鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


食べ物に対するアレルギーで皮膚に反応がおこる場合、即時型過敏症状と非即時型反応があります。
即時型過敏反応とは、蕁麻疹や嘔吐、下痢、呼吸困難、それにアナフィラキシーのような反応のことで、その食べ物を食べてから数分から数時間のあいだにおこる反応です。食べ物との関連がはっきりとしているのでアレルギーをおこした食品を特定することは比較的簡単です。しかし、食物アレルギーが関与しておこるアトピー性皮膚炎(湿疹)は非即時型反応で、要因を特定することも困難です。
食べ物が引き金となってアトピー性皮膚炎(湿疹)をおこすケースは全体の約10%です。アトピー性皮膚炎と比較的関連のある食べ物は卵、牛乳、麦、大豆、それにピーナッツですが、必ずしもアナフィラキシーをおこすようなひどいアレルギー反応ではありません。どのようなアレルギーのメカニズムがアトピー性皮膚炎をおこすのかはまだはっきりと解明されていません。ただし、80%の場合、5歳までには改善しているようです。

アトピー性皮膚炎と皮膚のバリアー
むしろアトピー性皮膚炎(湿疹)はアレルギーの要素よりも皮膚のバリアー機能が低下していることが大きな要因です。表皮の顆粒層という層の中にFilaggrin(フィラグリン)という淡白があり、ケラチノサイト(Keratinocyte)という細胞と反応して水分を通さない障壁(barrier)を作ります。アトピー性皮膚炎の人はこの淡白を製造するための遺伝子の欠陥があることが多く、皮膚を保護するバリアが正常に機能しないために外部環境から損傷を受けやすく、その刺激によって炎症反応がおこりやすくなるようです。保湿機能が低いため、アトピー性皮膚炎の人は皮膚が乾燥しやすくなっています。そして保護機能が弱まっている皮膚は外部からの刺激に反応して皮膚炎をおこしてしまいます。この遺伝子の欠陥は今の医学では改善することができませんので皮膚炎をおこしやすい体質は一生続きます。ですから、アトピー性皮膚炎は根治することはできません。
しかし、普段から皮膚の保湿に気を配り、皮膚への刺激を最小限に食い止め、よく皮膚をケアーしていれば皮膚の炎症がおこることを防ぎ、皮膚疾患をコントロールすることはできます。
近年アトピー性皮膚炎の発生率が増加しています。上記のような遺伝的要素は古くからあることなので、何らかの環境の変化によってアトピー性皮膚炎が増えているのではないかと思われています。ひとつの仮説は極度の衛生観念からくる”きれい好き”も影響しているのではないかという考えです。1歳までのあいだにより多くのバクテリア毒素に接した幼児のほうが1歳時点でアトピー性皮膚炎がおこっている確率が低いというデータがあります。乳幼児期にある程度の刺激に接していれば後ほどそのような刺激に耐性ができるために重要なのではないかと考えられます。

アトピー性皮膚炎と食物アレルギー
重症な皮膚炎で、しかも上記のような食べ物を摂取したあとに必ずアトピーがひどくなるというパターンがはっきりとしているような場合にはアレルギー検査をしてみる価値はあります。軽度の皮膚炎で、しかも食べ物との関連がはっきりと見られないような場合、ただ漠然とアレルギー検査をしてもあまり意味がありません。アレルギー検査には血液検査で血中の抗原特異的IgE抗体を測る検査と皮膚に抗原を付けて反応をみるパッチテストがありますが、擬陽性(アレルギー反応が出ていても実際にはアレルギーをおこしていない)が多く、食物アレルギーを確認する手段としての限界があります。
アトピー性湿疹がおこるメカニズムは非即時型反応で、このようなアレルギー検査では判断するのは困難です。次の方法として経口負荷試験があります。実際にアレルギーが疑われる食べ物を医師が観察できる診療所で摂取して反応を診る検査です。場合によってはアナフィラキシーのような危険な過敏症状がおこる可能性もあるので経験のある医師のもとで行われなければなりません。
ただし、重症のアトピー性皮膚炎の場合、日によって症状のアップアンドダウンがあるため、たまたま症状がひどい時に食べたものがその原因であると勘違いすることもよくあります。ですから、食物アレルギーの判断をする場合、皮膚炎が保湿剤やステロイドによって比較的よくコントロールされて安定しているときにしなければなりません。
むやみに食事制限をすると大切な栄養分が充分に摂取できなくなるという危険もありますので、何らかの食事制限をする場合は医師、あるいは栄養士の指示を受けてするべきです。

