鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


ミトコンドリアとは
人間の体の中のすべての細胞(赤血球以外)に存在する細胞小器官です。人が必要とするエネルギーの90%を生産しています。
エネルギー合成が一番大事な役目ですが、それ以外に活性酸素の発生、アポトーシス、カルシウムの貯蔵、感染の防御、などの役目も果たしています。
高エネルギーを必要とする細胞内には数千ものミトコンドリアが存在します。例えば脳、神経、目、鼻、心臓、肝臓、腎臓、膵臓などです。ミトコンドリア病で最も影響を受けやすいのはこのような臓器です。赤血球にはミトコンドリアはありませんが、ミトコンドリア病では血色素を合成する骨髄の幹細胞のミトコンドリアの機能も低下して貧血をおこすこともあります。
一つ一つのミトコンドリアを構成するには約1500もの遺伝子の情報が必要となります。それは細胞核の中のDNAとミトコンドリアのDNAからの遺伝子が含まれます。

ミトコンドリア病とは
ミトコンドリアの作製に必要なDNAが変化し、遺伝子変異がおこると異常なミトコンドリアができてしまい、ミトコンドリア病をおこします。ミトコンドリアの構成にかかわるDNA は細胞核DNA とミトコンドリアDNAとがありますが、ミトコンドリアDNAのほうが細胞核DNAよりも10倍変異がおこりやすいようです。ミトコンドリア病には原発性のものと続発性のものがあり、ほとんどの場合は原発性です。原発性とは遺伝病で、ミトコンドリア病の家族歴があることが多いようですが、遺伝の種類(優性遺伝、劣性遺伝、伴性遺伝)によっては親が健康であっても遺伝子の組み合わせによって初めてその子孫の世代で現れることもあります。続発性とは生まれたときには正常な遺伝子をもっていても途中で何らかの原因によって遺伝子変異がおこってしまうことです。
症状が現れる時期は生まれてからどの時点で遺伝子変異がおこるか、細胞内での異常ミトコンドリアと正常ミトコンドリアの比率の変化、それにどの臓器の細胞に異常がおこっているかなどによって左右されますので成長過程、ならびに成人になってから、どの時点で発症するかは個人個人で異なります。少数の異常ミトコンドリアしかない場合は全く症状が出ない場合もあります。そしてどの臓器が影響を受けているかによって症状もことなります。ですから、ミトコンドリア病の診断基準は非常に難しく、全世界的にも決まったものはありません。
当然、ミトコンドリア病の発症率も正確な数字は把握されていませんが、オーストラリアでは200人に1人は何らかのミトコンドリア遺伝子の変異があるのではないかと推測されています。しかし、この人たち全員が病気を発症するわけではなく、重病に陥るのは5000人に一人程度であろうと思われています。診断基準がはっきりとして診断方法も発達して行くにつれてこの発症率は上昇するでしょう。

ミトコンドリア病の症状
エネルギーを多く消費する臓器(脳や筋肉)に特に症状が出やすいので脳神経の症状や筋肉機能に関する症状がおこることが多いようです。ミトコンドリア病は多臓器疾患なので、一つの器官に関する症状だけではなく、複数の臓器に関する症状が現れることもあります。
診断は難しく、症状の進展を見ながらこの病気を疑うことから始まります。特に次のようなことがよくある事態です。
*よくおこる病気の非典型的な発症
*3臓器系以上に関わる症状
*感染症による通常の慢性疾患の複数回の再発
この中で、最もよくある症状は倦怠感、疲労感です。特に肉体的ストレスが高かったり、エネルギーの消費が多かったり、エネルギー源の摂取が少なかったりしたあとにおこるベッドから出られない程の極度の疲労感です。右図に、よくミトコンドリア病が発症する臓器とその症状が集約されています。子供がミトコンドリア病を発症した場合、異常のあるミトコンドリアがすでに多数細胞内にあるということで、病気の進展も早く、予後もあまりよくありません。発症年齢が遅ければ遅い程病気の進展もおそく、予後もそれだけよくなります。

ミトコンドリア病の検査
まず、どのような症状が出ているかによってその臓器の機能を検査したり、鑑別診断で、他の病気ではないかということの確認が必要なこともあります。血液検査、髄液検査、脳の画像検査、心電図や心エコー検査、神経伝導検査、筋電図検査、聴力検査など、あらゆる検査が必要となるかもしれません。
次に、ミトコンドリア病が疑われる場合はミトコンドリア異常があるかを調べます。この段階ではミトコンドリア病のことを詳しく見ている経験のある専門医での受診が必要となります。神経筋疾患の専門医や神経遺伝学の専門医などが適切です。筋生検の組織学検査で典型的なパターンが見られることがあれば診断に役立ちます。また、電子顕微鏡で細胞内のミトコンドリア数が増加していたり、ミトコンドリア自体の異常が見られることもあります。最終的にはミトコンドリアDNAに変異があるかを見る検査が必要となるかもしれません。よくある遺伝子変異を見つけるのは比較的容易ですが、遺伝子全体の配列を検査するのは大変なことで、費用もかなりかかります。なお、このような専門的な検査費用に関してはMedicare が適応されませんので自費となります。

ミトコンドリア病の治療
残念ながらまだこの病気の治療法は発見されていません。それぞれの症状に合わせた対処が必要です。例えば、糖尿でしたら、血糖降下薬やインスリンを使ったり、痙攣には抗痙攣剤を投与したりして症状をコントロールする必要があります。
一般的にはエネルギーの消失を最低限にし、エネルギーの取得を重視することです。
*食事に気をつけ、充分な栄養補給を怠らないようにし、規則正しく食事を摂るようにする。ミトコンドリアの代謝を助ける物質やビタミンがあるかもしれませんが、まだはっきりとした効果のあるものは発見されていません。
*充分な睡眠も必要です。睡眠不足になると疲労、衰弱などの回復にも影響します。
*定期的な運動をしているとミトコンドリア数を増やし、働きもよくしますが、運動をしすぎると逆効果になります。
*予防接種などで感染症をを受けて防ぐことも大切です。感染症がおこると健康な人よりも疲労、倦怠感、衰弱がおこりやすく、また回復にも時間がかかります。
*ミトコンドリア病の人は極端な寒暖にも敏感なので、暑すぎない、寒すぎない体温を保つことも大切です。
*喫煙、飲酒もミトコンドリアに損傷をきたしますので避けるようにして下さい。
*定期健診を怠らないようにし、症状の悪化がおこればすぐに対処できるようにしてください。

ミトコンドリア遺伝子の変異がおこっている部分を壊して正常なものを残すというような遺伝子治療の研究も行われていますが、まだ実行できるような段階には達していません。

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