私の子供の頃は、銀行に就職するためにソロバン3級が最低必要だと言われた。また銀行員は、マジシャンのように両手を使って多くの札束を扇子の様に広げ、かっこよく5枚ずつ勘定する技能も必要だった。そのうち電卓が普及して、ソロバンは必要なくなり、札束を勘定する機械ができて、手で広げて勘定する必要はなくなった。また、1990年代からパソコンが普及して、複雑な計算はパソコンに任せ、行員はもっぱら入力作業だけすればよくなった。そして今、AI(人工知能)の波が銀行に押し寄せている。
最近、日本のほとんどのメガバンクが大規模な人員削減を計画しているという記事を読んだ。原因はITやAIの普及によって人がやっていた作業が必要なくなるとのこと。たとえば、銀行の窓口業務は、インターネットやATMの発達によって代替えされ、自宅でお金の出し入れができるようになったため、ほとんどの窓口業務が必要なくなった。これにより、銀行は店舗を減らしたり縮小したりして、家賃や人件費を大幅に削減できるようになった。
今までの銀行融資の場合であるが、担当者が端末に取引先の財務データを打ち込めば、貸し出しの限度額が出る。担当は、そのデータを基に客先と交渉する。客先が限度額以上の貸し出を望む場合、客の条件を聞き、その条件で融資が可能かもう一度機械に打ち込んでみる。その際、いろんなパラメータを変化させて、どういう条件にすれば融資できるか検討する。そして最終的には、支店長や本部の決済を取るという順序だ。テレビの「半沢直樹」を思い出していただければよい。そして新しいシステムでは、これらのプロセスから人の関わるところがほぼAIよって代替えされるというのだ。
税務署内での脱税告発にしても、ITが発達していないときは、内部告発やランダムな抜き打ち調査に頼っていたという。ITが導入されてからは、すべての会社を対象に、プログラムによってチェックできるようになった。導入初期は、同社数年間の収支との比較、標準的な同業種収支との比較、キャッシュフローの流れの追跡などであった。最近はAIを使って各国の税務署ともネットワークで連携して、マネーロンダリングや巧妙な手口の脱税まで見抜けるようになっていると聞く。
市役所業務、ビザ発給、免許更新、各種保険手続きなど最近は一々事務所に訪れなくてもできるようになっている。オーストラリアでは、かつてMedicare、RTA、NRMA、HCFという事務所が大きなショッピングセンターに行けば必ずあったが最近はなくなっていて、特に政府関係は規模を縮小していくつかの業務を統合している。
このようにAIの発達によってどんどん事務所や人は必要なくなり、これからもその傾向は加速していくと思う。ITは人を単純作業から解放したが、AIはもっと踏み込んで、人が頭を使ってする複雑な作業まで担当しようとしている。銀行、保険など文系のエリートが目指していたランキングトップの職業は上で述べたようにAIの最もターゲットになるところである。そうすると、逆に最後まで残る職業にはどんなものがあるだろうか?皆さんもご自分の職業や周りの職業がこれからどのようにAI化されるか考えてみてほしい。
電気、鉄道、自動車、その他の重軽工業産業もAI化が徐々に浸透してきているが、AIだけでなく、その命令を聞いて動く手足の代わりになる機械、ロボットの発展を待つ必要がある。自動車の自動運転によって、タクシードライバーが必要でなくなる日がすぐに来ると言われているが、私はそうは簡単にいかないと思う。医療、製薬、化学、ライフサイエンス関係などもある程度AIが代替えできるが、ロボットで手術をするまでにはかなりの時間を要すると思われる。
商社などサービス業はどうか?商社マンが世界中をうろうろしなくてもいい日は来るのか?スーパー、コンビニなどすでにかなりITが入り込んでいる業務はどうか?コンビニで一人の人がレジ、商品の棚並べ、配達への対応、おでんの盛付けを担当しているような業務をAIや機械で自動化するのは可能かも知れないが、コストがかかり過ぎ、当分はなくならないような気がする。皮肉にもこのような比較的単純ではあるが、一人が多くの仕事をこなす必要がある業務の方が残る可能性が高いと思われる。
農業や畜産などフード関係は、その性質から最後まで残るように思われる。農業は自然と深くかかわっており、我々がまだまだコントロールできないところの天候に大きく左右される。ただ、これにしても都会のビルの中で、AI管理の基、野菜が作られているというのをニュースで見たことがあり、徐々にAIが浸透してきている。
こうして俯瞰してみるとAIは技術的なことが話題になりやすいが、実際はコストの問題が大きく、あるコストが限界点を超えると一挙にAI導入、人員削減ということになるようだ。