鳥居泰宏/ Northbridge Family Clinic


糖尿病性神経障害(Diabetic peripheral neuropathy)

糖尿病は体内のあらゆる臓器に影響を及ぼしますが、神経系統、特に末梢神経への影響はよく注意を払わなければいけない問題です。血糖値のコントロールが悪ければ悪いほど末梢神経の損傷は進みます。また、早期にこの問題を発見して対処すれば足の潰瘍、足の切断などという事態を防ぐことができます。

末梢神経障害のおこるマカニズム

末梢神経は糖分を代謝することによって働きますが、糖のレベルが高すぎると神経に対して毒性効果が現れるようです。また、高血糖による動脈硬化から神経を供給している動脈も細くなり、神経細胞が酸欠状態になって神経損傷もおこるのではないかと思われています。
足を供給している末梢神経が1mほどの長さで一番長いのでまず最初に影響されます。ですから糖尿病性神経障害は手よりも足から先におこります。

 

末梢神経障害のタイプ

糖尿病性神経障害には二つのタイプがあります。

*無感覚の神経障害:皮膚の感覚がなくなり、しびれている状態。初期は本人が気づかないこともよくあります。アキレス腱反射がなくなったり振動覚がなくなったりすることもあります。また、自律神経線維もおかされていたら発汗機能がなくなり、皮膚が乾いてひび割れたりもします。

*痛みを伴う神経障害:こちらのタイプの方がおこる頻度は低めです。ピリピリするような痛み、灼熱感、刺されるような痛み、電気が走るような痛みなどがあります。また、痛覚過敏になることもあります。痛みは夜間に増すようです。痛みを伴うタイプでも多少の無感覚がおこることもあります。

無感覚タイプは小さな神経線維にも大きな神経線維にもどちらにも異常がおこっています。痛みを伴うタイプの場合、主に小さな神経線維に異常がおこっています。なぜ人によって神経障害のタイプが異なってくるのかはわかっていません。

鑑別診断

糖尿がある患者さんで左右の足に対照的に末梢神経の症状がおこっていれば診断は比較的簡単ですが、そうでないこともよくあります。他にも末梢神経障害をおこす疾患はいくつかあります。
*アルコール乱用 *ビタミンB1,B12不足 *甲状腺異常
*癌 *HIV *単クローン性ガンマグロブリン血症
*重金属神経障害 *自己免疫疾患 *サルコイドーシス(類肉腫症)
*アミロイドーシス  *ギランバレー症候群

末梢神経障害がおこっている場合、次のような検査が考慮されます。
*血糖値、グリコヘモグロビン
*甲状腺機能
*B12レベル
*自己免疫疾患のスクリーニング(リューマチ因子、抗核抗体、抗リン脂質抗体など)
*アンギオテンシン変換酵素レベル(サルコイドーシス)
*免疫電気泳動 (immunoelectrophoresis)

末梢神経障害の原因がはっきりとしない場合は神経伝導検査もしなければならないこともあります。

 

末梢神経障害の予防

糖尿病の患者さんが末梢神経障害をおこす一番の要因は血糖値のコントロールです。無感覚タイプの神経障害は血糖値をきびしくコントロールすることによって50%は防げます。血糖値のコントロールはグリコヘモグロビン(HbA1C)の数値を使って判断します。Hba1C は過去3ヶ月間の血糖値の動きの範囲を測る数値で、6-7%が最も望まれる数値です。血糖値以外には高脂血症も末梢神経障害に影響を及ぼすのではないかと考えられています。

末梢神経障害の対処法

糖尿病の末梢神経障害は基本的には不可逆性のものです。ですから、糖尿のコントロールをよく保ち、進行を防ぐことが大切です。無感覚の神経障害は少しずつ、何年もかかって悪くなっていきます。痛みを伴う神経障害の場合は12ヶ月以内で発展した場合は早く解消する傾向にあります。12ヶ月以上かかって進展した場合は悪化し続けたり、状態が安定したり、良くなったりもします。

*無感覚の神経障害:この場合、足の皮膚の感覚が鈍くなっているので痛みを感じにくくなります。ですから火傷をしたり皮膚に傷が入っても気付かずにいて足の潰瘍がおこったり化膿したりしてしまいます。ひどければ指先や足を切断しなければならないこともおこります。足のケアーに関して、次のような点に注意しなければなりません。

運動

  • なるべく体重をかけない運動をする(水泳、水中エアロビックス、上半身の体操)
  • 散歩やランニングは足にストレスをかけるので避ける
  • 運動中、足に強い日射しがあたることを避ける(日焼けを防ぐため)

