鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


尿失禁のタイプはいくつかありますが、女性の尿失禁では2番目に多いタイプです。膀胱が敏感で過活動の状態になるとおこります。1番多いの失禁のタイプは緊張性尿失禁(腹圧尿失禁)です。切迫尿失禁は尿意を催してトイレに駆け込もうとする間に漏れてしまうタイプの失禁で、頻尿、夜尿を伴います。男性も含めて40歳以上の人口の約17%はこのような症状を経験しているはずです。また、年齢とともに発生率は高くなります。

切迫尿失禁のおこるメカニズム
膀胱が敏感で過活動の状態にあります。1日に10~15回の頻度で排尿しなければなりません。突然、尿を漏らす恐怖感に襲われ、やむにやまれぬ尿意がおこります。ほとんどの場合は排尿筋が痙攣をおこし、尿意がおこります。この排尿筋の痙攣が強すぎると排尿を止める尿道括約筋の働きを圧倒し、失禁がおこります。膀胱の排尿筋が敏感で過活動状態になる(overactive bladder, OAB) には3つの原因があります。
ひとつは尿道が閉塞されるタイプです。男性の場合は前立腺肥大が最も多い原因ですが、女性でも緊張性尿失禁を改善するための膣の手術をした後に尿道の通りが悪くなることもあります。
ふたつめは多発性硬化症や脊髄傷害などの神経疾患です。最後に上記の二つの原因にあてはまらない場合は特発性のOAB ということになります。特発性のOAB がおこるメカニズムははっきりとわかっていませんが、おもな理由は3つあると考えられています。(上図参照)
①膀胱の上皮下の神経が過敏で少量の尿でも膀胱が充満しているように感じとる。
②脳からの排尿を押さえようとするメッセージがなぜか弱っている。
③膀胱の中にある排尿筋が敏感で過活動の状態にある。

診断、検査
膀胱が過活動 (OAB) の状態で必ずしも失禁がおこるわけではありません。ただし頻尿、夜尿は必ずあります。
24時間中の排尿の頻度、毎回の排尿量、飲んだ水分の量、失禁の有無をすべて記録した表を作れば診断に役立ちます。OAB の人は頻度が30~90分(通常は3~4時間)ほどで、毎回の排尿量も50~150mlと少ない量です。(通常は250~450ml)膀胱炎で頻尿になることもありますから尿の培養検査もはじめにしておくといいでしょう。
失禁があるとすればそのパターンも詳しく検討する必要があります。切迫尿失禁の場合、まず尿意がおこり、トイレに着くまでに間に合わないで尿が漏れてしまいます。緊張性尿失禁の場合は尿意を催していなくても重いものを持ち上げたり、笑ったり、咳をしたりして腹圧が高まったときにおこるような失禁です。ただし、切迫性失禁でも咳をすると排尿筋の収縮を引き起こし、失禁につながることもあります。また、両タイプの失禁がおこる人もいます。もしどちらのタイプの失禁が顕著なのかがはっきりとしない場合は尿流動態検査 (Urodynamic study) をしなければなりません。この検査では尿の流れの速度、膀胱内の圧力の変化、膀胱の許容量、排尿後の残尿量などを量り、排尿時に膀胱がどのように働いているのかを詳しく見ます。
もし、残尿量が多い場合に注意しなければいけないのはOAB のために使われる抗コリン作用薬 (anticholinergic drug) は排尿筋をリラックスさせるのでかえって残尿量が増えてしまうこともあります。

治療
膀胱再訓練 (bladder retraining) が治療の大事なポイントです。主旨は膀胱の許容量を大きくし、排尿筋の痙攣がおこりにくくすることです。看護婦さん、あるいは理学療法士で失禁に関する治療に詳しいセラピストのアドバイスが必要となるかもしれません。
なるべく尿意の切迫感を押さえる方法を学び、徐々に我慢する時間を長くしていきます。また、カフェインやアルコールなど利尿効果のある飲み物は避け、膀胱を不必要に刺激しないようにしなければなりません。ただし、頻尿だからといって水分の摂取量を減らすと膀胱の許容量を増やしていくことが困難になりますので、なるべくカフェインとアルコールを含まない水分を一日で 1.5 ~ 2 リットルはとるようにしなければなりません。
トイレに行ってから2時間以内にまた尿意を催したら3つのことをしてみてください。まずはじめに座るようにしてください。膀胱には立っているときよりも座った状態のほうが尿意が薄れる性質があります。
次に骨盤床の筋肉に力を入れて尿が膀胱から尿道に流れるのを止めるように努力してみてください。オナラを止めようとしたり、タンポンが落ちるのを止めようとしたり、排尿時に途中でおしっこを止めようとするときの要領で筋肉を収縮させます。最後には脳から膀胱へ意識的に強いメッセージを送るようにしてください。”2分間は我慢してトイレへは行かない”と言い聞かせるようにしてみてください。こうして静かに2分間我慢をして座っていられることができたらゆっくりと立ち上がってトイレの方へ歩いていってください。(走ると失禁がおこりやすいので歩くようにします)おそらく2分我慢できたら尿意は治まっているはずです。排尿筋が痙攣をおこしたとしても長くて1~2分のはずです。

投薬:
OAB では排尿筋が不随意に収縮するのでおこります。この排尿筋の収縮を抑えるのに役立つのが抗コリン作用薬 (anticholinergic drug) です。代表的なものはDitropan(Oxybutynin), Vesicare(Solinefacin) などという薬です。この系統の薬に共通した副作用は口や目の渇き、便秘、めまい、眠気、錯乱状態(特に高齢者)です。新しい薬のほうが副作用は少ないようですが、高価であるという不利な点もあります。Oxybutynin の皮膚パッチは副作用が少なくなります。Mirabegron(Betmiga)というあsらに新しい薬はこのような副作用が少ないようですが、血圧があがることもあるので注意が必要です。

ボトックス:
膀胱鏡を通して膀胱の内壁に何カ所かボトックスを注射し、膀胱の筋肉をリラックスさせる治療法です。75%程の成功率がありますが、効果は6-9ヶ月で薄れます。注射をくりかえさなければなりません。尿閉(排尿できなくなる現象)をおこすこともあり、注射の効果がなくなるまでカテーテルを挿入して尿を出さなければならないこともあります。

仙骨神経修飾(Sacral neuromodulation):
膀胱の排尿筋は仙骨神経によってコントロールされています。仙骨神経と脳との間は脊髄によってつながっています。脳と仙骨神経の間の連絡が正常に機能していないと膀胱のコントロールが失われ、失禁をおこしたり尿閉(尿が出なかったり出し辛くなる)をおこしたりします。仙骨神経修飾とは右図のように電極を仙骨神経にあてて弱い電流で刺激することによって脳と仙骨神経の間のコミュニケーションを改善して膀胱の機能を改善する治療法です。膀胱のトレーニングや投薬で過活動膀胱(OAB)が改善しなかった場合に用いられる手段です。初めは1-2週間ほどの試験期間があり、挿入された電極に外付けの仙骨神経刺激装置をつなげて効果を見ます。もし過活動膀胱の症状を50%以上改善できるようでしたら常置の装置を臀部の上部の皮下に挿入します。この装置の電池は4-6年持続します。電流の強さは体外から調整できますし、また止めることもできます。もし試験期間で効果が見られなかった場合は電極は簡単に取り除けます。
5年間における成功率は過活動膀胱に関しては82%の患者さんが50%以上の症状改善が見られ、また尿閉に関しても78%の患者さんに50%以上の症状改善が見られたようです。このような治療は仙骨神経修飾の経験のある泌尿器科で治療を受けることができます。

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