情報提供:アドバンテージ・パートナーシップ外国法事務弁護士事務所
国際仲裁弁護人・国際調停人 堀江純一(国際商業会議所本部仲裁・調停委員)


シンガポール条約が昨年調印され、企業の国際間紛争解決において国際調停が活用される機運が、日本および豪州で高まっております。今回は豪州で認定されている調停(和解型)の進め方についてご説明させて頂きます。

調停の進め方
調停で求められるコミュニケーション能力‐傾聴力‐受容力‐再確認力‐要約力‐質疑力‐和解型調停の進め方‐調停で共通して問題となる点‐進行を妨げる問題への対処‐無反応への対処‐合意形成

調停で求められるコミュニケーション能力
コミュニケーション能力は調停を進める上で肝心な要素です。その力を調停の過程でいかに活用できるか理解することが重要になります。調停を進める上で特に重要なものがいくつかあります。

  • 傾聴力(アクティヴ リスニング)

傾聴するには、以下の事柄が求められます。
o 相手の話を聞く姿勢を見せること。
o 話し手のことを思いやり、話しやすいように促すこと。
o 話に興味を持っている態度、話し手を気がかりにしている態度を示すこと。
o 話を全部聞いてから判断すること。
o 話し手に返答することや質問することばかりに気を取られないようにすること。
o 紛争と関係のない問題に惑わされないこと。

傾聴を行うことで、当事者は話を聞いてもらえていると感じます。調停人は多くを語らずとも積極的に聞く姿勢を示して、傾聴を行います。例えば、「その後どうなったんですか?」など、ちょっとした返答や、相槌やアイコンタクトなども活用します。両当事者の話し合いを円滑に進めるために、調停人は各々の言いたいことをまとめたり、繰り返し尋ねて再確認する技法を用います。

  • 受容力

当事者に話を聞いてもらえていると感じさせる必要があります。同様に、受け入れられていると感じてもらう必要もあります。調停人は当事者への同情ではなく、共感を示すことが重要です。強調すべきことは、当事者の話を受け入れ、理解している姿勢を示すことです。同情してしまうと、当事者が調停人は自分の味方で、自分の代わりに問題を何とかしてくれると勘違いしてしまう場合があります。
最低でも、調停人が当事者の気持ちを受け入れることで、当事者が調停の進行により協力的に参加することに繋がります。そして当事者が各々の要望や欲するものに着目するよう仕向けることが出来ます。

  • 再確認力

当事者の話を聞き返して再確認する力は有用です。調停に参加する誰かが判断を決め付けるような、自分の立場のことばかり優先するような、誤解を含んだ発言をする場合、紛争が悪化してしまいます。このような場合に再確認することが当事者の助けになります。両当事者に「それぞれの考えが異なることを知ってもらうことでき、少なくとも違った視点から物事を捉えさせる」ことができます。
再確認することで過激な発言や感情任せの発言を、本来の問題点に的を得た発言に言い換えることができます。さらに、非難するような発言で人を傷つけないような発言に言い換えることで、緊張を和らげることもできます。

  • 要約力

要約する力は調停中多岐にわたり活用される重要な能力です。下記の目的のため活用されます。
o 中立の立場から話し合いについての見解を述べるため。
o 当事者が見落としている重大な問題点を提示するため。
o 込み入った話し合いを簡潔にまとめるため。
o 当事者に調停が進んでいることを知らせるため。
o 全ての当事者に調停どの段階に達しているか伝えるため。
o 当事者の話がきちんと聞き入れられていることを両当事者に伝えるため。
o 話し合いがさらに進むように、当事者に発言機会均等に割り振るため。
o 重要な事柄の理解を示し、当事者の信頼を得るため。

  • 質疑力

調停を円滑に進めるために、調停人は的を得た質疑ができなければなりません。調停人は様々な種類の質疑の型を活用します。
o 事実確認型の質疑
o 選択肢提示型の質疑
o 詳細追及型の質疑
o 自由回答型の質疑
o 状況仮定型の質疑
o 原因追求型の質疑
o 合意案形成促進型の質疑
o 実行可能性確認型の質疑

 事実確認型の質疑は調停人と当事者どちらにとっても有用です。回答の形式は問わず、調停中必要になった際に活用されます。両当事者の発言内容が噛み合わない場合、この事実確認型の質疑を行うのがよいでしょう。新しい情報を引き出し、当事者がどう理解しているか確認することができます。