履き物

  • 靴はよくオープンなものではなく足を包み込んで保護してくれるようなものにする。指先には充分スペースのあるもので、柔軟性のあるゴム底で縫い目がなめらかなもの。踵は広く、低いもの
  • 場合によってはカスタムメードでなるべく足への圧迫点が少ないものを注文しなければならないかもしれません。
  • 新しい靴は履き慣れるまで短時間ずつ履いてみるようにしましょう
  • 靴下は自然繊維のもので靴下の上部がきつすぎないように注意する

足の衛生

  • 足は毎日暖かい石けん水で洗い、指の間はよく乾かす
  • 足、特に指の間は毎日点検する
  • 足が乾きすぎないようにも注意し、必要に応じて保湿クリームも使用する
  • 切り傷や擦り傷などがなかなか治らない場合は医師の診察を受ける

その他

  • 足療医(podiatrist)でも定期的にチェックを受けうおのめ(corn)やカルス (callus)はなるべく早めに処置してもらう
  • 足に傷や潰瘍がおこれば食塩水でそっと洗い、粘着性のないガーゼでカバーする。炎症がおこっていたり化膿している様子ならば早急に医師の診察を受け、抗生物質を使用する

*痛みを伴う神経障害:痛みをコントロールすることは困難な場合もあります。夜間にひどくなることが多く、睡眠がよくとれず、鬱状態になることもあります。ほとんどの場合、投薬治療が必要です。人によって効く薬もことなりますので適切な薬に到達するまでには何種類かを試してみなければならないこともあります。現在よく使われる薬はDuloxetine という薬で鬱病にも使われる薬です。その他にはGabapentin や Pregabalin という抗てんかん剤もあります。あまりに痛みがひどければオピオイド系の痛み止めと Gabapentin を組み合わせて使うこともあります。鍼治療、経皮的電気神経刺激法、ヨガなどが効果のあることもあります。

糖尿病性神経障害は糖尿が初めて診断された人の20~30%にすでにおこっています。とくに無感覚の神経障害は徐々に進み、本人がなかなか気付かないことも多いので診断された時点から足を定期的にチェックすることが大切です。また、それ以上の進展を遅くするためにもきちんと糖尿の治療をし、血糖値をよくコントロールしておくことが大切です。

黄斑変性(Macular degeneration)

先進国のあいだでは一番の失明の原因です。高齢者に多く、50才以上の人口の7人に1人、80才以上なら3人に1人におこります。黄斑とは眼球の奥の網膜の限られた部分をいいます。直径5mm ほどの部分で、光受容体が一番密集し、色を感受する細胞も含まれています。最も重要な情報が多い視野の中央部の光を受けて分析できるように黄斑は眼球の最後部に位置します。目の感染症、白内障、緑内障、糖尿病などその他の失明の原因は治療できるようになってきていますが、黄斑変性の治療はまだ困難とされています。

黄斑変性の原因

原因ははっきりとわかっていませんが、遺伝的要素と環境の影響の相互作用であると考えられています。黄斑変性には2種類の型があります。萎縮型(Dry macular degeneration)は比較的良性で進行も遅いタイプで、網膜が老齢化とともに薄くなり、ドルーゼ(Drusen)という硝子様の沈着物が蓄積していきます。滲出型(Wet macular degeneration)は網膜の裏にある血管膜から新生血管という新しい血管が発生し、浮腫や出血をおこします。このタイプのほうが進行が早かったりもっと深刻な視力低下をおこす可能性があります。発生率は萎縮型が90%に対し滲出型が10%です。

危険因子

*喫煙:喫煙者は黄斑変性がおこるリスクが4倍になります。
*高齢:高齢者ほど発生率が高まります。
*遺伝:家族で黄斑変性の人がいればなる可能性が高まります。
*肥満:肥満の人はリスクが2倍以上高まります。運動不足もよくないようです。

その他
*人種:白色人種の方が発生率は高いようです。
*高血圧
*高脂血症
*紫外線

症状

早期にはあまりはっきりとした症状はありません。ほとんどの場合は症状も徐々に進んでいきますのではっきりとおかしいと気が付いたときには病気はかなりすすんでいるかもしれません。滲出型の場合は症状が急に悪化することもあります。片目だけがはじめにかかった場合、健康な目が症状をカバーするので気が付きにくいかもしれません。中心視に陰のようなものが見えたり、視野がぼけたり視像が歪んだり、暗いところでものが見えにくくなったりします。いずれ視野の中心部が見えなくなったり、色覚が低下したりもします。アムスラーグリッド(下)という格子状の試験表で比較的初期の診断ができます。

