ジャパン/コンピュータ・ネット代表取締役 岩戸あつし

日本人は世界の中でも礼節を守り、丁寧で、我慢強いというよい評判がある。それはその通りなのだろうが、一つだけ例外がある。仕事の関係で、納入期日を守らなかったり、失敗したり、いい加減な仕事をしたりしたときだ。これらの場合に限っては、クライアントは人が変わったように怒り、怒鳴り散らす。また怒鳴られた当人は、怒鳴り返すことはなく、平身低頭でかしこまり、「申し訳ありません」を繰り返すというのが、日本でよくあるパターンだ。電話で叱られる時も、相手が目の前にいないのにペコペコ頭を下げるのをよく目にする。問題を起こした当人でなくても、直接関係のない受付や同僚が同じ会社というだけで、訳もわからないまま当人に代わって誤っている姿をよく見る。

この習慣が染みついてしまった日本人は、オーストラリアでも同じことをする。オーストラリアは、日本よりもっといい加減なことが多く、約束期日は守らない、いい加減な仕事をする、その割に日本よりも高い料金を吹っかけてくるという三重苦に、多くの日本人はこの時とばかりに怒りを爆発させる。我々はこういう場合、まず相手に謝罪の言葉を期待するが、多くの場合オーストラリアでは謝らないで、いろいろと言い訳する。「言い訳より先に謝罪だろうが!」と日本人は考えるが、ここはそうではない。そこでムカムカして相手に激しい言葉で怒りを露わにすると、「なぜそんなに興奮して暴言を吐くのか、落ち着いて話さない限り話し合いには応じない」というように、逆にこちらが悪いというように言われる。そうなのだ。この国ではどんな時でも怒って相手に話すと、それだけで悪者になる。逆に侮辱罪で訴えられることもあるという。

この国では、客一人一人に対する担当者が付かない場合が多く、もめ事の際に過失は自分ではないという言い訳が多くされる。「それじゃあ誰が責任者なんだ?!」と聞くと、最近は誰も責任者がいないことが多い。特に電話やネットの場合、サポート電話が海外に転送されることがほとんどだ。こちらが問題をいろいろ説明した後、担当者の名前を聞くと、EmilyとかGeorgeとか答えるが、そのようなポピュラーなファーストネームを持った人は会社に何十人いる可能性があり、「ラストネームも教えてほしい」と言うと、「それは規則によって教えられない」という答えが返ってくる。日本では姓名を名乗るのが当たり前なので、なぜ?と日本人は思うかも知れない。例えば日本では当たり前の家の玄関の表札もオーストラリアでは見られない。ラストネームは、ファーストネームに比べてその人の出身を表すことが多いので、それによって差別されたりすることを危惧しているのかも知れない。でも、それではどうやって今話している人を次に電話したときに特定できるかということであるが、多くの場合、名前に代わるスタッフIDを持っている場合が多く、スタッフIDは何かと聞くと、6桁程度のIDを教えてくれる。

しかし、今話している相手が問題を解決することは少なく、その問題をサポート会社のネットを通じて世界中のサポートスタッフに知らせ、解決させる方法が取られる場合がほとんどである。その場合は、最初に話した人と次に電話した時に話す可能性はほとんどなく、問題解決は人ではなく、リファレンス・ナンバーとかケースIDとかという仕事別の記号で管理される。従って、期日になってもなかなか返事をくれないときに、こちらから電話をかけた場合、まずリファレンス・ナンバーを告げ、電話に出た人がそこに書かれているメモを読み終えるのを待つ。最初は腹が立って勢い込んで電話するのであるが、以前とは別の人が出て、リファレンス・ナンバーなどを事務的にやりとりしている間に、怒りがだんだん収まってくるのだ。おそらくこれがサポート会社の戦略で、一人の担当者に責任を取らせるのではなく、みんなで分担してサポートすることにより、誰が責任者かわからないようになり、客も怒りを持って行きようがなくなり目出度し目出度しという塩梅だ。

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