ジャパン/コンピュータ・ネット代表取締役 岩戸あつし

最近中国の通信機メーカーに関する話題でもちきりになっている。日本もオーストラリアも中国の携帯事業者を排除する方針を打ち出している。それに関する記事や報道もたくさん出ているが、技術的にどういう問題なのかどうもはっきりと読み取れない。そこで技術的な問題に絞って私なりに調べてみた。分かりやすいようにまずハードとソフトに分けて考えてみた。

ハードウェアの問題で大きく取り上げられているのは、先ずはスマートフォン(この後スマホと省略)の問題である。2016年11月に流れたニュースであるが、米国で販売されている一部の中国製アンドロイド仕様スマホのファームウェアに、ユーザーの許可なく個人情報を集めて中国のサーバーに送る機能が見つかったというのがあった。ファームウェアというのは、ハード部品の一つで、スマホとOSであるアンドロイドとのインターフェースを取り持つ役をしている。ファームウェアは、ハードではあるが書き込みや消去ができるEPROM(イーピーロム)という半導体メモリが通常使われており、一部のプログラムをアップデートすることによって書き換えることができる。つまり生産時でなくても後から内容を変更できるという特徴があり、アップデートという名目で、スパイ行為の機能をアップしたり、やばくなれば証拠を消去したりできる。このときの中国メーカーの言い訳は、中国国内用を間違って米国に輸出してしまったということであったが、そうすると中国国民は今でもこのような監視体制にあるということなのか。

ハードウェアの問題は、実はそれだけではなく、携帯基地局で使われているアンテナや電波を処理する機器も対象になっている。どういうことかというと、携帯電話はプロバイダが設置した携帯基地局(テレストラを例に取ると、全豪に約8千の携帯基地局を設置している)を必ず通してやりとりしている。この基地局の機器にも中国製ものが多く使われている。ここは携帯通信の元締めのような場所で、いくらスマホに気を付けていても、この元締めからリークする可能性がある。次世代超高速通信であるところの5G携帯基地局から中国製品を排除するという動きが西側で広まっているのもそのためである。日本でスウェーデン製のエリクソン、ノルウェー製のノキアを使うことになると言われているのは、主にこの5G用携帯基地局の話である。

次にソフトであるが、中国製のフマフォは主にグーグル社のアンドロイドをOSとして使っている。OSは基本ソフトと訳されるが、ハードであるスマホを動かすための根幹的なソフトで、これがなければ、メールもウェブもフェイスブックなどのアプリケーションも動かないだけではなく、スイッチさえも入らないことがある。OSを独占することは通信業界にとってとても大事なことで、ハードが中国製であろうが、韓国製、日本製であろうが、たとえばアンドロイドを使っている限り機器を制御しているのはアメリカ製のOSということになる。アンドロイドは無料で提供されているが、これを使う限りフマフォは、アンドロイドの仕様に従って設計する必要があり、逆はない。マイクロソフトがWindowsパソコンをサードパーティーに造らせているのと同じ原理である。

ソフトウェア・メーカーはOSを独占することにより、ハードやネットワーク、アプリケーションのコントロール、監視もできるのである。ただアンドロイドに関してはオープンソースと言って、プログラムをすべてオープンにして誰でもソースコードが見られるようにしている。理由はこのことによって他社がアプリケーションを作りやすいようにしているのと、「何も隠していませんよ~、しかも無料ですよ~」という強いメッセージを発信して、中国やロシアなど政治的に異なる国々の警戒心を解き、全ての国で使ってもらえるというメリットがある。ただアップルに関しては、プログラム・ソースはオープンされておらず、アップル社がスマホとOSを共に独占している。

今回は西側諸国から見た脅威ということで中国製品が対象になっているが、逆に中国側から言わせればアップルにしても、グーグルにしても、マイクロソフトにしても、どんな巧妙な手段を用いてスパイ行為をしているかわからないという不信感がある。現にグーグル検索が中国では使えないし、それ以外も中国で多くの規制がある。それに対して、日本では国のサイバーセキュリティーの戦略副本部長が「自分でパソコンを打ったことがない」という発言をして話題になっている。

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