 

検査

眼科で眼底検査や光干渉断増像(Ocular coherence Tomography, OCT)という検査などが必要です。このOCTという検査は超音波の一種で、上図のような黄斑の断面を診て網膜と網膜色素上皮、それに脈絡膜の隙間にどのような変化がおこっているかを確認するのに役立ちます。治療の経過観察にも利用されます。滲出型の場合は蛍光眼底造影法(Fluorescein angiography)という検査も必要です。この蛍光眼底造影法では網膜の血管の様子を見て新生血管があるかどうか、あるいはその位置、それ出血しやすい状態かどうかなどをチェックします。

治療

萎縮型の場合、喫煙などの危険因子を避ける以外には治療法はありません。亜鉛、ビタミンCとE、ベータカロチンなどは予防と病気の進行を遅めることに役立つかもしれません。Macu-Vision という市販の薬はビタミンCとE、それに亜鉛と銅が調合されていて黄斑変性に薦められています。食べ物でいいとされているのが緑の野菜、ナッツ類、魚、オリーブオイルなどです。アルコールやチーズは控えた方がいいようです。滲出型の場合はレーザー治療で異常な血管を封鎖し、出血や液の滲出を防止することができますが、すでにおこった損傷を戻すことはできません。滲出型でおこる新生血管は血管内皮増殖因子という物質の影響で発生します。最近ではこの血管内皮増殖因子の働きを阻止する薬もできています。
Avastin, Lucentis, Eyleaという薬がオーストラリアでは使われています。このような薬は眼球の中に直接注射されます。眼球の角膜に近い強膜に局部麻酔をし、そこから眼球の硝子体にこの薬を注入します。眼科医の診療所でできる治療です。1-2日間は目がざらつくような感触があるかもしれません。飛蚊症(眼前で点が動き回るように見える状態. 硝子体中の発生上の硝子体血管系の遺残から生じる)がある人は注射後、硝子体の中の物体が動くので、点が視野の中で違う位置にうつることもあります。この治療は黄斑変性の進行を抑えることが目的で、その状態を保つためには定期的に、数週間後ごとに繰り返して行わなければなりません。経過が良ければ注射の頻度を伸ばしていくことはできます。

 

一過性脳虚血発作(Transient ischaemic attack)

この疾患の定義は脳の循環障害による24時間以内に消散する一過性の神経症状です。ほとんどの場合は数分で治まりますが、24時間以内でも継続時間が長いほうが重症です。症状は片麻痺、感覚異常、失語など脳卒中で見られるような症状が主です。
TIAは脳卒中がおこる前兆としての危険信号です。TIAを経験した人の25%は90日以内にTIAの再発、脳卒中、心筋梗塞のような循環器系統の疾患をおこすかあるいは失命します。TIAをおこした後に早急に対処すれば脳卒中をおこす危険率を80%削減することができますので、この病気を認識しておいて症状がおこった場合にはすぐに医師の診断を仰ぐことが重要です。症状が数秒で終わってしまうこともありますのでそのまま無視していると命取りとなる危険もあります。

症状

この疾患の特徴として、症状は突発的におこること、神経疾患特有の症状(例えば片麻痺、失語、複視)があること、それに患者さんの背景には循環器系の危険因子(動脈硬化をおこすあらゆる要因、あるいは不整脈)が潜んでいることです。

*複視(物が二重に見える症状)
*一過性黒内障(片目の視界にカーテンのような膜が降りて視野がぼける症状)
*同側半盲(両目の視野の同じ側の部分が見えなくなる症状)
*顔面下垂
*失語(聞く、話す、読む、書くの言語機能がおかされる)
*構語障害(音を発生する筋肉の麻痺による不明瞭言語)
*錯乱状態
*片麻痺(身体の片側の筋力が低下すること、あるいは無感覚になったりしびれること)
*微細運動の低下(細かい手先の動きができなくなる)
*歩行障害
*運動失調
*めまい
*倒れ発作、失神

上記の症状がすべて現れるわけではありません。脳の血液の供給は大きく分けて内頸動脈領域(Internal carotid artery)と椎骨脳底動脈領域(Vertebrobasilar artery)があり、それぞれの領域の中でどの支流で血栓が詰まったかによって症状が違ってきます。例えば椎骨脳底動脈領域内の疾患でしたらめまい、倒れ発作、運動失調などの症状、内頸動脈領域内でしたら失語、片麻痺などの症状がおこります。

