鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


欝病は通常抗鬱剤で治療しますが、何%かの患者さんは幾種類の抗鬱剤を試してみても効果が現れない場合があります。これを治療抵抗性欝病(Treatment-resistant depression, TRM)といいます。
また、どうしても副作用が強くて抗鬱剤を使えないこともあります。最近注目を集めているのがこのような治療抵抗性欝病に効果があるという治療法です。経頭蓋磁気刺激療法(Transcranial magnetic stimulation, TMR)といって磁気を使って脳に弱い電流を発生させ、脳内のネットワークの連絡度に異常がおこっている部分を修正し、欝病を改善させる方法です。

鬱病の脳内の変化
神経イメージングを使った研究で、鬱病の患者さんの脳内では左背外側前頭前皮質の活動が右背外側前頭前皮質と比較して劣っているということがわかり、磁気刺激によって両側の活動を平等にすることによって鬱病の改善が図れるという結果が出ています。
脳内の仕組みは複雑で、単純に左右の不平等だけが鬱病をおこしているとは考えられませんが、この方法が好結果を出していることは確かです。
これからは磁気刺激方によって不安症、強迫性障害、心的外傷性ストレス障害などにも効果があるのではないかと考えられています。

経頭蓋磁気刺激の発展
1985年に初めてこの機器が出現しました。磁気は骨を通過することによって頭蓋骨内の脳にも刺激が届きます。この機械を交互につけたり消したりすることによって脳内に弱い電流が発生します。この初期の装置で脳内のネットワークを観察し、脳内間の伝達の異常などを調べることができました。
1990年代から機器がさらに進化し、電磁コイルを冷やす技術を導入することによって持続的に反復パルスを発生させられるようになりました。これを反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS, repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)といいます。脳の中の一定部分に遅いパルスを与えるとその部分の活動が減り、早いパルスを与えると脳のその部分の活動はより活発になります。この原理を利用して背外側前頭前皮質に電磁パルスを与えることによって鬱病の治療手段として活用されるようになりました。
2007年からオーストラリアの治療品管理局(TGA, Therapeutic Goods Administration)で鬱病の治療法として認められています。

患者さんの選択
基準は2種類の抗鬱剤を使っても鬱が改善されなかった場合の二次治療として使われます。単極性の鬱病でも双極性の鬱病にも適応します。
反復経頭蓋磁気刺激療法が不適切とされるのは次のような場合です。
*妊婦
*頭蓋内に金属がある場合(血管のステープルやクリップ、人工内耳など)(金属プレートや歯科用装具など骨に固定されているものは可能)
*癲癇
*18歳以下

治療の方法
入院治療の必要はなく、診療クリニックの椅子に座って治療できます。磁場をおこすコイルを頭皮に僅かに触れる程度の位置に設置します。
麻酔の必要もありません。治療前に絶食する必要もありません。治療後の運転も可能です。服用中の薬も続けられます。
一回の治療は30-45分かかります。これを週に3回から5回行い、合計で30回の治療が必要です。費用は1回$150-200かかりますので、フルコースの治療でしたら$5000前後の費用がかかります。オーストラリアでは保険適用外なので患者さんの個人負担となります。
通常20-25回の治療を終えた頃から気分の改善がみられてくるようです。この時期から医師と相談して抗鬱剤の服用量を減らしていくことも考慮されます。いずれにしろ、治療中は定期的に精神科医が経過を見ます。

治療効果
この治療による寛解率は49-69%です。再発するまでの期間は平均5ヶ月です。しかし治療後12ヶ月の時点で鬱病が再発した人数は全体の1/3以下です。再発した場合、再治療をしたときの寛解率は一回目の治療のときの寛解率と変わらないようです。もし、再発をした場合、1週間に1回の維持療法で再発を避けることができるようです。状況が良ければ徐々に治療頻度を減らし、4-6週間に一度の治療で状態を維持できるようです。

副作用
副作用はほとんどが軽度のもので、頭皮に不快感を感じたり、頭痛がおこったりする程度です。ごくまれに痙攣がおこることがあります。(0.01%~0.1%)

電気ショック療法との違い(Electroconvulsive therapy, ECT)
*ECTは全身麻酔が必要(全身麻酔自体からのリスクもある)
*rTMS と比較して寛解率は同じ程度
*ECTは記憶障害をおこすこともある。ほとんどの場合は短期のものでECTを受ける前後の記憶が一時的になくなるだけですが、長期にわたる障害がおこることもあるようです。
*ECTは不整脈や低血圧をおこすことがある
*ECTはその他に頭痛、精神混乱、吐き気、筋肉痛などをおこすこともある

反復経頭蓋磁気刺激療法を受けられるクリニック
オーストラリアではまだ多く普及している治療法ではなく、各主要都市に2-3しかクリニックがありません。一般開業医、あるいは精神科医からの紹介状が必要です。

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