鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice
好酸球性食道炎は1993年に始めて医療疾患として認識されました。胃カメラ検査が頻繁になってきていることもあり、症例が増えてきています。どの年齢層にもおこりますが、子供や30~40代の人に比較的多いのも特徴です。男性対女性比は3:1です。免疫反応の異常からくる疾患で、アトピー性疾患(喘息、アレルギー性鼻炎、湿疹、食べ物アレルギー)との関連も強いようです。嚥下障害、つかえ感などをおこすこともあり、また、逆流性食道炎や胃炎と思われてプロトンパンプ阻害薬(胃酸の分泌を抑える薬)を服用していても症状が改善されない場合に疑われます。診断は内視鏡検査で食道粘膜の生検をして確認できます。1000人に4人までが無症状でこの疾患を持っています。嚥下障害で内視鏡検査を受けた人の15%までが好酸球性食道炎と診断されます。
病因
Tヘルパー2 (Th2) 細胞がアレルギー抗原と反応し、インターロイキン- 5などの媒介物質を放出することによって食道粘膜に炎症反応をおこします。遺伝的要因もあるようで、この疾患をおこしやすい”体質”もあるようです。
症状
嚥下障害、つかえ感が一番よくおこる症状です。その他に胸の痛み、消化不良、上腹部の痛み、治療不応性の胸焼けなどがあります。嚥下障害は危険信号で、状況によっては食道癌の疑いもありますので、なるべく早く専門医(消化器内科)に紹介してもらい、内視鏡検査を受けておくことが賢明です。
診断
内視鏡検査の所見と生検で食道粘膜の上皮内に一定数の好酸球が見られることで診断できます。
*内視鏡の所見:次のような変化が見られます
-食道粘膜のリング状の形態
-縦走溝
-白い滲出液
-食道狭窄
-食道粘膜がクレープのようにもろく、傷つきやすく、また穿孔しやすい状態
内視鏡所見で上記のような変化が見られず、食道粘膜が正常に見えることもありますので、食道粘膜からサンプルを採り、顕微鏡で細胞を見る検査(生検)も必要です。
*生検所見
-顕微鏡の強拡大視野(High poer field, HPF)で好酸球が15以上見られる
-好酸球の脱顆粒 (細胞から細胞質顆粒が消失すること)
-好酸球性微小膿瘍
-好酸球性食道炎の変化は断片的におこるので食道のあらゆる箇所から複数の生検サンプルを採取することが大切
治療
治療の目的は症状を和らげ、組織学的変化の向上をはかることと食道狭窄や穿孔を避けることです。
*投薬
-プロトンパンプ阻害薬(Proton pump inhibitor, PPI)がまず試されます。PPIには多少の炎症を抑える効果もあるので使用されます。また、すでに損傷のおきている食道粘膜を胃酸の分泌を抑えることによって粘膜を保護し、治癒を促進する役目もあると思われます。 同時に胃食道逆流も併発していることもありますので、この場合、PPIは役に立ちます。8~12週間の服用後、食道の生検を繰り返し、顕微鏡の強拡大視野での好酸球数が減っていなければ診断はより確かです。
-副腎皮質ホルモンが現在、治療の主役です。局所投与か経口薬がありますが、局所投与のほうが副腎皮質ホルモンの全身への影響を最小限にできるので好まれます。局所投与では通常喘息に使われる副腎皮質ホルモンの吸入薬を使います。気管に吸い込むよりも飲み込む要領で使用します。6~8週間後に再度食道粘膜の生検を行い、治療効果を見ます。その結果によってその後の治療が検討されますが、投与量、減量のスピード、中止時期、再発時の対応についての一定の見解はまだないようです。
*食事療法
とくに子供の治療においてより効果があるようです。
-エレメンタルダイエット:アミノ酸、ビタミン、基本的な炭水化物と中性脂肪だけで、ほとんどタンパクを含まないような食べ物で、アレルギーをおこしやすい成分がほとんど入っていないものです。味覚も悪く、高価なのであまり実用的ではありませんが、特に子供の好酸球性食道炎には効果があるようです。
-6種除去ダイエット:ミルク、豆、小麦、卵、ナッツ、魚介類の六種類の食べ物はアレルギー反応をおこす確率が高いので、このようなものを食べ物を避けることによって好酸球性食道炎の症状と組織病理学的所見の改善がおこるようです。
-的を絞ったダイエット:アレルギー検査により反応がおこった食べ物だけをダイエットから除去する方法です。この場合、アレルギー検査の方法や結果の適切な解釈の仕方が重要です。栄養士(dietician)の指導を仰ぐことが薦められます。
*食道拡張
食道の狭窄がひどく嚥下障害やつかえ感がある場合にする治療です。内視鏡を食道に入れ、風船などのようなもので内側から食道をストレッチする方法です。食道粘膜の裂傷や穿孔がおこる危険もあります。この方法では狭くなった食道を拡げるだけで、基本的な問題の対処ではありませんので投薬療法や食事療法なども続けなければなりません。
現在、好酸球性食道炎の診断、検査法、治療指針は確立されたわけではなく、まだこれから研究が進められている疾患です。