危険因子

TIAがおこりやすくなる危険因子には次のようなものがあります。
*高血圧
*糖尿病
*喫煙
*高脂血症
*不整脈(心房細動)
*高齢
*心不全

鑑別診断

*偏頭痛(通常TIAの場合は痛みはありません)
*てんかん(てんかん後の錯乱状態と似ていることもありますが、てんかんはTIAではおこりません)
*前庭迷路の疾患(例えば良性頭位めまい症)
*末梢神経、あるいは神経根の損傷(痛みを伴うしびれTIAでは痛みはありません)
*ベル麻痺(顔面神経麻痺)
*低血糖(糖分を与えれば症状が改善するはずです)
*身体表現性障害(身体疾患を示唆する身体症状があるものの, 明らかな器質所見や既知の生理学機序を欠き, 心理要因と関連している有力な根拠があるか, それを強く疑わせる一群の障害)

検査

*脳のイメージング検査:脳の中のどの部分にどのような循環障害があるかを明らかにし、予後徴候を判断するためにTIAの症状がある患者さんすべてにする必要があります。
しかも、この検査は24-48時間以内に受けるべきです。CTスキャンか、可能ならばMRIが適切です。MRIのほうが得られる情報が多いという利点があります。大きな都市の規模の大きい公立病院にはTIAや脳卒中の患者さんに早急に対応できる施設があり、CTやMRIも早めに受けることができるはずです。
*血管”造影”検査:TIAの多くのケースは頸部の動脈内頸動脈、あるいは椎骨脳底動脈)に蓄積したじゅく状班から小さな破片(あるいは血栓)がとび、脳内の小さな血管に詰まって脳の一部分を虚血状態にする疾患です。頸部の動脈にこのようなじゅく状班が存在するかを見極めるために超音波ドプラー検査かCTやMRI血管撮影が必要となります。また、班による血管の狭窄度も調べることができます。
*心電図、ホルター心電図:心房細動という不整脈がおこっていると心臓内に血栓ができやすくなりその血栓がとんでTIA, あるいは脳卒中をおこすことがあります。もしTIAがおこってすぐにとった心電図で心房細動が認められなかった場合でもこの不整脈は間欠的におこることもありますのでその疑いが強ければ24時間のホルター心電図も必要となります。
*心エコー図:心不全、心筋症、心臓弁膜症、それに心房に血栓が存在するかなどの情報を得られます。
*血液検査:危険因子の有無を確認するため、コレステロール、中性脂肪、血糖値などは調べておく必要があります。その他には血中電解質、腎機能、肝機能、血色素、白血球数、血沈なども調べます。
ホモシスチン血症(Homocystinemia)、抗リン脂質抗体症候群(Antiphopholipid antibody syndrome)などという病気は血栓ができやすく、TIAや脳卒中との関連もあるので他に目立った原因が見つからない場合はこのような検査もします。

 

治療

TIAの患者さんすべてに何らかの抗血栓対策を施行しなければなりません。

*心房細動の場合:ほとんどはワーファリンという抗血液凝固薬が必要となります。この薬の投与量は血液検査でINRという数値(血液の凝固作用を測る検査)をモニターしながら調整しなければなりません。もしどうしてもワーファリンが使えない場合はアスピリンかクロピドグレル (Clopidogrel)という薬が使用されますが、心房細動の場合、ワーファリンほどの効果はありません。
*心房細動がない場合:血小板が粘着性があり、固まりやすいと血栓ができやすくなりますので血小板を抑制する薬が使用されます。低用量アスピリン(1日75~150mg), クロピドグレル、あるいはダイピリダモール(Dypyridamole)という薬が使われます。クロピドグレルとアスピリン、あるいはダイピリダモールとアスピリンが混合で使われることもあります。アスピリンとクロピドグレルでは胃痛、吐き気、下痢などの消化器系統の問題、ダイピリダモールは頭痛などが比較的よくおこる副作用です。また、注意すべき点は、これらの薬と非ステロイドせい抗炎症薬(Non-steroidal anti-inflammatory drug)やプロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitor, 胃酸の分泌を抑える薬)と併用した場合には効果が低下することもあります。

