鳥居泰宏/ Northbridge Family Clinic


 

ヴイールス性肝炎には今ヴイールスが確認されているものが5種類あります。( A – E )
この5種類の肝炎は経口性感染 ( A と E ) のものと非経口性感染 ( B C D ) のものとに2分されます。
経口性感染 ( Enterically transmitted ) による A 型と E 型の場合は急性肝炎で終わり、慢性化することはありません。
非経口性感染 (Parenterally transmitted ) である B C D 型は急性肝炎の後に慢性化し、活動性慢性肝炎 ( chronic active hepatitis ) 、肝硬変 ( cirrhosis ) 、それに肝臓癌 ( hepatocellular carcinoma ) などという続発症をともなうことがあります。
ヴイールス性肝炎以外に慢性肝炎をおこす原因には自己免疫疾患 ( autoimmune disease ) 、ウイルソン病 ( Wilson’s disease, 先天性の銅の代謝異常により銅が肝臓をも含める各臓器に沈着する病気)、アルコール、それに薬( Methyldopa、最近ではほとんど使われない降圧剤、Isoniazid、結核の薬、Propylthiouracil、甲状腺の薬、その他 ) などがあります。

C型肝炎の感染ルート

主に注射(麻薬中毒者)、入れ墨など消毒が不充分な器具を使った場合、それに輸血による感染がほとんどです。(現在では献血された血液はすべてスクリーニングされます)性行為による感染、母子感染、それに家族内での感染も稀ですがおこるかもしれません。感染者の25%は肝炎の症状がおこります。ほとんどの感染は慢性化します。
慢性キャリアの約20%に肝硬変がおこるようです。そのうち特にアルコールの摂取が多すぎたり B 型肝炎も同時にかかっている場合はこの続発症をおこしやすくなります。

急性肝炎の症状

典型的な症状は倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐、右上腹部の痛み、黄疸、それに濃い尿と薄い色の便です。特に症状の発展が早く、発熱、頭痛、筋肉痛を伴う場合は A 型肝炎の可能性が高くなります。
B 型肝炎の場合、発熱、蕁麻疹、関節痛といった症状も伴うこともあります。C 型肝炎の場合は急性感染時はほとんど無症状です。

慢性肝炎の症状

肝炎が6ヶ月以上続いた場合慢性肝炎と呼べます。慢性肝炎の典型的な症状は疲労、倦怠感、彷徨性の黄疸などです。女性の場合無月経になることもあります。急性肝炎のときほど症状ははっきりとしていないことも多く、無症状であることもあります。

診断検査

*C型肝炎の抗体検査(Anti-HCV) ― 感染後3-6ヶ月経過しないと陽性になりません。 一度感染すると抗体反応は長期間陽性として持続します。(ヴィールスが除去されても)
*C型肝炎ポリメラーゼ連鎖反応検査(HCV RNA) ― C型肝炎ヴィールスのリボ核酸(RNA)を検出する検査で、陽性なら体内にまだヴィールスが存在するということです。ヴィールスが処理されてしまえばこの検査は陰性となります。約25%の感染者は自身の免疫力でヴィールスを処理しますが、その他は慢性化して体内に残ります。
*C型肝炎の遺伝子型(HCV genotype) ― 治療薬の選択に必要な検査です。

C型肝炎の新しい治療

これまではC型肝炎の治療はインターフェロン(Interferon)が基本でしたが、副作用もあり、成功率はあまり高くありませんでした。オーストラリアでは2016年3月から新しい治療薬が発売され、使われるようになりました。C型肝炎ヴィールスに直接作用する薬で、副作用も少なく、ヴィールスの除去率は90%以上です。薬は数種類あり、C型肝炎ヴィールスの遺伝子型によって2-3種類の組み合わせが選択され、投与されます。ほとんどの場合、治療期間は12週間です。
Ledipasvir, sofosbuvir, daclastavir, paritaprevir, ritonavir, ombitasvir, dasabuvir, ribavirin と幾種類もあり、C型肝炎ヴィールスの遺伝子型によって使い分けられます。
これらの薬はオーストラリアのPBS(Pharmaceutical benefits scheme)に登録されている薬で、治療規定に基づいて処方されれば比較的安く購入できます。専門医でなくてもC型肝炎の治療に関する経験のある一般開業医で治療が可能です。

