情報提供:アドバンテージ・パートナーシップ法律事務所-国際商事仲裁専門
国際仲裁弁護人・国際調停人 堀江純一(国際商業会議所本部仲裁・調停委員)


シンガポール調停条約:国際紛争解決を変えるのか?
UNCITRAL (United Nations Commission on International Trade Law: 国連国際商取引法委員会) は、調停の結果生じた国際合意協定の執行の条約の規約を認め、シンガポール調停条約と名付けることを決議しました。今年の八月にシンガポールで調印され、少なくとも三カ国の批准によって施行されます。オーストラリアは今年8月1日に調印し、6ヵ月後に批准する予定です。

シンガポール調停条約とは何か。
調停による和解は、当事者間の合意書に記録されています。当事者はたいてい自発的にその合意の条件に従います。しかしながら、時には一方の当事者は合意に従わないこともあります。するともう一方の当事者は和解の合意を守らせる必要があります。これは一般的には、関係する裁判所や仲裁の場で契約違反を主張し、後の裁判や裁定を執行することで行なわれます。この執行は契約違反を主張した国とは異なる国で行なわれます。この過程は、とても長く、費用もかかるものです。
シンガポール調停条約は、国際商事紛争の調停による和解のみに適用され、上記の執行を容易にします。契約違反に対する裁判や裁定を得る代わりに、シンガポール調停条約では執行を主張する当事者が、その執行を要求している国で直接裁判所へ行くことを認めています。そしてその裁判所は、シンガポール調停条約で定められている執行を拒否する根拠が確認されない限り、和解の協定を執行します。シンガポール調停条約は外国仲裁判断の承認および執行に関するニューヨーク条約を基に作成され、実際にニューヨーク条約が仲裁の裁定に与えているのと同様の社会的重要性を調停での和解に与えます。

これは必要なのか?
仲裁程でもありません。仲裁では、負けた当事者はその裁定に不満であるが、その裁定に従っていただくため、有効な執行の仕組みが必要になります。調停においては、和解の協定は両当事者によって署名され、一度署名されると、両当事者は通常はその合意に従います。しかしながら、時には一方の当事者が調停の終了後に後悔をし、その和解に従うことに不満を感じる場合もあります。時として、一方の当事者が、和解協定に従うつもりがなく、単なる遅延手段として和解の協定に署名する場合もあります。このような状況下において、合理化した執行の手続きが有用になります。

この条約がもたらす影響は?
シンガポール調停条約の執行の主な影響は以下の通りです。

1.より多くの調停の国内法の批准
各々の国の憲法上の規約によるが、シンガポール調停条約に調印する国はそれを国の法律に組み入れるために議会を通過させる必要があります。これは、より多くの国が調停の国内法を批准することを意味します。これらの法はただシンガポール調停条約を国内法として批准するだけでなく、調停者の選出や、遵守性、その他調停の手続きを含みます。各国がシンガポール調停条約を批准できるように、UNCITALは2002年の公的調停基本法を吟味し、私的調停基本法に変更しました。

2.調停の工程に重きを置きます
調停の合意を拒否する当事者は、シンガポール調停条約に基づいた執行拒否の理由を述べなければなりません。その理由には調停者の執務執行上に問題がある場合や、調停の公平性を欠いている場合を含みます。それゆえ、仲裁と同様に、調停者の行動に対して誤った判断をしたと主張することが考えられます。調停者に対する不平が成立する場合は珍しい場合ですが、このような主張により調停者は世間から注目を集め、調停者の作業が改善されることが予測されます。

3.機関調停の増加
シンガポール調停条約は、執行を求める当時者に対し、和解の協定が調停によって生じたものであることを示すよう要求しています。これは、調停者か業務を指揮する機関による確認書によって示されます。当事者らは、必要とされている確認書を調停者が個人的に提供するかについて事前には確認していないので、和解を証明する団体を確保するため、機関調停を好みます。また、調停者の中には、機関調停により信頼を得るため、そして後の和解の執行の際の批判を減らすために、機関調停を好む者もいます。従って、より多くの調停が機関調停になることが考えられます。

4.調停の増加
国際商事紛争の調停を推進するためにUNCITRALはシンガポール調停条約を公布しました。シンガポール調停条約は調停にのみ適用されるため、紛争の当事者は調停者を必要とします。
シンガポール調停条約は、国際紛争における調停のイメージの向上にも貢献します。ニューヨーク条約は今年までに159カ国が調印しており、長く国際仲裁の基準とされています。シンガポール調停条約も同様の評価を得ることが望まれます。より多くの国が調印し、そしてより多くの国が国際調停の国内法を採択することにより、多くの国際商事紛争における当事者が仲裁によるよりも、調停によって紛争を解決することの恩恵に気が付くと考えられます。シンガポール調停条約は、国際紛争の解決の方法を変え、調停を国際紛争における標準的な選択肢とみなすことが期待されます。

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