アトピー性皮膚炎の発症を防ぐ予防法?
*妊娠中
―プロバイオティクス(宿主に有益に働く生きた細菌によって構成される添加物):
妊娠中にプロバイオティクスを服用すれば幼児期にアトピー性皮膚炎がおこるリスクが軽減されるかもしれませんが、はっきりとした結論は出ていません。このような効果があるとしても妊娠中だけではなく、授乳中、そして幼児期まで続けなければならないようです。特にLactobacillus rhamnosus という菌が含まれているプロバイオティクスに関してのデータが一番多いようです。
―食物除去:
アレルギーをおこしやすい食品(例えば卵、牛乳、麦、大豆、ピーナッツなど)を避けることによって乳幼児の湿疹の発症率を低めるという証拠はありません。むしろ妊婦がこのような食べ物を避けることによっておこる弊害のリスクのほうが高いようです。

*授乳中
―プロバイオティクス:
授乳期間中だけプロバイオティクスを服用しても湿疹の発症率は押さえられないようですが、妊娠中、授乳中、そして新生児と続けて服用していると多少の効果はあるようです。
―Omega 3 LCPUFA:
授乳中のフィッシュオイルの服用に関してのデータはあまりありませんが、ひとつの試験では卵に対する感作がおこる確率が低下するという結果があるようです。ただし、全体に湿疹のリスクを低めるという結果は出ていません。
―食物除去
アレルギーをおこしやすい食品(例えば卵、牛乳、麦、大豆、ピーナッツなど)を避けることによって乳幼児の湿疹の発症率を低めるという証拠はありません。

*幼児期:
―プロバイオティクス:
幼児期にだけ服用した場合、湿疹を防ぐ効果は見られませんが、妊娠中、授乳中と継続して使っていた場合は湿疹がおこるリスクを低くすることができそうです。
―プレバイオティクス(大腸に常在する有用菌を増殖させるか、あるいは有害な細菌の増殖を抑制することで宿主に有益な効果をもたらす難消化性食品成分:
このような食品成分はBifidobacterium のような有益のある菌の増殖を促したり、発酵して抗炎症作用のある短鎖脂肪酸を作るようです。しかし、まだ抗湿疹効果があるという証明はされていません。
―Omega 3 LCPUFA:
抗湿疹効果はみとめられていません。
―加水分解された粉ミルク(hydrolysed infant formula):
いくつかの調査が行われましたが結果は矛盾していてはっきりとこのタイプのミルクが有益であるという証明はされていません。
―食物除去
アレルギーを起こしやすい食べ物を避けることによる抗湿疹効果はなく、むしろ食物アレルギーをおこす引き金となったり、栄養不足になったり栄養バランスを崩しかねないので薦められません。逆に幼児期から卵やピーナッツを摂取した方が食物アレルギーがおこるリスクは低くなるようです。ただし、場合によってはアナフィラキシー反応がおこる可能性もあるので最初は唇に少し塗りつける程度の量から試し、問題がなければ徐々に摂取量を増やしていくことが薦められています。

このようにアトピー性皮膚炎(湿疹)が食物アレルギーからおこるということはあまりなく、むしろ皮膚が乾燥してバリアー機能が欠如していることが一番の原因なので、アレルギー要因があってもなくてもしっかりと保湿をし、炎症がひどければ充分にステロイド軟膏を塗って症状をコントロールすることが治療の基本です。

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