頸動脈狭窄が顕著な場合(70%以上の狭窄)は外科治療が効果があります。TIAがおこってから2週間以内に治療できれば最も効果があります。

*動脈内膜切除術(Endarterectomy):この手術は血管内に蓄積したじゅく状班を剥がし取る手術です。
*ステント(Stent):狭窄がおこっている部分にカテーテルを通して挿入し、血管内の交通性を確保する器具。ただし、術中のリスクが内膜切除術よりも高いのであまり使われていない方法。

上記の点以外にTIAにつながるような危険因子をよくコントロールしておかなければなりません。

*コレステロール:TIAをおこした患者さんは血中コレステロール数値がそれほど高くなくてもスタチン(Statin)というコレステロールを下げる薬を投与されます。この薬にはコレステロールを下げる効果以外に脳卒中やTIAの患者さんを保護する効果があるようです。
*高血圧:ACE阻害薬(ACE inhibitor)とアンジオテンシン受容体遮断薬(Angiotensin receptor antagomist)という系統の薬がよく使われます。
*糖尿病:約3ヶ月間の血糖値のコントロールを表すHbA1Cという血液検査の数値を7~7.9%の範囲に保つことが大切です。
*喫煙:TIA や脳卒中をおこした患者さんは禁煙することが必須です。

最近話題のダイエット

ダイエットにもあらゆるタイプがあります。科学的な根拠があるものと全く根拠のないものまであります。ここではその効果に対して多少の科学的エビデンスのあるものを紹介します。いずれにしろ、ダイエットは人それぞれに合ったものとそうでないものがあります。一番その人の生活に無理なく導入できるもので、長期間持続できるダイエットでないと、例え一時的に体重を落とすことができてもまた以前の生活習慣に戻ってしまったらまた体重が増えてしまうことはよくあることです。

5:2ダイエット

内容:

週5日は制限なしに食べる。週2日だけカロリー制限をする(男性は1日600cal、女性は1日500cal)

科学的に証明されている効果:

断続的(5:2)なカロリー制限と継続的(毎日)なカロリー制限を比較したところ、
-短期間(1ヶ月)では5:2ダイエットの方が減量が多かったが、長期間でのデータはまだ出ていない
-体重、体脂肪、糖代謝に関する影響は両者ともに類似した結果
-5:2ダイエットは少なくとも短期間では効果があるが、継続的なダイエットより優っているとは言えない

利点:

-人によっては毎日継続するダイエットよりもライフスタイルにマッチしやすい
-悪い習慣を断ち切るのに役立つこともある

欠点:

-カロリー制限日に集中力、気分やエネルギーが低下するかもしれない
-カロリー制限日の空腹感に耐えることができるか
-長期間持続することが困難かもしれない

注意点:

-糖尿病で低血糖をおこす可能性のある薬を使用している場合、カロリー制限日に薬の量を調整しないと低血糖がおこる危険もある
-食後、あるいは食事とともに服用しなければならない薬を飲んでいる場合、カロリー制限日に薬の血中濃度が上がり過ぎる危険
-5日間はカロリー制限がないと言っても制限日のロスを取り返そうとして無制限に過度に食べてしまえばこの ダイエットの効果はありません

高脂肪、低炭水化物ダイエット

内容:

目標は脂肪分50%、炭水化物25%、タンパク25%

食べていいもの

・バター、ココナッツオイル、油の多い魚、卵、肉、鶏、チーズ、野菜(でん粉質の低い)、ナッツ、種子
・適度のタンパク
・脂肪分は制限なし

避ける食べ物

・穀物、加工食品、燻製の肉、でん粉質の多い野菜(芋など)、フルーツジュース、ビール、ソフトドリンク、豆乳、低脂肪牛乳、種油、チョコレート、糖、ドライフルーツ

原理:

人間のエネルギー源は炭水化物(糖質)、蛋白質、そして脂質の3つですが主に炭水化物と脂質です。体内のカロリー貯蔵量は糖質が2500カロリーで脂質は50000カロリーあります。身体がエネルギーを必要としているとき、まず最初に糖質が消費され、さらにエネルギーが必要ならば、次に脂質が消費されていきます。低炭水化物ダイエットで体内の糖質貯蔵量を低くし、ケトン症状態(餓鬼)に近い状況にしておけばエネルギーが必要とされたとき、体内の脂肪分から消費されていくという原理です。ただし、糖質が一番エネルギーへの変換が早いので筋肉の瞬発力が必要なときにはこの状態ですとスポーツでの動きが遅くなるようです。また、脳のエネルギー源は炭水化物のブドウ糖なので、悪影響がおこる可能性もあります。
また、高脂質のものでも動物性由来の脂質が締める割合が高ければLDLコレステロール(悪玉)値が上がる危険もあります。