 選択肢提示型の質問は、通常「はい」か「いいえ」の回答形式を通して、意図的に情報を開示させるために活用されます。その主な目的は傾聴を実践することにあります。

 詳細追求型の質疑は情報をさらに引き出すことを目的としており、調停の中でも特定の場面で活用されます。

 自由回答型の質疑は当事者が自由に話をし、その上でより詳細に語ることを促します。回答の幅は選択肢提示型のものよりも広いです。自由回答型の質疑では「どのように」「なぜ」「いつ」といった疑問詞を用います。

 状況仮定型の質疑は自由回答型の形を取りますが、「もし△△だったらどうしますか?」という尋ね方をとります。これにより、当事者がより詳細に話してくれる機会を与えることができ、話し合いを円滑に進められます。状況過程型の質疑は合意案の選択肢を模索する際や交渉の段階でも活用されます。当事者が自発的に解決案を模索することができます。

 原因追求型の質疑も活用する場合があります。原因追求型は当事者に紛争に向き合い、解消に向けた努力を促し、最終的に合意に至らせるために用います。

 実行可能性確認型の質疑は交渉の段階や、行き詰まった場合に役に立ちます。合意案の現実性、本当にできるのか確認されなければなりません。

調停の進め方

  1. 自己紹介と調停前の諸確認
  2. 当事者による現状の説明
  3. 話し合う内容(アジェンダ)の取り決め
  4. 問題点の掘り下げ
  5. 合意案の選択肢の考案
  6. 個別対応の会合の実施
  7. 合意案策定のための交渉
  8. 紛争解決の合意・調停の終了

1. 自己紹介と開始前の諸確認

調停人は自己紹介をし、当事者に挨拶をする。この時、調停場所の設備についての説明や注意事項を伝えなければならない。時間管理、災害時の避難経路と非常口、トイレの場所、軽食についてなどが例に挙げられる。

紛争の形態に応じて、両当事者が合意を受諾する権限を持っているのか確認すべきである。以前に調停して至った合意を受け入れていない場合、当事者は事前に伝えなければならない。

開始前の確認事項の説明

調停人は調停開始前に確認事項の説明から始めます。この説明で下記の事柄を全て伝えなければなりません。

  • 守秘義務: 調停は守秘義務に留意して進められることを再確認する。
  • 調停人の役割: 調停人の役割は中立の立場から交渉が円滑に進むよう、あくまで手助けするだけであることを伝える。調停人は助言を与えないことも伝える。
  • 進め方: 当事者は調停がどのように進むのか伝えられる。これは当事者同席型以外の手段で調停を行う際、特に重要である。
  • 合意: 合意の法的拘束力、これから始まる調停で合意がどのように処理されるのかについて教える必要がある。
  • 模範行動: 調停中に求められる分別のある言動について説明すること。傷つけるような言動を行わず、揉めることなく、当事者間で敬意をもって接することを求める。
  • 質疑: 確認事項の中で疑問に思う点があれば質問できることを伝える。

 

2. 当事者による現状の説明

まず、両当事者が抱える問題点や心配事について説明し、その中でどれを調停に持ち込むのか相談するところから始まります。調停人は当事者に調停に持ち込む問題点や心配事について順番に尋ねます。この時、調停人はなぜその順番で発言の機会を与えたのか説明し、後に発言する当事者に対してきちんと話す機会があることを確認しなければなりません。調停人は当事者達に対して、当事者が話している際にメモを取る場合があること、片方が話している時に聞き手側が話を遮ってはならないこと、片方が話し終えた後に聞き手側に異を唱える機会が与えられることを確認するべきです。

この段階では、当事者間のコミュニケーションというよりは、当事者と調停人のコミュニケーションを行うことの意味合いが大きいです。調停人はこの場を使って両当事者に質問をし、問題点をどのように捉えているかを明らかにする必要があります。この際、両当事者に話を聞いてもらえている、受け入れてもらえていると感じさせることが非常に重要です。時として調停人は当事者の発言を客観的なものにするため、或いは問題の的を得たものにするために、再確認する必要があります。

当事者からの説明を一通り終えたら、調停人はそれをまとめ、両当事者が抱える「共通項」を見定めます。ここでいう「共通項」とは、合意を目指す先のこと、或いはお互いに共通して抱えている問題点や心配事を指します。

3.話し合う内容(アジェンダ)の取り決め

両当事者の説明を聞いた後、調停人は両当事者が重要だと判断した問題点を基に、話し合う内容(アジェンダ)の取り決めを行います。アジェンダの取り決めは、両当事者の話し合いを順調に進め、問題点を具体的にする上で、非常に重要です。アジェンダ作成を通して、調停人は両当事者の話を踏まえて、客観的にその問題点を捉える上でも有用です。

