ジャパン/コンピュータ・ネット代表取締役 岩戸あつし

 

最近人工知能という言葉が頻繁に新聞、テレビ、インターネットに登場する。英語でAI(Artificial Intelligence)と省略されることから、エーアイという言葉もよく使われる。車に人工知能搭載、人工知能で会社の経営戦略、人工知能で就職面接というように人工知能は販売や企業戦略の目玉として使われている。しかし多くの人は、いったいどこまでが従来のもので、どこからが人工知能を使ったものか区別できないように思える。そもそもなにが人工知能かと問われても、詳しく答えられる人も少ないように思える。

私が初めて人工知能という言葉を聞いたのは、1970年代のころで、医療用のエキスパートシステムというのを何かの本で読んだのが最初だ。医療用エキスパートシステムというのは、医師が患者にインタビューしながら病名を特定するように、コンピュータを使って診断するシステムだ。NHKの番組、ドクターGを思い起こしていただければよい。この場合はインターン医師の代わりにコンピュータが参加する。この場合の人工知能というのは、チャートにあるようなYes、Noの条件文で、条件文を次々と下っていくと最後に病名に辿りつくという単純なものであった。

90年代であるが、私は、ケースベース(Case Base)という人工知能をオーストラリアの大学で研究したことがある。現在我々の社会の規範は法律によって守られている。法律はルールであり、ルールというのはこういうことをすれば、こういう罰則を受けるというように、ほぼ1対1のマッピングになった条件文だ。これを人工知能の世界ではルールベース(Rule Base)と呼んでいる。先程の医療用エキスパートシステムもルールベースの一つだ。それに対してケースベースは、いろんなケース(事例)をコンピュータにインプットして、コンピュータがそれらを判断して、共通の法則を予測し、法則のカテゴリーを作成していくというものである。ルールベースが演繹法を使うのに対し、ケースペースは帰納法を使う。

ニューラル・ネットワークという人工知能は80年代からあった。これは従来の人工知能とは全く異なる発想で、当時解明されつつあった人間の頭脳の仕組みを真似たものであった。つまり、ニューロンと呼ばれる脳の神経細胞同志のネットワークをそのままコンピュータにさせたらどうなるのかという発想から生まれたが、80年代当時は1000億を越える人間のニューロンをコンピュータで作ることなど全く不可能だった。コンピュータ同士を繋いで100とかせいぜい1000くらのニューロンのモデルを作って研究していたため、人間の脳が繰り広げる摩訶不思議な知的活動をシミュレートすることなど到底及ばなかった。それで90年代に入ると次第にこの研究は下火になった。

2010年ころになって、ニューラル・ネットワークは復活した。それは、ハードウェア技術の進歩により、多くのニューロンモデルが作成できる目処が立ったからである。と言っても1000臆ある人間のニューロンモデルには、まだまだ時間がかかりそうであるが、小動物の脳くらいであれば真似できそうなレベルになってきた。さらに人間の脳の研究自体が進んできて、90年代と比べると比較にならない程の脳の構造や活動が明らかになってきている。

最近、量子コンピュータが発明されたこともあり、今まで人間の脳や脳の活動など「これをコンピュータで真似したらどうなるか?」という実際のモデルがあった時代から、量子という考えもつかなかった道具が手に入ったお陰で、実際のモデルがない未知の領域に入って行こうとしている。人間の脳は炭素系と言われ、炭素を基本マテリアルにしてできている。それに対し、コンピュータのCPUの基になる材料はケイ素であり、いわばコンピュータはケイ素の脳を持っていると言える。全く同じ構造の脳をコンピュータで真似ても、素材の違いによる差で何が起るのかという未知の問題がある。また、最初のニューロンが発火してから次々と他のニューロンに伝わって行き最後のニューロンに伝える活動(クラスタ活動)に数ミリ秒、多い場合は1秒以上かかっていた伝達速度が、光のスピードで、一瞬で伝わるとなると、一体どうなるのか?さらに、量子を使った神経伝達が可能になると、脳は一体どうなるのか想像もつかない。そして、とんでもない超人類が生まれる可能性がある。

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