情報提供:アドバンテージ・パートナーシップ法律事務所-公証役場
主席弁護士・公証人 堀江純一(茨城県弁護士会所属外国法事務弁護士)
ニュージーランドで事故にあった場合
-国家補償ACCについて-
ニュージーランドの特徴的な補償制度にACC(The Accident Compensation Corporation)と呼ばれるものがあります。
この制度により、ニュージーランド国内に滞在されている方であれば、居住者のみならず、観光やワーキングホリデービザを利用して訪問されている方も事故で負った傷害の治療などに国から一定の補償が得られます。その一方で、ニュージーランドでは事故が起きた場合に加害者に対して損害賠償を請求する事が出来ません。
この様な特殊な社会制度を備えたニュージーランドにおいて安全な生活を送る為に、制度の概要や注意点に留意する必要があります。
1沿革
1974年、現行のACCの前身となるAccident Compensation Commissionが設立されました。これは、相次ぐ各種事故に対して、従来の訴訟制度では時間とコストがかかりすぎるという状態を改善する為に1972年に制定された事故補償法(Accident Compensation Act 1972)を受けて設けられたものです。
これに伴い不法行為に対する損害賠償請求訴訟を行う事ができなくなり、その代わりに事故後に国からすぐに補償が受けられるという現在の制度が形作られました。
2概要(適用条件・利用方法など)
ACCの適用対象
・傷害の態様
裂傷・捻挫・過労・骨折・脱臼など身体的な傷害のほとんどが適用対象とされています。また。精神的傷害に関しても、身体的障害が起因とされるものや特定の犯罪が原因とされるものについては適用対象となります。
・傷害の原因
事故・労働災厄・医療事故・性的暴行及び虐待
ACCの非適用対象
疾病
ストレス障害・うつ病等の精神障害で上記適用対象に該当しないもの
加齢に伴う体調不良
長期間の蓄積による傷害で、労働が原因ではないもの
利用方法
事故などで傷害を負ってしまった場合、まず病院へ行き医師の診察を受けてください。受診後、病院が患者の傷害情報などを直接ACCへ送ります。
基本的にはACCからの補償額が差し引かれた金額を病院が請求する事になります。
その後、ACCから請求番号が付与されます。補償内容などに関して問い合わせを行いたい場合はこの請求番号を用います。
3注意事項・対策
一時訪問者とニュージーランド居住者での適用対象の違い
・一時訪問者の場合
観光ビザやワーキングホリデービザを用いての一時訪問者であっても、ニュージーランド国内で上記適用対象・原因に該当する傷害を負った場合、ACCからの補償が得られます。
適用対象例としては
ニュージーランド国内での 事故による傷害
労働である特定の環境下での傷害
医療事故による傷害
性的暴行・虐待に起因する精神障害
ニュージーランド国外での傷害はACC非対象となります。
例として、ニュージーランド行きまたは帰りの飛行機及び船舶の中で負った傷害などは適用対象外となります。
・ニュージーランド居住者の場合
傷害を負った時点でニュージーランド居住者と見なされる方(市民権もしくは永住権保持者、及びその者と生活を共にしている配偶者・子供・扶養者)はニュージーランド国外で負った傷害にも条件付でACCが適用されます。
6ヶ月以内の国外旅行である場合
6ヶ月以上でも、業務上の渡航で所得税を国内に納めている場合
注意事項
・ACCは疾病には適用されません。また、適用対象であっても常に全額が補償されるわけではありません。一部傷害に関しては満足な補償が付与されない場合があります。
・ACCはニュージーランド国内で負った傷害を補償しますが、国外で治療を受けた場合はこの限りではありません。ですので、事故後にニュージーランド国内で治療を受けずに帰国した場合、もしくは治療途中で帰国した場合も補償対象外となります。また、補償は傷害治療に対するもので、それに伴う帰国費用などは一切含まれません。
・ACCに施行に伴って損害賠償訴訟を提起する権利が失われています。これにより、補償が不十分であっても訴訟を提起し賠償を得るという手段を採ることが出来ません。
ACCはあくまで迅速な救済を目的とした制度ですので、ニュージーランドへ渡航される方、またニュージーランドに居住されている方は各自で保険に加入される事を強くお勧めいたします。