鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice



慢性膵炎とは膵臓におこる進行性、そして不可逆性の炎症性疾患です。炎症により膵臓の細胞が破壊され、
線維化して膵臓が硬くなっていきます。それに伴い、膵臓の機能は徐々に低下していきます。発症率は10万人に50人程度です。男性対女性比は2~3:1です。大半はアルコールの過剰飲酒によるものです。慢性の疾患なので、長期間、状態を見ながら治療方を調整していかなければなりません。

膵臓の機能
膵臓は胃の裏側にある15~20cmの細長い臓器です。右側(頭部)が太く、尾部は細く、全体にはオタマジャクシのような形をしています。役割は二つあり、外分泌と内分泌に分かれています。

*外分泌機能 - 食べ物の消化に役立つ酵素を膵管を経て十二指腸に分泌されます。

  • トリプシン(Trypsin)とキモトリプシン(Chymotrypsin)はタンパクの消化
  • アミラーゼ(Amylase)は炭水化物の消化
  • リパーゼ(Lipase)は脂肪分を脂肪酸とコレステロールに分解して脂肪分の消化

*内分泌機能 - 膵臓の細胞で製造された2種類のホルモンは血液内に分泌され、糖代謝をコントロールします。

  • インスリン(Insulin)は糖を血液から筋肉などに移動させ、筋肉のエネルギー源を供給します。また、糖分を肝臓にグリコーゲンとして蓄えさせる役目もあります。
  • グルカゴン(Glucagon)は肝臓に蓄えられたグリコーゲンを分解して糖を血流に放出し、血糖値
    を正常値に保とうとします。

慢性膵炎の原因
*アルコール - 大半はアルコールの過剰飲酒からおこります。しかし、アルコール依存症の人の5-10%しか慢性膵炎にならないので、その他の因子も関連して慢性膵炎がおこるのではないかと考えられています。一度急性膵炎をおこした人がアルコールの摂取を続けると慢性膵炎になりやすいようです。
*遺伝 - 嚢胞性線維症(Cystic fibrosis)の遺伝子の変異やトリプシンをコントロールする遺伝子の変異などがまれにある原因です。
*再発性急性膵炎 - 急性膵炎を繰り返していると慢性膵炎になる一つの危険因子です。
*自己免疫性膵炎 - 体内で自分の膵臓に対する抗体反応がおこり、膵臓に損傷を与えます。リューマチ性関節炎、原発性硬化性胆管炎、原発性胆汁性肝硬変やショーグレン症候群など、その他の自己免疫疾患と併発することもあります。
*喫煙 - これは原因というよりも危険因子の一つですが、慢性膵炎と強い関連があり、喫煙を続けると慢性肝炎の憎悪にもつながります。
*その他
-胆管や膵管が何らかの理由で詰まり、膵臓からの分泌液が逆流して膵臓に損傷をおこす場合。
(胆石、癌、以前の手術による瘢痕など)
-高カルシウム血症や高トリグリセリド(中性脂肪)血症
-原因不明(突発性)

慢性膵炎の症状
主な症状はみぞおち部分の痛みです。急性膵炎の場合、鋭い、刺すような痛みですが、慢性膵炎の場合は比較的鈍く、痛みの度合いに波があり、絶えず続く痛みです。痛みは背中に広がったり、腹部の左右に広がったりすることもよくあります。痛みはアルコールや脂肪分の多い食べ物を摂るとひどくなります。吐き気、嘔吐、食欲不振を伴うこともあります。
外分泌機能が低下してくると体重減少、下痢、脂肪性下痢などがおこってきますが、慢性膵炎を発症してから5-10年後におこります。
脂溶性ビタミン(A,D,E,K)の吸収不良もおこり、骨粗鬆症にもつながります。内分泌機能の低下により、糖尿病がおこります。これも病気の初期よりも発症してからしばらくたってからおこります。

慢性膵炎の診断
問診と診察で診断が疑われれば影像検査や膵臓機能を診る血液や便の検査などが行われます。
*超音波検査 - 慢性膵炎の初期段階ではほとんどこの検査では診断は困難です。
*CT - 慢性膵炎では膵管の拡張、石灰化、胆管の変化、膵臓の偽性嚢胞などが診られます。
*MRI - 膵管や膵臓の実質がより詳しく診られます。また、セクレチンという膵臓の分泌機能を刺激するホルモンを投与してMRI影像で膵臓の分泌機能を調べることもあります。
*EUS - (Endoscopic ultrasound)超音波内視鏡検査では超音波の探触子を内視鏡で入れ、体内から膵臓の変化を見る方法です。慢性膵炎の診断には最も効果的な診断方法ですが、鎮静が必要ですし、器具を体内に入れることによるリスクも多少あります。
*ERCP - (Endoscopic retrograde cholangiopancreatography)内視鏡的逆行性胆管膵管造影は膵管の様子を最も詳しく見ることができますが、侵襲的手技で、リスクも高いので診断にはあまり使われません。
*血液検査 - 肝機能検査、血中のトリプシン、アミラーゼ、リパーゼ濃度、血糖値検査なども必要です。また、膵臓の脂肪分解機能をみるために便の脂肪分を測ることもありますが、72時間のあいだ脂肪分の摂取量を1日100gと制限しなければならないのであまり行われません。

慢性膵炎の治療
この病気とは長期間患者さんが付き合って行かなければなりません。一度破壊された膵臓の細胞はなかなか再生されません。アルコール飲酒が原因の場合は極力アルコール摂取を避けることが一番大切です。

*痛み - 一番よくおこる症状で、長期にわたる症状なので、この病気の治療に関する最も困難な一環です。ほとんどの場合は炎症のよって膵臓の神経終末部が刺激されるためにおこります。なるべく軽い痛み止めから始めて必要に応じて徐々に強い痛み止めとステップアップしていかなければなりません。この場合、アルコール依存によって慢性膵炎になっている人も多いので、オピオイド依存にも気をつけなければなりません。一部の患者さんでは石や膵臓の線維化による膵管の狭窄で膵液の流れが妨げられて痛みがおこることもあります。石の場合、extracorporeal shock wave lithotripsy(ESWL)、体外衝撃波砕石療法で体外から強力な衝撃波を与えて石を砕くこともあります。また、膵管が狭窄している場合は内視鏡により膵管にステントを挿入して流れを改善する方法もあります。ごく希に開腹手術で胆管、あるいは膵管にチューブを挿入して小腸とつなぎ、膵液の流れをよくすることもあります。
*外分泌機能 - 消化酵素を補給することによって脂肪の吸収不良を改善したり栄養分のバランスを保てるようにします。この消化酵素の成分と量は食べるものの種類や調理法の変化に対応して調整しなければなりません。栄養士の指導が必要となることもあります。
*内分泌機能 - 慢性膵炎の患者さんは膵臓の機能が低下することによって糖尿病を併発する可能性が高まります。糖尿病の治療はアルコール摂取や消化不良、栄養失調などもあれば困難になります。慢性膵炎がよくコントロールされている場合は糖尿病の標準的な治療で治まります。
*食事 - 一般的に低脂肪、高タンパク、高炭水化物のダイエットが薦められます。脂肪の摂取量は脂肪の吸収不全の度合いによりますが、脂肪摂取をゼロにすることは薦められていません。
*喫煙 - タバコは慢性膵炎の直接の原因ではなさそうですが、強い関連があり、喫煙を続ければ慢性膵炎を悪化させますので禁煙が大事です。

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