鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


私たちの体内にはナトリウムを含む数種類の電解質が体液の中に存在します。体液は細胞内液と細胞外液(組織間液と血漿)とに大別され、電解質は細胞内液と細胞外液の間で微妙なバランスを保ちながら体内の細胞組織の働きを支えています。このバランスが一定に保たれることを恒常性といい、そのバランスが崩れるとあらゆる細胞の機能が乱れ、健康維持が困難となります。体内の電解質には陽イオンと陰イオンのものがいくつかあり、右表のようにそれぞれ血漿、組織間液、細胞内液の中で+/-のバランスが保たれています。電解質の細胞内外への動き(膜輸送)は細胞膜によって制御されていてそのメカニズムはいくつかあり、複雑です。単に細胞内と細胞外の濃度の違いによって浸透することもあれば細胞膜にあるチャンネルをを使い、エネルギーを使って濃度包配の逆方向に電解質が運ばれることもあります。とにかく、このような複数のメカニズムで細胞内外の電解質濃度が保たれている複雑なシステムです。

電解質の役割
ナトリウム(Na+)とカリウム(K+)は細胞外と細胞内の主要電解質です。
*ナトリウムの働き
細胞の浸透圧の調節、細胞外液量の調節、血液中のpH(酸ーアルカリ)のバランスの維持、そしてカリウムとともに神経や筋肉の刺激伝達に関わっている重要な電解質です。濃度が高すぎても低すぎても問題が生じてきます。また、消化された栄養素が小腸から血液中に溶け込む手助けもしています。ナトリムの約55%は細胞外液にあります。血漿浸透圧の約90%はナトリウムの影響によるもので、ナトリウム濃度によって細胞外液量が変化します。普通の食生活をしていればナトリウムが不足することはまずありませんが、たくさんの汗をかいたり、下痢や嘔吐がおこっているときにはナトリウムが体外に失われてしまいますので充分な補給が必要となります。また、ナトリウムの過剰摂取(塩分、NaClの摂り過ぎ)でも高血圧、むくみなどがおこります。
*カリウムの働き
ナトリウムとともに、細胞の浸透圧を維持しているほか、血液中のpHの維持、神経刺激の伝達、心臓機能や筋肉機能の調節、細胞内の酵素反応の調節などの働きをしています。また、腎臓でのナトリウムの再吸収を抑えて、尿中への排泄を促進するため、血圧を下げる効果があります。カリウムが不足すると脱力感、筋力低下、食欲不振、骨格筋の麻痺などがおこります。カリウム過剰症は普通の食生活ではまずおこりませんが、カリウムはほとんどが尿中に排泄されるので腎臓機能が低下していると高カリウム血症になります。カリウム低下症では脱力感、筋力低下、食欲不振、骨格筋の麻痺などがおこり、高カリウム血症では筋収縮が調節できなくなり、四肢のしびれ、心電図に異常が出たり、ひどい場合は心停止がおこることもあります。

浸透圧とは
濃度の異なる水が半透膜(例えば人間の細胞膜)で仕切られていると水は自由に半透膜を通過しますが電解質は通さないので濃度の低い方から高い方へ水が移動し、濃度を同じにしようとする現象がおこります。この水を移動させる力を浸透圧といいます。細胞外液の電解質濃度が細胞内液の濃度よりも低いと水分が細胞内に入り、細胞が膨張します。反対に、細胞外液の電解質濃度が細胞内液よりも高いと細胞内の水分は細胞の外に出てしまうので細胞は縮んでしまいます。

血清ナトリウム濃度と症状
血清ナトリウムの濃度は通常は135~148mEq/Lです。濃度が低下すると次のような症状がおこります。

また、実際の濃度よりも濃度低下の進行速度により、症状の現れ方も変わってきます。進行速度が早ければ細胞内に水分が早く移動し、特に脳細胞に水分が多く移動すれば脳浮腫がおこり、痙攣、昏睡などの重度の症状がおこりやすくなります。

低ナトリウム血症の原因
低ナトリウム血症は大きく分けて3つのタイプがあります。水分不足よりもナトリウムが不足しているもの(細胞外液
減少型)、水分量は正常でもナトリウムが不足しているもの(細胞外液正常型)、そして水分量が増えすぎているもの
(細胞外液増加型)があります。
*細胞外液減少型
運動などで汗を大量にかいたり、嘔吐や下痢によって水分を失った場合や利尿剤の使用などから低ナトリウム血症になることがあります。
*細胞外液正常型
精神疾患などで水を大量に飲んでしまう疾患(多飲症)や腎臓からの水分排出を抑えるホルモン(antidiuretic hormone, ADH, 抗利尿ホルモン)が腫瘍などから以上に分泌される疾患(Sydrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion, SIADH, 抗利尿ホルモン不適切分泌症候群) により水分がナトリウムを薄めてしまい、低ナトリウム血症がおこります。
*細胞外液増加型
心不全などで足や全身にむくみがおこったり肝硬変などでアルブミンなどの血中のタンパク質を作れないことによって低ナトリウム血症になることもあります。

検査–診断
血液検査で血中ナトリウムの数値が低ければ低ナトリウム血症と診断できますが、数値がわずかに低い場合は何度か検査を繰り返して確認しなければなりません。尿中のナトリウムの値や尿の浸透圧も測れば手がかりになることもあります。しかし、低ナトリウム血症の原因を特定するにはさらに複雑な検査をしなければなりません。抗利尿ホルモンなど、各種ホルモンの検査やもしSIADHが疑われるような場合は全身のCTなどの画像検査で腫瘍がないかどうかをみなければなりません。

治療
まずは3つのタイプのうちどれかを見分けなければなりません。血中ナトリウム値の補正をしながら原因がはっきりわかればその原因疾患に対する治療も必要です。重度な神経症状が出ていれば緊急な治療が必要で、ナトリウムの補正が優先されます。そして大事な点はナトリウム値の補正はゆっくりしなければなりません。もし急いで補正した場合、細胞内と細胞外の浸透圧の差ができ、細胞に強い損傷を来す浸透圧脱髄症候群(Osmotid demyelination syndrome)という危険な神経障害をおこすこともあります。軽い低ナトリウム血症の場合、水分摂取を1日約1Lに制限することで訂正できます。また、利尿薬が原因の場合は服用量を減らすか服用を停止します。細胞外液減少型では生理食塩水の点滴をします。細胞外液正常型では水分摂取を制限し、多飲症やSIADHの原因となる疾患の治療も行います。細胞外液増加型のばあいは水分制限をし、心不全や肝硬変によってむくみが出ているようなときは利尿剤も使うこともあります。

抗利尿ホルモン不適切分泌症候群
抗利尿ホルモン(Antidiuretic hormone, ADH)は脳下垂体から分泌されるホルモンで、腎臓から排泄される水分量を抑え、体内に残るすいぶんが増えることによって血中ナトリウム濃度を薄めます。痛み、ストレス、運動、心臓、腎臓、副腎の疾患などでこのホルモンの分泌が増えたり、あらゆる腫瘍(脳腫瘍、肺癌、リンパ腫、膵臓癌)から放出されることもあります。そのほか肺炎、脳炎、髄膜炎、脳卒中、急性呼吸不全、結核、頭部外傷などで分泌量が増えることもあります。

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