鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


神経根傷害とは脊髄から出ている脊椎神経に圧迫がかかり、痛み、しびれなどの神経症状をおこしている疾患です。椎間板ヘルニアからおこることが一番多く、特に腰椎のレベルでよく見られます。その他には脊柱管狭窄症、椎間関節嚢胞、脊髄硬膜上膿瘍、怪我、腫瘍などで神経根傷害がおこることもあります。椎間板ヘルニアは一番体重がかかる腰椎のレベルで最もよくおこります。
45-65歳の年齢層におこりやすく、喫煙、肥満、妊娠、慢性の咳、重いものをよく持ち上げる職業、長時間の運転を必要とする職業などが危険因子です。腰痛だけで、神経症状がおこっていないような場合は筋肉痛であることがほとんどです。

椎間板の構造
椎間板は線維輪と髄核によって構成されています。線維輪はコラーゲン繊維からできていてねじれや軸方向負荷、引張負荷に耐えるようにできています。髄核はゼラチン状の物質からできていて70%水分です。椎間板の高さを保つ役目があります。年齢とともに髄核の水分が徐々に減り、崩れることによって線維輪に裂け目ができ、  右図のように椎間板がはみ出てきます。(椎間板ヘルニア)
ほとんどの椎間板ヘルニアは後側方にはみ出て脊髄神経に圧迫をかけます。この神経根傷害からくる痛みは直接神経にかかる圧迫の他に、圧迫からくる虚血や炎症反応にもよるものです。もし、椎間板が下図のように直接後方にはみ出た場合、脊髄から出ている脊髄神経ではなく、脊髄に圧迫がかかってしまうこともあります。これを馬尾症候群(Cauda Equina syndrome)といって緊急処置をとらなければならない状態です。

椎間板ヘルニアの症状
重いものを持ち上げたり、くしゃみや咳をしたりした瞬間に腰痛がおこり、お尻や足に走るような痛みを伴うことがよくあるパターンです。下肢のどの部分に痛みが走るかは圧迫を受けている脊髄神経の位置によって異なります。腰部には5つの椎体があり、上からL1、L2,L3,L4,L5と順番に番号がついています。そして、脊髄神経はこの椎体の間の隙間からでています。
例えばL1/L2から出ている神経は腰部から身体の前の鼠径部のあたりを供給しています。腰椎の下には仙骨(sacrum)があり、この隙間から出ている神経はL5/S1と呼ばれています。各神経が供給している身体の部分は下図のように分布されています。圧迫がかかっている神経によって痛みを感じる足の部分が異なります。

馬尾症候群
脊髄の末端部の神経は馬の尻尾のように細かく分かれ、腰部から仙骨部にかけて走っています。この部分の脊髄は下肢と膀胱、大腸に神経を供給しています。上の図のように椎間板が直接後方にはみ出て脊髄に圧迫をかけると足のしびれや筋力低下、おしりや鼠径部、陰部の知覚麻痺、それに膀胱や腸の機能障害(失禁、尿閉)などが腰痛と足の痛みに伴っておこります。
馬尾症候群は緊急事態で、発症後24-48時間以内に手術をして神経への圧を取り除かないと後遺症が残る危険が高まります。椎間板ヘルニアから馬尾症候群がおこる症例はごくわずかです。

診断
レントゲンでは椎体の間が狭くなっていれば椎間板がはみ出ている可能性が高くなりますが、椎間板の状態は詳しくわかりません。CTスキャンではもう少し椎間板の様子がわかりますが、脊髄神経への圧迫がどの程度のものかがはっきりと映らないこともあります。MRIが一番適切な検査です。もし、何かの理由でMRIができない場合は造影剤を使ったCT脊髄造影法(CT myelogram)が使われます。

治療
馬尾症候群以外の脊髄神経への圧迫をおこす椎間板ヘルニア(腰椎神経根症、lumbar radiculopathy)はほとんどの場合は外科的治療ではなく、保存的療法で改善します。患者さんの経過を連続造影検査で調べた結果、約2/3のケースでは6ヶ月のあいだで、はみ出た椎間板が自然に退縮していたということもわかってきています。はじめは痛み止めや消炎剤を使い、痛みをコントロールしながら物理療法で運動をなるべく早くから行います。重いものを持ち上げたり、長時間座っていたり、腰を曲げたりねじったりすることは避けながら徐々に身体を動かすようにし、普段の生活に早くもどるようにします。この方法で80%の患者さんに6週間以内に改善がみられます。患部にCTの影像で位置を確認しながらステロイドの注射をする方法もあります。ほとんどの場合、この効果は一時的なものですが、痛みが軽減しているあいだになるべく筋肉強化のための体操を進めるという方法もあります。ステロイド注射は1回の神経根症に対して3回までが薦められる限度です。神経根症の再発があれば3-6ヶ月間隔で注射をすることはできます。このような保存的療法を6-8週間続けても症状が改善されない場合は外科的治療が必要となることもあります。外科治療には主に3つの方法があります。一番よく使われている方法はmicrodiscectomy といってはみ出ている椎間板の部分を切除する方法です。椎間板ヘルニアの再発がおこることもあります。
二つ目は右図のように、脊柱の後部にある棘突起を取り除く椎弓切除術です。脊柱管内の圧力を和らげる方法です。もしこの手術によって脊椎が不安定になった場合や、脊椎すべり症も伴う脊椎狭窄がある場合は脊椎固定術を行います。この方法では神経を圧迫する骨や靭帯などを取り除き、除圧を完了します。その後、骨盤から採ってきた骨を固定する範囲の周辺に置き、その骨と固定する範囲の脊椎を骨癒合させ、安定させるという手術です。骨融合の補助として金属製の脊椎インプラントを使うこともあります。

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