この病気は西洋諸国の人口の約5%が経験しています。男性よりも女性のほうがかかることが多いようです。
線維筋痛症とは慢性の痛みを持つ症候群で、筋骨格系におこる構造上の異常ではなく、身体の痛みを感じるシステムに生化学的な異常がおこり、痛みをより敏感に感じ取る状態になることからおこると考えられています。身体の広範囲な部位に痛みをおこし、しかも慢性的な症状なので生活上における制限が生じたり仕事ができなくなったりなどと個人と社会に及ぼすインパクトがかなり大きくなることもあります。
はっきりとした診断基準はなく、現時点では検査で確認できるような病気ではありません。あくまでも臨床所見から判断されます。ただし、他の病気を除外するためにある程度の基本的な検査はします。
原因とメカニズム
根本的な原因はまだ不明です。脳と脊髄の中の痛みをプロセスする過程に異常が起こっていると思われています。精神的なストレスによってもこの過程は影響されるようです。
MRIなどのイメージングでこの疾患を持つ患者さんの脳の中の痛みをコントロールするセンターが正常な患者さんとは異なっていることがわかっています。脊髄の後角と呼ばれる部分は脳の痛みをコントロールする部分と繋がっていますが、この後角が感情やストレスの影響を受けて過敏になっていると思われています。
共存疾患
直接の原因となるわけではありませんが、線維筋痛症は下記の疾患と深いがあり、共存していることがよくあります。
*リューマチ性関節炎(Rheumatoid arthritis)
*骨関節炎(Osetoarthritis)
*炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease, 潰瘍性大腸炎とクローン病)
*鬱病
*不安症
慢性肝炎の症状
肝炎が6ヶ月以上続いた場合慢性肝炎と呼べます。慢性肝炎の典型的な症状は疲労、倦怠感、彷徨性の黄疸などです。女性の場合無月経になることもあります。急性肝炎のときほど症状ははっきりとしていないことも多く、無症状であることもあります。
症状
臨床診断の鍵となるのは広範囲にわたる慢性の痛みと軽く抑えただけでも感じる異常な痛みです。上の図のようによく認識されている圧痛点があり、この部位を軽く抑えると指の圧力と比例しないような痛みが感じられます。
痛みは全身、あるいは広範囲におこることが多いわけですが、ある部分だけにおこることもあります。
軽度の痛みから激痛まで様々です。痛みの部位が移動したり天候によって痛みの度合いが変わったりすることもあります。
倦怠感、疲労感、睡眠障害、頭痛、鬱症状、微熱、不穏下肢症候群などを伴うこともあります。
癌や代謝異常、感染症などでも似た症状がおこることもあります。次のような症状がある場合、このような疾患がおこっているかもしれないという危険信号となりますので、詳しい検査が必要となります。
*発症年齢が比較的高年齢の場合
*体重減少
*夜間の痛み
*一定部分におこる痛み
*発熱、発汗
*神経症状
*癌の既往歴
検査
上記のような共存疾患や線維筋痛症と混乱しやすいような疾患を除外するために一応の基礎検査は必要です。血球算定(血色素、白血球数)、血沈、C反応性タンパク質(C-reactive protein, CRP)、肝機能、腎機能、甲状腺機能、ビタミンD,リューマチ因子、抗核抗体などの検査が最低限行われる検査です。
その他には症状によって映像検査なども必要かもしれません。
治療法
線維筋痛症の治療においての3原則は1)患者さんのこの病気に対する理解、2)運動、そして3)心理的なサポートです。 その上に投薬療法も加わります。
定期的な運動をすると痛みを減らし、筋肉の持久性を向上させます。逆に運動をしないでいると痛みは酷くなっていく傾向があります。ただし不適切な運動を無理にすると逆効果になります。線維筋痛症では伸張性収縮(伸長と収縮が同時におこる動き、たとえば腕を差し出して何かを引き寄せるような動き)の運動はよくありません。大事なポイントは無理のない程度の軽い運動から始め、少しずつレベルを高めていくことです。それと途中で止めないで継続することも大切です。
運動のタイプ:
*ストレッチ、呼吸、リラクセーション ― 身体中のあらゆる筋肉をストレッチし、深呼吸をして身体をリラックスさせる。
*筋力向上トレーニング ― 筋力を向上させれば買い物を運んだりなどの毎日の活動に役立ちます。筋力を強めれば、体脂肪率も減り、全体に体重も減れば関節にかかる負担も軽くなります。
*有酸素運動(エアロビック運動) ― 散歩、サイクリング、水中運動などが適切です。始めは一日5分程度で毎日1-2分ずつ時間を増やしてください。目標は1日45-60分です。ジョギングは着地の時に身体に衝撃をあたえるので不適切です。また、水中運動も水温が冷たすぎても暖かすぎてもよくありません。
ヨガはこのような要素をすべて含む体操で、線維筋痛症には最も適した運動です。ヨガと散歩、あるいはサイクリングなどもいい組み合わせです。運動をすることは線維筋痛症に対して即効性のある治療法ではありません。根気よく、焦らずに毎日続けていくことが大切です。
鬱や不安症も持っている人には心理学者やカウンセラーによる認知行動療法(cognitive behaviour therapy)などのサポートも必要かもしれません。
投薬療法
*鎮痛剤 ― パナドールがまずよく使われますが、あまり効果がないこともよくあります。消炎剤による鎮痛効果のほうが優れている場合もよくあります。オピオイドのような強い鎮痛剤はあまり効果がありません。線維筋痛症では脳内のオピオイド受容体がすでに活性化されているからであろうと思われています。ただし、オピオイド系のTramadol という薬は線維筋痛症には効果があるようです。
*抗鬱剤 ― 三環系抗うつ薬(Tricyclic antidepressant) とセロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(Serotonin noradrenaline reuptake inhibitor) というタイプの抗鬱剤は後角のセロトニンとノルエピネフリンのレベルを上げる効果があり、このメカニズムによって痛みを抑えることができるようです。吐き気、口の乾き、便秘などの副作用がおこることもあります。
*抗てんかん剤 ― このような薬は脳神経の興奮性を抑え、てんかんを抑える効果があるとともに、線維筋痛症では痛みを抑える効果もあります。また、線維筋痛症で不眠と疲労を持っている患者さんにも効果があるようです。めまい、眠気、口の渇きなどがおこることもあります。