科学的に証明されている効果:

-低脂肪、高炭水化物ダイエットに比べ、高脂肪、低炭水化物ダイエットはLDLコレステロール(悪玉)が上がり、空腹時のインスリンが低下した
-両グループともに減量レベルは同等だった
-高脂肪、低炭水化物ダイエットでケトン症様の状態になった場合、身体の脂肪以外の(主に筋肉)部分が低下するが、適切な体操も行えばこの減少を抑えることができそう

利点:

-加工食品の摂取が少なくなる

欠点:

-バターやココナッツオイルを多く摂ると飽和脂肪が多すぎ、LDLコレステロール値が上がる
-炭水化物の摂取が少なすぎるとめまいがしたり集中力が落ちることもある
-ケトン症になると吐き気がしたり口臭がめだったりする
-ビタミンB1や食物繊維が不足気味になる
-食べ物のバラエテイーが限られてくる
-外食しにくい

注意点:

-妊婦や糖尿病の患者さんにはむいていません
-胆嚢を摘出した人や脂肪分の消化に問題がある人にはむいていません
-飽和脂肪(バターなど)を摂りすぎるとLDLコレステロールが上昇します

 

パレオダイエット

内容:
パレオとはパレオリシック(旧石器時代)の略で、パレオダイエットとは自然界から手に入る食べ物だけを食べ、人間によって生産された食物や化学品や遺伝子組み換え技術を用いて作られた食物は除外するダイエットです。
炭水化物はほとんど摂取しないという点は高脂肪、低炭水化物ダイエットと似ています。

食べていいもの
・肉、魚、卵、ナッツ、種、フルーツ、ほとんどの野菜
・旧石器時代にあった食べ物(動物の肉だけではなく、内臓などすべての部分)
避ける食べ物
・乳製品、穀物類、豆類、白い芋、加工食品、加工された油、精製された糖分、塩、アルコール、コーヒー
・家畜化された動物から作られた食物

科学的に証明されている効果:
-通常薦められている健康的なダイエットと比較して:
*パレオダイエットの方が中性脂肪、LDLコレステロール、糖尿病の指数、血圧、その他にメタボリック症候群の兆候が低下した
*減量効果は同等
*パレオダイエットのほうがエネルギー摂取、ビタミンB1,リボフラビン、ナトリウムとカルシウムの摂取量が低め
利点:
-加工食品、アルコール、糖分、塩分の摂取量が低く、代謝効果がいい
欠点:
-カルシウムやビタミンBの摂取量が低い
-肉や魚介類を多く摂ることによって比較的高価
注意点:
-肉類を多く摂ると大腸癌の発症率が高まる
-カルシウム不足になりやすい

 

 

膵炎

膵臓の働き

膵臓は胃の裏側にある長さ約20cmのオタマジャクシのような形の臓器で、外分泌と内分泌の二重の役目を持っています。外分泌の役目は食べ物の消化を促すためのいくつかの酵素を作り、膵管を通して十二指腸に分泌されます。膵管は十二指腸に到達する前に胆管と合流します。膵液には主に蛋白を消化するトリプシンという酵素があります。
このトリプシンは膵臓や膵管を構成している蛋白を消化してしまわないように十二指腸に入って胆汁と混ざってから始めて活性化されます。膵臓はその他に炭水化物を消化するアミラーゼ(amylase)と脂肪を消化するリパーゼ(lipase)を分泌します。内分泌機能は血糖値のレベルをコントロールするためにインシュリン (insulin) とグルカゴン (glucagon) というホルモンを製造しています。インシュリンは膵臓の中のランゲルハンス島 (Islets of Langerhans) という部分にある細胞から作られ、血糖値が上昇するとインシュリンが分泌され、血糖値を下げるしくみになっています。この機能がうまく働かなくなると糖尿病につながります。逆にグルカゴンは血糖値を上げる効果があります。
膵炎は膵臓に炎症がおこる病気ですが、急性と慢性があります。どちらも30-50代の男性に多く、飲酒量が多すぎることからおこることが多いという点が共通しています。

 

急性膵炎

急性膵炎は、膵液に含まれる消化酵素が、突然膵臓自体を消化してしまうことで起こります。本来、膵臓には膵液による消化を防ぐ仕組みがあります。膵液は胆汁と混じり合い、十二指腸の中に入ってから初めて、活性化して消化する力を発揮します。ところが、何らかの原因で、膵液の流れが悪くなると、膵臓の中に膵液がたまっていきます。そこに膵管を逆流してきた胆汁が混じると、膵液が活性化され、膵臓内で消化力を発揮してしまいます。そして、膵臓の細胞が消化され、炎症がおこります。