話し合う内容をまとめる方法の一つが、質問を基に一覧にすることです。話し合う内容の例は以下の通りです。

◇どうすれば同じ職場にいるチームとして上手く協働できるか。下記の点を考慮すべきである。

  • コミュニケーション
  • 職場の良い雰囲気づくり
  • 紛争解決に向けた方針、進め方、実行案

◇どうすれば目標達成のためにチームの力を高めることができるか。下記の点を考慮すべきである。

  • それぞれの役割と果たすべき責任の所在を明確にする
  • 仕事の働きぶりを評価する基準の設定と導入
  • 時間管理
  • コミュニケーションのやり方

これにより、客観的な視点で、全てを網羅した話し合いができるようになります。

両当事者が話し合う項目の具体化を手助けする場合もあります。当事者は話し合う内容の優先順位を決めなければなりません。当事者がどの項目から話し合いを始めるか決めていない場合、調停人は当事者に優先順位を決めるよう促す場合があります。アジェンダは話し合うべき項目が全て網羅されているか確認するチェックリストの機能も果たします。

4.問題点の掘り下げ

和解型調停における掘り下げの段階では、調停人は話し合うべき項目について両当事者で話し合うよう働きかけます。当事者が互いに話すことを嫌がる場合があるため、時として困難が生じます。他にも、話し合いを進めるために調停人が質問を投げかけた際に、当事者間での話し合いにならず、調停人に向かって答えてしまう場合もあります。

この段階は、問題点は定まっているが未だに解消されていない場合に取り行われます。両当事者は自身の譲れない点について自由に、声を大にして発言する機会を得ることができます。調停人の役割は当事者の発言や振る舞いから手がかりを得るよう気をつけることです。時として、当事者の自由な発言の度が過ぎて紛争の鬱憤などの言及になることがあります。この場合、調停人は当事者が起こってしまったことに執着しすぎないよう止めに入らなければなりません。このような事態が起こった際には、調停人は当事者に対して、過去に起こったことを振り返るために調停をしているのか投げかけて本来の目的を再確認させ、両当事者に未来のことに目を向けるよう差し向けると良いでしょう。

掘り下げを行う中で、調停人は傾聴力、受容力、再確認力、要約力、質疑力を活用しながら、紛争解消を目指す上で障害となるものを見定めます。時折、両当事者が同じことを述べていても、紛争の複雑さゆえに両当事者自身はそのことが理解できない場合があります。これまでに述べたとおり、この状況は前進を意味します。

5.合意案の選択肢の考案

調停が進むと、調停人は当事者の話を基に解決案を考えることが必要になります。調停人がいくつかの選択肢をほのめかすこともあります。調停人の役割上、選択肢を提示することはできませんが、当事者に解決案を考えさせるために質疑を通して話し合いの場を整えることはできます。

話し合いが行われている間、調停人は内容をまとめ、選択肢を明確にすることになります。一つの問題点に対する解決案の選択肢がなかなか思い浮かばない場合、一旦保留にしてアジェンダにまとめてある別の項目について考えることも有益です。調停人は両当事者に調停後の要望を重視するよう繰り返すことで、調停を推し進めることができます。

6.個別対応の会合の実施

個別対応の会合は、調停人が各当事者と一人ずつ話す機会を持つためのものです。調停人は先に話す当事者を決め、もう一方の当事者にその間しておくことを指示します。この時、助言をもらう、気分転換をする、話し合いのことを考えるなどが例として挙げられます。これにより、もう一方の当事者の緊張状態を緩和させ、調停人のいない間に改めて考える機会を与えることができます。

個別対応の会合は、話し合うべき項目が全て掘り下げられた後、交渉の段階に入る前に、調停人が両当事者と話す機会を持つために行われます。但し、調停の話し合いで上手く話すことができないなど、当事者が苦痛を覚える場合、調停人は調停のどの段階でも個別対応の会合を行う場合があります。また、調停人が個別対応の会合が好ましいと判断した場合も同様です。調停人は調停の開始時に当事者に対して、いつでも個別対応の会合への切り替えを希望できることを伝えなければなりません。

調停人は個別対応の会合にかけられる時間が均等になるよう努力しなければなりません。各当事者にほとんど同じ時間分を与えるようにし、片方にしか機会を与えないなどの不平等な会合をしてはなりません。守秘義務を徹底するために、個別対応の会合を行う間、調停を行う部屋を退室する者は自身のメモや記録を持って退室するべきである。

