鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


 予防接種はバクテリアやヴィールスなどの微生物(病原体)の全体、あるいは断片(抗原)を体内に入れてその微生物に対する免疫反応をおこします。現在、世界中で使用されている予防接種は高い安全性が証明されているものばかりです。

予防接種のタイプ
ワクチンの製造方法によって下の表のようなタイプがあります。

ワクチンの種類 生産方法
弱毒性ワクチン 生きている病原体を病原性を弱める条件で培養したり遺伝子組み換えで弱めたりして生産 麻疹、風疹、おたふくかぜ、水疱瘡、経口ポリオワクチン
不活化ワクチン 実験室で培養された病原体を熱や薬品で不活化して生産 A型肝炎、インフルエンザ、ポリオワクチン(非経口投与)
遺伝子組み換えサブユニットワクチン 病原体の構成成分(特定のタンパクや多糖体、核酸など)を精製したり遺伝子工学で生産 B型肝炎、子宮頸がんワクチン
トキソイド 毒素を産生する菌からの毒素を不活化して生産 破傷風、ジフテリアワクチン
多糖体ータンパク結合型ワクチン 病原体に含まれる多糖体をタンパクと結合して生産(免疫反応が高まり、乳幼児でも抗体を作ることができる) 肺炎球菌、髄膜炎、HIBワクチン

予防接種の成分
 予防接種液には抗原原液とその他防腐剤などが含まれています。生ワクチン以外のワクチンにはアジュバントという免疫補助剤も含まれています。生ワクチンは免疫補助がなくても自然に炎症をおこして免疫反応を高める作用があります。
 ほとんどの人間のワクチンに含まれるアジュバントはアルミニウム塩です。アルミニウム塩は1950年代から使われている安全性の高い成分です。新しく開発されたワクチンにはアルミニウム塩よりも活性力の高いアジュバントが含まれていることがあります。
 一般的にアジュバント添加ワクチンは注射部位の痛みや腫れ、倦怠感や発熱をおこす確率がやや高まります。このような反応はワクチンがよく免疫反応をおこしているという証です。抗原とアジュバント、それに防腐剤以外にワクチンには製造過程からおこる微量の副成分が含まれることがあります。培養に使われた栄養分、微生物を不活化するために使われた薬品、死んだ微生物の断片やDNAなどです。規制により、ワクチン製造者はこのような成分が安全なレベルを超えないような製造管理をすることが義務付けられています。

予防接種の安全性
 どのような予防接種や薬品でも副作用が全くないものはありません。しかし、予防接種でよくおこるような副作用は軽度で一過性のものです。副作用からの危険よりも予防接種をしないことによって感染症にかかってしまったときから生じる合併症の危険のほうがはるかに高いものです。
 一般的に予防接種によって一番よくおこる副作用は注射部位の腫れや痛みです。発熱や倦怠感などの全身症状もおこることもありますが、局部(注射部位)の反応よりも発症率は低めです。不活化ワクチンの場合、もし発熱がおこるとしたら接種後24-48時間がほとんどです。このようなワクチンの場合、身体が免疫反応をおこすのはこの時間帯です。弱毒性ワクチンの場合、弱毒化されたビールスが体内で免疫反応をおこすレベルまで繁殖するのに7-12日かかりますので、発熱がおこるとしたら接種後7-12日のあいだがほとんどです。
 このようなあきらかに予防接種に対しての反応であるとわかっている症状以外に、発熱、発疹、機嫌が悪くなってぐずったり、くしゃみ、鼻水が出たりなどという症状は特に小児ではよくおこることですので必ずしも予防接種の副作用ではなく、偶然、同時期に重なったものかもしれません。
 ひとつ、予防接種の副作用と予防接種を受けていなくても背景的に社会一般におこっている症状を比較しようとした調査データがあります。(右グラフ)
 これは581組の双子に対し、MMRワクチンを受けたグループと偽薬(プラセボ)を受けたグループの接種後の症状を比べたものです。この比較でわかったことは1-6日目まではMMRワクチンを受けたグループとプラセボを受けたグループとでは”副作用”の発症率はほとんど変わらなかったということです。また、7-12日目ではMMRを受けたグループでは以前から知られている発熱、ぐずつき、発疹の副作用はMMRを受けていないグループよりも多かったのに対し、咳や軽い風邪のような症状に関しては両者に差はなかったということです。接種後におこった症状は必ずしも予防接種が原因ではないかもしれませんが、オーストラリアのような先進国ではこのような症状を有害事象として医師が管理機関に報告することが義務付けられています。
 このような情報を収集して分析することによって新しい現象がおこれば予防接種が原因であるかどうかを詳しく調べます。
 新しい予防接種はこのような有害事象報告が多く発生する傾向がありますが、普及が拡がってくるにつれて医師もその予防接種に慣れて報告数も減っていきます。ほとんどの有害事象は予防接種が原因ではなく、予防接種後の期間中に偶然おこった症状であることがわかっています。

危険な副作用

 予防接種による危険な副作用は全く起こらないわけではありませんが、極めてまれです。MMR(風疹、おたふく、麻疹)の予防接種を例にとれば、この予防接種によっておこる重症な副作用は、予防接種を受けないで実際に麻疹にかかったときの合併症による危険よりもはるかに低いことがわかっています。(下の表参照)

 

 

 

5歳以下でMMRワクチンを受けた幼児と麻疹にかかった幼児百万人中、副作用あるいは合併症がおこった人数
 

 

     MMR       麻疹
  珍しい副作用    珍しい合併症
熱性痙攣      300人     10000人
  希な副作用   希な合併症
血小板減少症       26人      330人
  極めて希な副作用    極めて希な合併症
アナフィラキシー        4人        0人
亜急性硬化性全脳炎        0人       10人
脳炎        1人     2000人

MMRワクチンと自閉症

 1998年にこの関連性を疑った調査がありました。この調査ではMMRに含まれる弱毒化された麻疹の生ワクチンが腸に感染をおこし、そのため脳の発達に必要な栄養分が充分に吸収されないという仮説が立てられましたがその後の詳しい調査ではこのワクチンと自閉症とのリンクは成立しないという結論がだされました。同様にワクチンに微量に使われていたthiomersalという防腐剤も自閉症との関連性はないということが証明されています。

*ワクチンと自己免疫疾患

 過去30年間で自己免疫疾患の発症率が高まっていますが、ほとんどの場合、予防接種との関連性はありません。ひとつ例外はMMRワクチンと血小板減少症との関連ですが、この疾患は一過性のもので、しかも予防接種からよりも実際に麻疹にかかった時の方がこの疾患の発症率は10倍以上です。もうひとつの例外はギラン・バレー症候群(Guillan-Barre syndrome)とインフルエンザワクチンとの関連性ですが、やはり、この疾患に関しても実際にインフルエンザにかかった時の方が発症率は遙かに高いということがわかっています。

*ワクチンとアレルギー反応

 予防接種による重度なアレルギー反応の発症率は100000回接種のうち0.02から4.52回という非常に低いリスクです。しかし、以前に特定の予防接種に対してアレルギー反応をおこした経歴のある人やアレルギーの強い家族歴のある人は用心して受けなければなりません。

*妊娠と予防接種

 インフルエンザや百日咳を含む三種混合ワクチンなど、不活化されているワクチンは妊娠中でも安全とされています。むしろ、母親のこのような病気からの保護に役立ちますし、妊娠中に母胎の抗体が胎児に転送されますので新生児の保護にもなります。
ただし、MMRや水疱瘡などの生ワクチンは妊娠中には薦められていません。

 

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