鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice
アジソン病とは、腎臓の上にある副腎が何かの理由でコルチゾールやアルドステロンなどのホルモンを充分に分泌できないことによっておこる疾患です。発症率は10000人に1人で、あらゆる年齢層におこります。
大きく分けて原発性と続発性があります。原発性とは副腎自体に問題があり、必要なホルモンが分泌されない疾患です。続発性とは副腎自体には問題がなくても副腎を刺激する副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が下垂体の病気によって減少していることによっておこる疾患です。
副腎から分泌されるホルモン
右図のように副腎には副腎皮質と副腎髄質があります。そして副腎皮質は球状帯、束状帯、それに網状体と3つの層にわかれていて、それぞれに分泌されるホルモンが異なります。アジソン病で主に影響を受けるのは副腎皮質です。
*球状帯 - 主なホルモンはアルドステロンです。血中のナトリウムとカリウムの濃度を調整し、血圧や心臓の機能を維持するのに必要です。アルドステロンが不足すると血中ナトリウム値が低下し、カリウム値が上昇します。脱水状態になることもあります。
*束状帯 - この層から分泌されるコルチゾールは体内のあらゆる機能を正常に保つ役目があります。血糖値や血圧の維持、炎症の制御、などが重要で、コルチゾールが不足すると低血糖、低血圧、感染症への抵抗力の低下、筋力の衰えなどをおこします。
*網状体 - デヒドロエピアンドロステロン(Dehydroepiandrosterone, DHEA)という女性ホルモンと男性ホルモンの前駆物質を分泌します。DHEAが不足していると男性においては寿命が短縮されたり、女性の場合は性欲減退や骨粗鬆症との関連が高いようです。
*副腎髄質- アドレナリンを分泌します。急性な強いストレスを経験したときに気管を広げて筋肉への酸素供給を上昇させ、特定の血管を収縮させ、血流が肺や心臓に集中して送られるように変えて筋肉が緊急事態に応じてすぐに力強く反応できるようにします。アドレナリンが低下した場合の症状はありませんが、急激なストレスに対する反応が鈍くなるかもしれません。
アジソン病の原因
*原発性 - 副腎皮質に何かの理由で損傷がおこり、副腎からのホルモンを分泌できなくなった場合におこります。
- 自己免疫疾患ー70%は体の免疫システムが副腎皮質を異物として認識し、副腎皮質を破壊してしまう疾患です。他の臓器に対する自己免疫疾患を持っていることもあります。
- 感染症ー結核などの感染症で副腎が破壊され機能できなくなる場合
- 癌ー副腎癌、あるいは他の臓器癌からの転移(腎臓癌、肺癌や皮膚の黒色腫など)
- 出血ー副腎内に出血した場合
*続発性 - 下垂体からの副腎を刺激するホルモン(副腎皮質刺激ホルモン、ACTH)が低下した場合。原発性と異なる点は、続発性の場合、色素沈着症がないことです。
アジソン病の症状
症状は急におこったり、何年もかけて徐々に進行していくこともあります。また、あらゆる疾患と共通している症状も多いので診断が遅れることもあります。
主な症状は
- 極度の疲労感
- 食欲減退、体重減少
- 膚の黒ずみ(色素沈着)ー特に傷跡や骨が皮膚に近い部分(続発性のアジソン病ではおこらない)
- 口腔内の色素沈着
- 低血圧、めまい
- 食塩渇望
- 低血糖
- 腹痛、吐き気、嘔吐、下痢
- 筋肉痛、関節痛
- 筋力低下
- 生理不順
- 短気、いらいら
- 鬱やその他の精神疾患
- 女性の体毛脱落や性機能障害
- 精神錯乱や精神消失
副腎クリーゼ(Addisonian crisis)
もし、アジソン病が急激に悪化した場合におこります。アジソン病の診断がなく、治療されない状態が続いているとおこりやすくなります。また、事故、けが、手術、重症の感染症など、体へのストレスが急激におこったことがきっかけとなっておこることもあります。低血圧、低血糖、高カリウム決勝がおこる緊急事態なので、すぐに治療を受けなければ死に至ることもあります。
*症状
- 吐き気、嘔吐、下痢
- めまい
- 動悸
- 腹痛、腰痛、足の痛み
- 精神錯乱
- 意識消失
アジソン病の診断
詳しい問診と診察でまず病気が疑われれば検査が必要です。
*血液検査
- 血中ナトリウム値が低く、カリウム値が高い
- コルチゾール値が低く、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が高い
- 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の誘発試験ーこのホルモンを注射する前と後のコルチゾール値を測ります。通常はACTHを注射した後にはコルチゾール値が上昇しますが、アジソン病の場合、ACTHを注射してもコルチゾール値は反応しないか、鈍い反応を示します。
- 血中のアルドステロンのレベルが低ければコルチゾールだけではなく、鉱質コルチコイドの補充も必要となります。
*抗副腎抗体
- 原発性のアジソン病で、自己免疫疾患が原因の場合、この抗体が陽性となります。この抗体が陽性でなくてもアジソン病であることもあります。
*影像検査
- 腹部や胸部のレントゲン、超音波検査やCT検査もして、癌や感染症による副腎の損傷の有無を調べたり、副腎の大きさなどもチェックします。
アジソン病の治療
この病気により不足しているホルモンを一生補充し続けなければなりません。けが、手術、重度の感染症になった場合にはホルモンの補充量を調整し、副腎クリーゼが起こらないように注意しなければなりません。
もし、コルチゾールが足りない場合は副腎皮質ホルモン(Hydrocortisone)を服用します。もしアルドステロンも不足している場合は鉱質コルチコイド(Fludrocortisone)を服用します。
アジソン病の患者さんは緊急事態で副腎クリーゼによって意識障害が起こった場合にアジソン病であると認識できるようなブレスレットかペンダントを身につけていることも大切です。