鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


高齢者の健康を維持し、なるべく長く高質なクオリテイーオブライフ(精神状態, ストレスレベル、 性的機能、自己認知している健康状態などを含む患者の総合的な生活状態)を続けることが医療の大きな目的です。そのためには主に二つの手段があります。
まず第一に予防接種により、感染症によっておこる罹病率と死亡率を下げることです。
インフルエンザ、肺炎、破傷風の予防接種がこの年齢期では大切です。
第二には治療可能な病気の早期発見です。このためには定期的に検診を受け、早めに治療をして合併症などがおこらないようにすることが大切です。高血圧、糖尿病、高脂血症などはこれにあてはまります。あるいは、癌などでも発見が早ければ早いほど完治する可能性が高くなります。乳癌、大腸癌、前立腺癌にはそれぞれスクリーニングテストがあります。

下の図に必要なチェックポイントをまとめてあります。

予防医療で重要な4つのポイントは
1)高血圧、
2)糖尿病、
3)高脂血症、
4)喫煙をコントロールすることです。
どれも動脈硬化をおこし、心筋梗塞、狭心症、脳卒中などと命取りとなるような疾患をおこす大きな危険因子です。

<頭>

*脳

脳卒中や認知症で自分の身の回りの世話ができなくなったり家計の判断ができなくなって
しまった時の事を考えて事前に家族と話し合って委任権をだれに託しておくかを決め、弁護士に伝えておくべきです(Power of Attorney)。また、大怪我や病気で意識不明になったときにどこまでの蘇生治療を施すかなどに関する指示も考慮して用意しておくことも薦められます(Advance care directive)。あらゆる予期できない状況が発生する可能性もありますので指示はなるべく細かくしておくほうがいいと考えられます。そしてこのような文書が実在することを家族やかかりつけの医師にも伝えておくことも大切です。
脳卒中をおこす危険因子は上記の4つのことが挙げられます。定期検診でこの4つの危険因子がコントロールされているかということをみておくことが大切です。もし問題があれば早期に対処しておかなければなりません。
認知症をおこす大きな要因には、アルツハイマー病と血管性疾患があります。
アルツハイマー病は脳内に老年班(Senile plaque)と神経原線維濃縮体(Neurofibrillary tangles)という病理学的変化がおこってなるタイプの認知症ですが、原因はわかっていません。
血管性疾患あらおこるタイプの認知症は動脈硬化の影響で脳の中に小さな塞栓がおこっていき、脳の機能を低下させていくものです。塞栓自体はほとんどが無症状です。
認知症を予防するためにはやはり定期的に検診を受けて血圧、糖尿病、高脂血症についてのチェックをし、喫煙者はなるべく禁煙を心がけるようにしなければなりません。また、このような危険因子を持っていない人でも、認知症の予防法として脳の学習活動を続けるようにすることが大事です。仕事の引退を見合わせたり、ボランテイア活動を始めたり、新しい趣味を追求したり、新しい語学に挑戦するなど、常に脳の活動を活発にしておくように心がけてください。

*耳

年齢とともに耳小骨や視神経の退化がおこり、難聴がおこりやすくなってきます。65歳を過ぎたら、年に1回は聴力のチェックをしておくと良いでしょう。必要ならば補聴器を使わなければなりませんが、最近の補聴器は小型、軽量化が進み、付けていてもそれほど目立ちません。

*目

年齢とともに視力も低下しやすくなっていきます。65歳を過ぎれば1年に1回はGP、眼科医、あるいは検眼士で目の検診を受けておくべきです。白内障(Cataract)は水晶体(レンズ)が曇る疾患ですが、高齢とともにおこりやすくなります。糖尿病の人はよりおこりやすいので要注意です。レンズの曇りがひどく、毎日の生活に支障がおこるようでしたら手術で人工レンズと交換すれば視界はすっきりします。
緑内障(Glaucoma)は眼圧が高くなる現象で、放置しておくと視神経が萎縮し、視覚障害をおこします。この疾患も糖尿病との関連が認められています。治療法は点眼液で眼圧を下げることがほとんどですが、緑内障のタイプによっては手術をすることもあります。
黄斑変性(Macular degeneration)は網膜の黄斑という一番光を受け取る重要な部分におこる疾患で年齢とともに起こりやすくなります。また、喫煙、肥満とも強い関連があります。高脂血症、高血圧との関連もありますので、これらの危険因子を見ておくことが大切です。

<癌>

*大腸癌

50歳を過ぎたら2年に1回は便の潜血反応をみる検査をしておくことが薦められています。
陰性反応が続くようでしたら75歳まで続けるようにしてください。
症状が出てくる以前の早期発見が大切です。もし強い家族歴があるようでしたら定期的に腸の内視鏡検査も受けることが薦められています。

*乳癌

50~70歳まで2年に1回はマモグラム(Mammogram)を受けておくべきです。それ以外には1ヶ月に1回ほど、入浴のときにでも自分の胸を触診するようにしてください。変化がおこった時に早く気づくはずです。また、1年に1回は医師の触診を受けておくことも薦められています。

*前立腺癌

この癌の早期発見に関する検診法に関しては医師の間でも多少の食いちがいがあり、現在はっきりとした方針はありません。しかし、年齢とともに発生率は高くなりますので、50歳を過ぎればGPと相談して何らかの対策を考慮しておくべきです。方法としてはPSA という血液検査と医師による前立腺の触診があります。

*皮膚癌

皮膚癌の種類は主に3つあります。基底細胞癌(Basal cell carcinoma)、扁平上皮癌(Squamous cell carcinoma)、そして黒色腫(Melanoma)ですが、いずれも日光(紫外線)の照射量が多いほどおこりやすい癌です。色白の人、屋外での生活時間が長い人、そして日光の強い地域に住んでいる人(赤道に近づくほど日差しは強くなります)は要注意です。リスクの高い人は定期的に全身の皮膚のチェックをしておくことが薦められます。

<筋骨格系>

*骨粗鬆症

特に女性の場合、閉経後から徐々に骨密度は低下していきます。もし、この低下の度合いが早く、臨界点に達すると骨折がおこりやすくなります。骨折は背骨と股関節によくおこりますが、特に股関節の大腿骨頸の骨折がおこれば大きな手術や長期入院が必要となったりします。70歳から骨密度の検査はメデイケアーでカバーされます。それ以前に検査をする場合は自費となります。もし、すでに骨折があり、骨粗鬆症の確認のために骨密度を測る場合はメデイケアーのカバーがあります。
骨粗鬆症を防ぐためには適度に運動(散歩、ジョギングなど下半身に体重をかける運動)をし、カルシウムを充分に補給することが大切です。もし、日光の照射量が少なければビタミンDが低下していることもありますので日光に充分に当たれないような生活でしたらビタミンDの補給も必要となることもあります。たばこ、アルコールは骨粗鬆症を早めますのでたばこは止め、アルコールの摂取量は1日2杯以下にしておくべきです。
もし、年々背が低くなっていたり、猫背になってきているようでしたら骨粗鬆症により背骨に骨折がおこっているかもしれませんので検査が必要です。

*変形性骨関節炎

この関節炎はリューマチ性関節炎とはちがい、年とともに関節の軟骨が消耗することによっておこる関節炎です。体重がかかって負担の大きい関節(膝や股関節)や職種によって手をよく使う人の指関節などによくおこります。予防法は関節への負担を減らすために体重を落としたり関節のまわりの筋肉を補強する体操をしたりすることです。また、どうしても年齢とともに筋力も低下してきますので運動を続けることも大切です。

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