 

急性膵炎の原因

膵液の流れが悪くなるような要因が大半を占めます。
*胆石:    胆嚢から落ちた胆石が胆管の十二指腸に開く部分に詰まると膵液と

胆汁が混ざって逆流し、膵臓が自己消化され、急性の炎症をおこします。
*アルコール:アルコールの飲み過ぎがなぜ膵炎をおこすのかははっきりと解明されて

いませんが、その影響によって膵管に浮腫がおこり、膵液の流れが悪く

なるので膵液が膵臓に溜まりやすくなり、胆汁がそこに加わると自己消化

がおこるのではないかと考えられています。また、アルコールそのものが

膵臓の細胞に傷害をおこすために炎症がおこることも要因かもしれませ

ん。
*その他:  薬品(ステロイド、利尿剤など)、高脂血症(特に中性脂肪が高すぎると)、

おたふく風邪、胃や胆石の手術後、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)

など。

 

急性膵炎の症状

上腹部の激しい痛みが典型的ですが、背中や腰に痛みを感じることもあります。痛みは止むことがなく、しだいにひどくなっていきます。ほとんどの場合は吐き気、嘔吐を伴い、重症膵炎の場合はそのために脱水状態になり、ショック状態になることもあります。さらにひどくなれば多臓器不全がおこり、意識を失うこともあります。また、感染症も併発していれば発熱などもおこり、敗血症になることもあります。重症急性膵炎は死亡率が高く、緊急治療を要する疾患です。腹痛の度合いで重症度を判断することは難しく、多くの重症急性膵炎は痛みをあまり伴いません。
死亡原因の最も頻度の高いのはショックであり、発症3日以内に多く、ARDS(急性呼吸窮迫症候群,Acute Respiratory distress Syndrome)を始めとする呼吸器障害はそれより遅れて2週間まで、消化管出血、DIC(播種性血管内血液凝固症候群,disseminated intravascular coagulation)などはこれらの期間を通じてみられ、敗血症などの感染症は15日以降の後期にみられ、病期により死因に差があります。

 

検査

血液検査でアミラーゼとリパーゼのレベルを調べます。膵臓に損傷がおこっていれば一般的にこれらの数値が上昇しますが、数値が上がっていないこともあります。アミラーゼとリパーゼの血中レベルから膵炎の重症度を判断することはできません。尿の中のこれらの酵素のレベルをチェックすることもできます。腹部超音波やCTスキャンも必要です。胆嚢に胆石があるか、膵臓にどれほどの損傷がおこっているかなどを調べることができます。急性膵炎は他の臓器にも影響をおよぼしますので血液で腎機能や肝機能も調べたり、胸部レントゲンあるいはCTで肺のチェックもしておくことも大切です。

 

治療

主に内科治療ですが、膵臓の壊死がおこっていたり、胆石が発見されれば外科治療も行うこともあります。
*絶飲・絶食  -食事をとると消化酵素が分泌され、事態が悪化します。また、腹部の

炎症により、腸の動きが悪くなり、吐き気をおこしやすいので水分を飲

むことも止めなければなりません。その間、点滴で必要な水分と電解質

を補い、吐き気止めを使ったり経鼻胃管を挿入します。痛み止めも必要

となります。
*壊死性膵炎 -膵臓の一部が壊死したり膿瘍がおこればその部分を手術で取り除くと

ともに抗生物質の投与も必要となります。
*その他    -重症なら非経口栄養の投与(parenteral nutrition)が必要となるかもしれ

ません。また、急性の糖尿がおこって血糖値が上がればインシュリンを

使ったり、血中のカルシウムのレベルが下がればカルシウムの投与が

必要になります。

 

慢性膵炎

慢性膵炎は長期にわたる膵臓への損傷により、石灰化、繊維化がおこり、膵臓の機能が徐々に低下していく疾患です。急性膵炎を繰り返すことによってもこのような損傷をきたします。最も大きな要因はアルコールです。

 

慢性膵炎の原因

*アルコール過多  *高脂肪血症  *胆石症  *自己免疫疾患
*遺伝性  *高カルシウム血症  *膵石症

 

 

