鳥居泰宏/ Northbridge Family Clinic


栄養分の摂取が過剰でしかも運動不足という近代のライフスタイルの影響により肥満が増加しています。肥満は下記のような疾患につながる大きな危険因子です。
*糖尿病 *高血圧 *虚血性心疾患 *脳卒中
*睡眠無呼吸症 *癌 *骨関節炎 *肺疾患
肥満の度合いはBMI(Body mass index) で判断します。
BMI が18-25でしたら健康体と言えます。BMI が30を超えると肥満体です。BMI の数値が35,40と増加するごとに糖尿病、心疾患、高血圧、骨関節炎を併発する確率が高まります。
BMI が40以上で(あるいは35以上でしかも肥満からくる疾患を併発している場合)真剣にダイエットを試みても減重に成功しなかった場合、肥満減量手術が考慮されます。オーストラリアで行われている肥満減量手術には主に3種類の方法があります。

1)胃緊縛術(Gastric banding surgery)

最新のLap-Band という手術ではシリコン製のベルトを胃の上部に設置し、その部分に小さな胃袋を作ります。一度に処理できる食べ物の量が制限され、食べ物の通過時間も長くなります。少量の食べ物で満腹感がおこるため、 食べ物の摂取量が減るというしくみです。手術は比較的簡単で、腹腔鏡をとおしてできす。また、このシリコンの輪の内側には 塩水を注入することによって膨らませたり収縮させたりすることのできる袋があり、皮下に設置された補助孔(アクセスポート)を通して調整することができます。このシステムによって胃の出口となる部分の内径を調整することができます。手術後の患者さんの経過を見ながら徐々にこのベルトを締めていき、一度に食べられる量を減らしていきます。また、このベルトを締めると人工的に設けられたこの小さな”胃袋にたまっている食べ物の通過時間が長くなるので胃が空になったことによる空腹感がなかなかおこりません。入院期間は1日です。

胃緊縛術(Gastric banding surgery)のメリット
*食事の摂取量(カロリー)を制限できます
*食べ物は通常通りに消化吸収されます
*術後の調整が可能
*術後でも通常の方法で胃カメラの検査ができます
*バンドを取り除けば術前の状態に戻せます

胃緊縛術(Gastric banding surgery)のリスク、副作用
*バンドやアクセスポートの感染
*バンドの圧迫による胃へのダメージ(胃穿孔など)
*バンドの位置がずれ、再手術が必要となることもあります
*胃の上の部分(小胃)が拡張してしまい、効果が充分得られないこともあります
*食べ物を良く噛んでいないと通過障害がおこることもあります
*胃酸の逆流

2)ルーワイ胃バイパス術(Roux-en-Y Bypass)

この手術では胃の上部を20~30ccの小袋に分け(右図小胃)、その小袋に小腸をつなげます。こうすることによって食べ物は胃の大部分をバイパスし、カロリーの吸収を抑えるとともに少量の食べ物でも満腹感を与えます。また、この手術ではゲレリンというホルモン(食欲を促進させる効果がある)の分泌が低減します。なお、胆汁と消化酵素が流れるように胆管と膵管が接続する十二指腸の部分は空腸と吻合します。術式は開腹術でも腹腔鏡を使った方法でもできます。入院期間は3-4日です。

ルーワイ胃バイパス術のメリット
*主な減量手術のなかで最も効果のある方法(2年で約70%の減量)
*肥満に関する合併症(腰痛、関節痛、糖尿病、高血圧、睡眠無呼吸症など)の多くが改善されます
*可逆性(元通りの状態に戻せる)ですが、手術は難しい手術となります
*グレリンというホルモンの生産を抑制するために食欲を抑えます

ルーワイ胃バイパス術のリスク、副作用
*胃のビタミンや鉄分、カルシウムを吸収する部分がバイパスされるので、このような成分を補給しなければ貧血などがおこりやすくなります。
*ダンピング症候群(胃の貯留機能が低下して食べ物が小腸へ急降下してしまう現象)がおこることもあります
*胃の小袋が引き伸ばされ、充分な効果が得られないこともあります
*手術に関する全般リスク(出血、感染、血栓、縫合不全など)
*残っているバイパスされた胃や十二指腸に胃カメラを入れることができなくなるため、胃や十二指腸の疾患を診ることや胆道の内視鏡検査もできなくなります

スリーブ状胃切除術(Sleeve gastrectomy)

腹腔鏡を通してできます。胃の大弯部分のほとんどを切除し、胃の容量を90%削減することによって食べ物の吸収を減らすことができます。胃の大半を取り除いてしまいますので不可逆性の手術です。入院期間は2-3日です。2年で約60%の減量が達成できるようです。

スリーブ状胃切除術のメリット
*食事量が制限されるのでカロリーの吸収も減ります
*ビタミンなどの消化吸収には影響ありません
*胃や胆道の内視鏡検査は可能です
*もし効果があまり得られなかった場合、2期的に胃バイパス手術をすることも可能です
*グレリンを生産する胃の細胞数が約半減するので食欲を抑えることもできます。

スリーブ状胃切除術のリスク、副作用
*胃を大部分切除してしまうので元に戻すことはできません
*胃酸の逆流
*胃の縮小、狭窄により食べ物が通過しにくくなり、吐き気や嘔吐がおこることもあります
*胃が拡張してしまい、充分な効果が得られなくなることもあります。
*手術に関する全般リスク(出血、感染、血栓、縫合不全など)

肥満減量手術に適する人
*18歳以上
*BMI が40以上(BMI が35から40のあいだで、しかも肥満からおこる健康問題がおこっていれば考慮される)
*5年以上肥満体であったこと
*あらゆるダイエットをして減重の努力をしてもその効果が持続しなかった
*肥満をおこすような疾患(クッシング病、成長ホルモン欠損症、視床下部性肥満、多嚢胞卵巣症候群など)を持っていない
*ライフスタイルと食事習慣に関して大きく変えるという決心が必要
*術後も専門医においての経過観察、検診を忠実に行う決心
*アルコールの乱用をしない

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