治療にあたってのステップ

*C型肝炎ヴィールスの遺伝子型と血漿ヴィールス量を確認し、治療薬を選択します。オーストラリアでは、ほとんどの人は Ⅰ型(50~55%)、Ⅱ型(5~10%)、あるいはⅢ型(35~40%)に感染しています。Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ型はあまり 起こりませんが、治療にはインターフェロンも加えなければならず、この場合は専門医でなければ治療できません。また、Ⅰ型で、血漿ヴィールス量が低く、これまでに治療を受けたことがなく、初期段階の病気の場合は治療期間を短縮することもできます。
*肝硬変のチェック - 肝硬変がおこっていれば専門医での治療が必要です。治療も複雑で期間が長引くこともあります。また、定期的に検査をしてその他の合併症や肝臓がんが発生していないかをチェックしておかなければなりません。
肝硬変の検査:
1)血液検査で血中のAST(日本ではGOT)のレベルと血小板数からAPRIスコアという数値を計算します。数値が1.0以上ならば肝硬変がおこっている確率が高まります。
2)Fibroscan という検査で肝臓の弾性を超音波のような機械で測る検査で、肝臓の生検をしなくても肝硬変を探知できます。
*その他の肝臓疾患のチェック - アルコールの飲酒量(アルコール性の肝疾患)、糖尿病や高脂血症のチェック(脂肪肝)、その他のヴィールスや感染症(A, B型肝炎、HIV)
*その他の共存症 - 心臓や腎臓疾患の有無。薬によっては腎機能が低下している人には使えなかったり投与量を調整しなければならないこともあります。貧血をおこす薬もあるので、心疾患のある人には要注意です。
*女性の場合、妊娠中にはこのような薬は使えません。治療前には妊娠していないことを確認し、また、治療期間中は避妊しておくことが大切です。
*患者さんが治療をきちんと継続するかどうかのコンプライアンス度を確認しておくことも大切です。必要に応じて心理学者、看護婦、薬剤師などのチームサポートも考慮しなければなりません。
*治療薬の選択 - 遺伝子型がⅠ~Ⅲ型で、病気も肝硬変が起こっていないような初期段階でしたら一般開業医で治療ができます。それ以外の遺伝子型であったり、病気が進んでいて肝硬変を併発していたり、その他の肝臓疾患も持っていたり、腎臓、心臓疾患などもあるようでしたら専門医での治療が必要となります。
*治療中の経過観察 - これらの薬でよくおこる副作用は頭痛、倦怠感、吐き気ですが、ほとんどの場合、治療を中断しなければならないほどひどくなることはありません。治療期間はほとんどの場合8~12週間です。

0週 白血球数、血色素、血小板数、電解質、肝機能、腎機能、INR(国際標準比血液の凝固作用を見る検査で、肝機能が悪化していれば異常値が出る)、HCV-RNA
4週目 白血球数、血色素、血小板数、肝機能
12週目 白血球数、血色素、血小板数、肝機能、HCV-PCR

*C型肝炎ヴィールス除去後の経過観察 ー 治療後12週でHCV-RNA が陰性で肝硬変もなく、肝機能検査が正常値でしたら完治したと考え、それ以降の経過観察は必要ありません。12週目でHCV-RNAが陰性でも肝機能数値がまだ正常でない場合は消化器内科の専門医でその他の肝疾患の有無をチェックしなければなりません。また、C型肝炎ヴィールスを除去しても肝硬変がある人は長期観察が必要で、特に肝臓がん、食道静脈瘤、骨粗鬆症などについて定期的に調べる必要があります。

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