慢性膵炎の症状

*腹痛          -上腹部におこり、背中にも痛みを感じることもあります。数時間

から数日間続き、いずれ慢性化して常時おこっていることもあり

ます。食事や飲み物(特にアルコール)が引き金となることもあ

ります。吐き気を伴うこともあります。
*消化不良、吸収不良-消化酵素が充分に分泌されないため、中性脂肪の吸収が低下

し、脂肪便になったり体重減少がおこったりします。
*糖尿病         -膵臓の内分泌機能も低下し、インシュリンが作られなくなること

によって糖尿になります。

 

検査

アルコール過多の経歴があり、腹痛もある場合は慢性膵炎が疑われます。血液検査でアミラーゼとリパーゼが上がっていることもありますが、急性膵炎のときほどに顕著に上がっていません。
腹部レントゲンで石灰化があれば慢性膵炎の診断はほぼ確実ですが、30%の患者さんにしか石灰化はおこっていません。CTスキャンでは初期の慢性膵炎の変化をとらえることができないこともあります。
磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP, Magnetic resonance cholangiopancreatography)では膵臓の様子がもっと詳しくわかります。その他には内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)や内視鏡的超音波検査(EUS)などがあります。

 

治療

膵臓の組織の損傷がそれ以上にすすまないように注意するのが主な目的です。
*禁酒、禁煙-飲酒はもちろんですが、喫煙も慢性膵炎になる危険因子のひとつです。

禁酒、禁煙を成功させるにはカウンセリングなどの心理学的サポートが

必要になると思われます。
*痛み    -まだ初期の慢性膵炎でしたらお酒を断つことによって痛みは軽減され

ていきます。膵臓の炎症以外に膵臓に嚢胞ができたり、膵管が石や

狭窄によって通りが悪くなっていればより痛みが増すかもしれません。

画像検査やERCPでこのような外科手段によって修正できるような問題

がおこっていないということを確認できたら痛み止めを服用することに

なりますが、痛みが長期間続く可能性が高いので強い鎮痛剤に対する

依存症がおこる危険もあります。特に長期の治療が必要ならペインクリ

ニックなど、痛みの治療を専門とするようなクリニックで管理しなければ

ならないかもしれません。
*食事    -脂肪分の消化機能が弱っていますので脂肪の摂取を抑え、蛋白、炭水

化物の高いものを摂るようにします。脂溶性ビタミン(A,D,E,K)の補

給も必要です。消化酵素の補給も場合によっては必要になります。
*外科治療 -膵管の狭窄や石を取り除いたり、偽嚢胞を切除したりしなければならない

こともあります。多くの場合は内視鏡による治療が可能です。膵臓を一部

分、あるいは全的しなければならないようなときは開腹手術になります。
*糖尿    -もし糖尿病を併発していればその治療も必要となります。

 

 

緑内障(Glaucoma)

緑内障とは視神経と視野に特徴的な変化がおこる眼の機能的構造的異常からおこる疾患です。
通常、眼圧が高くなることによって視神経に損傷をきたすと考えられていますが、眼圧が正常でも緑内障になることもあります。右図のように、眼の組織に栄養素を与える房水が毛様体という部分で作られます。
この房水は虹彩の裏を通過して前眼房に至り、線維柱帯(網)を経て眼外の血管へ流れていきます。この房水の循環がよく保たれていれば眼圧が一定に保たれ、眼球の形が正常に保たれます。もしこの房水の循環が悪く、眼球内に停滞してくると眼圧が高くなってきます。

 

緑内障の発症率

全世界で失明となる原因の第2位です(1位は白内障)。日本人のあいだでは40才以上の人口の20人に1人の割合で緑内障がおこり、失明原因の第1位です。しかも緑内障があっても緑内障と診断された人は約10%に過ぎなかったようです。
年齢とともに発症率は増加します。ほとんどの場合は病気の進行がゆるやかなので初期には視覚障害があっても気がつかないことが多いようです。白内障の場合、レンズが曇ってくることによる視力低下で、人工レンズに取り替えれば視力を回復することができますが、緑内障の場合、一度おこった視神経の損傷は取り返すことができません。

 

緑内障になる危険因子

*眼圧が高いこと
*年齢60歳以上、家族歴
*人種-黒人、ラテン系人種
*糖尿病、高血圧
*強い近視
*過去の眼の怪我
*長期間のステロイド(特に目薬)投与

 

眼圧の正常値

12-22mmHgが正常値として認識されています。
個人差はあり、一日の時刻、季節によっても変動があります。(冬期に高く、夏期には低めになります)単純

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