個別対応の会合を行う場合、調停人は当事者に対して個別対応の会合では守秘義務が徹底されていることを確認する必要があります。調停人は両当事者同席の会合に持ち込めるような解決案を明確にします。さらに、当事者にとってその解決案が本当に実行できるのか確かめます。調停人の口から個別対応で上がった内容を述べることはありません。但し、当事者が選択肢をどのように具体化していくか決めること、当事者が言わなければらないと思っていることを伝えることの手助けをする時があります。また、調停人は当事者からの言葉や態度から心配事を汲み取り、取り上げる場合もあります。この会合は当事者と共に、どのように解決案を模索していくか、どのように抱えている心配事を伝えるかを知るための手段でもあります。

7.合意案策定のための交渉

交渉の段階は、掘り下げの段階の時と同様に、調停人が両当事者で話し合うよう働きかけるものです。但し、過去に起こったことについてではなく、紛争解決に向けた選択肢を話し合うために行われます。調停人はどちらか一方の当事者を指名し、話し始めさせます。この際、調停人は同じ当事者ばかり先に選ぶことがないよう、公平に指名するよう気をつけなければなりません。

調停人は解決案に生かすことができそうな選択肢を書き留めておく必要があります。両者が納得のいく選択肢があったとしても、本当に実行できるのか必ず確かめなければいけません。調停人はその選択肢が長期的に見ても実効できるかどうか見定めるために質問します。本当に可能なのか、実行できるのか、両者の欲するものを満たすものなのかといった点を見極める必要があります。

全てを確認し終えた後、両当事者は自身の決定を受け入れなければなりません。解決策が理にかなったものであれば尚更、その合意は長く保たれるでしょう。

対立する利害にまつわる紛争の原因は

  • 内容面の利害関係(独断と現実の差)
  • 過程面の利害関係(時間と方法)
  • 心理面の利害関係(理由)

の3つに分類されます。

調停人は合意案が両当事者の欲するものを満たしているか確認しなければならない。そのために、内容面の利害関係(何を欲しているのか)、過程面の利害関係(いつ、どのように欲するのか)、心理面の利害関係(なぜ欲するのか)を考慮しなければならない。

交渉の段階では、両当事者はどの案が最も可能性があるか決め、合意に向けて動き始めます。紛争の原因によっては、公式の合意に至る前に、当事者が法的助言や他の助言が必要とする場合があります。

8.紛争解決の合意・調停の終了

調停を終了する方法はいくつかあります。この段階で重要なことは、両当事者の想いや下した決定が、合意内容や今後の展望に反映されているかどうかです。調停人は当事者に対して合意に至るよう圧力をかけてはいけません。調停人には両当事者と同席するという義務と責任があります。この段階では、調停人は両当事者が合意の内容を明確にすること、その合意を公式のものにする手助けを行います。

両当事者が合意を図っている場合、当事者の弁護人はその内容の具体化を手助けする場合があります。法的に認められた代理人がいない場合、調停人がこれを行います。これは、両当事者が合意してことについてきちんと理解しているか確かめる良い方法です。合意の内容を見直し、きちんと機能しているか確かめるために、後日話し合いの機会が設けられる場合があります。両当事者は合意についてのコピーを受け取り、調停人は当事者にこれからのことを伝え、終了となります。

全ての調停が合意で終わるわけではありません。合意に至らない場合、調停人はどこまで調停が進んだか、その進捗による利益についてまとめることになります。また可能であれば、もう一度会って話し合いの機会を設けるために、両当事者から同意を得るよう努力すべきである。調停人は合意案の選択肢をそのまま残しておくことを提案する場合もあります。

合意形成

調停人は両当事者と協働し、最終的な合意を取り決めます。必要ならば合意内容の文書化も行います。大切なことは当事者が自身の言葉で、合意内容を理解しているか確認することです。また、当事者が合意内容の責任を負うことも確認します。

調停によってもたらされる合意は一つではありません。時には、合意に至る前に当事者が法的、経済的助言を必要とする場合があります。合意内容に注意すべき事柄を含む場合、合意前に調停人がその点を指摘することが大切です。例えば、合意した額の支払いを約束しているが、その時点で支払える見込みが無い場合などである。

同席している弁護士は当事者と共に合意内容の草案作成を手助けすることが認められています。穂的に認められた代理人がいない場合、調停人が合意内容に両当事者の名前、日付が各ページに記載されているか確認して手助けすることになります。必要であれば、合意後の流れや両当事者に求められる行為も記載します。草案作成後、調停人は両当事者に合意内容を読み上げなければなりません。当事者が合意内容を明確に理解しているかどうか確認します。また、不履行の場合どうなるのかについても説明します。その後、もう一度読み上げて最終確認を行います。

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