― 自分なりの「戻り方」を見つけるために ―
こんにちは。心理カウンセラーの首藤まり子です。
富田愛子先生と毎月交互にお届けしてきたこのコラムも、今回でちょうど12回目、一年の区切りを迎えます。
この一年、心や身体、日々のストレスや人との関わりなど、さまざまな角度から「自分自身とどう付き合っていくか」を考えてきました。
今回はその締めくくりとして、私たちが日々感じている「感情」との付き合い方について考えてみたいと思います。
生活していれば、腹が立ったり、不安になったり、傷ついたり、理由はよく分からないけれどモヤモヤしたりすることがあります。
そんな感情を「早く切り替えなきゃ」と追い払うのでも、ずっと抱え続けるのでもなく、さまざまな感情を抱えながらも、それに振り回されずに日々を過ごすにはどうしたらよいか。
今回は、そんな「感情をためこまない暮らし方」について、一緒に考えてみましょう。
感情は無理になくそうとしなくていい
怒り、不安、悲しみ、寂しさ、悔しさ、嫉妬。
私たちは、こうした感情を一般的に「ネガティブな感情」と考えます。
できれば感じたくないもの、早く消えてほしいものと考えます。
でも、そういう感情が芽生えるには、きちんと理由があります。
たとえば、怒りは「自分にとって大切なものが傷つけられた」と感じたときに生まれることがあります。
不安は「何か危険なことが起こるかもしれない」と自分を守ろうとしている反応かもしれません。
悲しみには、「自分にとって大切だったものの存在」が関わっていたりします。
もちろん、毎回その理由を分析する必要はありません。
ただ、
「こんなことで怒るなんて」
「また不安になっている」
「いつまでも落ち込んでいる自分はダメだ」
と、感情を感じている自分まで否定する必要はないのです。
「私、まだ怒っているんだな」
「思ったより傷ついていたのかもしれない」
「今日はなんとなく気分が晴れないな」
まずはそれくらいでも十分です。
あなたの中に、その感情があることを認めてあげてください。
「考えること」と「考え続けること」は少し違う
何か嫌なことがあると、その出来事について考えるのは自然なことです。
「あのとき、どうすればよかったんだろう」
「あの人は、どうしてあんなことを言ったんだろう」
考えることで状況を整理したり、次にどうするか決めることができることもあります。
一方で、同じ出来事が何度も頭の中をぐるぐる回り続けることもあります。
仕事中、仕事の後、帰宅後。
食事中やシャワーをしながら。
ベッドに入って寝る前に・・ずっとぐるぐる考える。
考えている時間は長い、でも何か新しい答えが出ているわけではない。
そんなときは一度、
「今これを考え続けることは、私の役に立っている?」
「疲れちゃってない?他のことが処理できなくてかえってマイナス?」
と自分に聞いてみるのも一つです。
「考えないようにしよう」と無理に追い払う必要はありませんが、「私はすごくそこに引っかかっているんだな」と認めてあげたうえで、
「もう少し考えたい?」
「それとも、今日はここまでにしておく?」
と、自分に問いかけてみる。
感情を無理に切り替えるというより、少し離れたところから今の自分を眺めてみるような感覚です。
感情は吐き出さなくてもいい
「ストレスはためこまず、誰かに話しましょう」
そんな言葉を聞いたことがあるかもしれません。
たしかに、誰かに話すことで気持ちが整理されたり、楽になったりする人はいます。
でも、誰にとっても「話すこと」が一番良い方法とは限りません。
話すことで楽になる人もいれば、書くことで整理できる人もいます。
身体を動かした方がすっきりする人もいるでしょう。
一人でじっと静かに過ごすことで、落ち着ける人もいます。
大切なのは、「感情はこうやって発散しなければならない」という正解を作らないことです。
感情との付き合い方にも、人それぞれに心地よい方法があります。
「ストレス発散らしくないこと」が役に立つこともある
「ストレスを発散しよう」と考えると、運動をしたり、趣味を楽しんだり、友人と出かけたり、といったことを思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それで気分が軽くなるなら素敵な方法です。
でも、特別なことをしなくても、日常生活の中で自然と感情から距離を取っていることがあります。
- 料理をする
- コーヒーやお茶を淹れる
- 庭仕事をする
- 音楽を聴く
- 犬と散歩する
- 家族とくだらない話をする
- シャワーを浴びる
- 車を運転する
- 何もせずぼんやりする
何をするかは、それほど重要ではありません。
何か別のことに意識を向けているうちに、さっきまで頭の中の大部分を占めていたことが、いつの間にか少し小さくなっている。
そんな経験はないでしょうか。
これは「問題から逃げている」ということとも少し違います。
人の注意には限りがあります。
同じことを考え続ける状態からいったん離れ、身体を動かしたり、五感を使ったり、別のことに注意を向けたりすることで、感情との距離が少し変わることがあります。
「セルフケアのために何かしなければ」と考える必要もありません。
あなたが普段の生活の中で、自然と少し楽になれること。
それが、あなたにとっての一つの方法なのかもしれません。
自分なりの「戻り方」を知っておく
私たちは、嫌なことが起こらないように生きることはできません。
不安になることも、腹が立つことも、傷つくこともあります。
だからこそ、「どうしたら嫌な感情をゼロにできるか」よりも、
「私は何をすると、少し穏やかな自分に戻れるだろう?」
と考えてみる方が良いかもしれません。
これは特別な行動である必要はなくて、前項のストレス発散でも出てきたように、料理や散歩など、日常生活のなかから見つけることができることも多いです。
その方法は一つでなくても構いません。
また、同じ人でも、その日の状態によって必要なものは違います。
今日は誰かに聞いてほしい。
今日は一人にしてほしい。
どちらもあっていいのです。
普段から、「そういえば、私はこれをすると少し楽になるな」と見つけられるよう意識してみる。
自分の感情をうまくコントロールするというより、穏やかな自分に戻ってこられる方法をいくつか持っておく。
そんなイメージです。
「まだ引きずっている自分」を責めない
一方で、何をしてもなかなか気持ちが切り替わらないこともあります。
そんなとき、
「いつまで気にしているんだろう」
「もっと前向きにならなきゃ」
「こんなことで落ち込む自分は弱い」
と、自分を責めてしまうことがあります。
でもそうすると、嫌だった出来事に加えて、その感情を持っている自分への批判まで抱えることになります。
「まだ気になっているんだな」
まずは、それくらいで大丈夫です。
そのうえで、
「今はもう少し考えたいのかな」
「誰かに話したいのかな」
「今日は休んだ方がよさそうかな」
「それとも、今は別のことをして過ごしたいかな」
と、今の自分に合う方向を探してみる。
すぐに答えが見つからなくても構いません。
自分を責めず、今の状態を素直に受け入れることそのものが、感情に振り回される状態から少し距離を取る第一歩になります。
それでもなかなか戻れないとき
感情には波があります。
時間とともに自然に小さくなることもあれば、長く続くこともあります。
- 同じことが何週間も頭から離れない
- 不安や怒り、悲しみがとても強い
- 眠れない、食欲がない
- 仕事や家事、育児に支障が出ている
- これまで楽しめていたことを楽しめない
- 自分一人ではどうしたらよいか分からない
そんな状態が続いているなら、一人で何とかしようとする必要はありません。
家族や友人に話してみる。
カウンセラーや心理士などの専門家と一緒に整理してみる。
誰かと話すことで問題そのものがなくなるとは限りません。
でも、自分の中だけでぐるぐるしていたものを言葉にしてみることで、少し違った角度から見えることもあります。
おわりに
「感情をためこまない」と聞くと、嫌な感情は早く吐き出して、すっきりしなければならないように感じるかもしれません。
でも、感情は必ずしも消してゼロにしないといけないものではありません。
怒る日もある。
不安な日もある。
どうしても気持ちが晴れない日もある。
そんな自分に気づいたら、
「今、私はこう感じているんだな」
と、まずは少し眺めてみる。
そして、その感情に浸り、耳を傾ける日があってもいい。
今日はここまで、と一旦箱にしまっておく日があってもいい。
大切なのは、いつも上手に切り替えられることではなく、自分なりの「戻り方」を少しずつ知っていくことです。
感情は、なくすものでも、無理に抑え込むものでもありません。
感じたり、立ち止まったり、ときには少し距離を取ったりしながら、また目の前の生活へ戻っていく。
そんなふうに自分の感情と向き合うことができれば、必要以上に自分を責めることも減っていくはずです。
このコラムが、ご自身の感情と、少し違った視点から向き合えるきっかけになれば幸いです。