鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


前立腺の炎症は尿道炎の合併症としておこります。バクテリアによる感染からおこることがほとんどですが、尿の培養検査をしても細菌が見つかるのは5-10%程度です。
一度おこると何度も再発したり慢性化することがよくあります。急性前立腺炎と慢性前立腺炎、それに慢性骨盤痛症候群(Chronic pelvic pain syndrome)に分類されます。

急性前立腺炎
培養検査で病原菌がみつかるのは5-10%しかありません。病原菌が発見された場合、その70-90%は大腸菌です。性病の既往歴がある場合はクラミヂアも考慮されます。
症状:
全身の倦怠感、発熱、節々の痛み、悪寒などがおこりますが、それ以前に尿路感染の症状(排尿痛、頻尿)がおこっていることもあります。恥骨上の痛みや会陰部の痛みなどもよくある症状です。
検査:
尿の培養検査、直腸指診(肛門から指を入れて前立腺を触診すると痛みがある)が必要です。敗血症が疑われる場合は血液の培養検査なども必要です。
治療:
症状がひどければ広域抗生物質を点滴で投与します。熱が下がり、症状が治まれば細菌が前立腺からなるべく完全に除去されるように経口の抗生物質を4-6週間続ける必要があります。

慢性前立腺炎
再発性の尿路感染が典型的なケースです。毎回、培養検査をして菌が出れば同じものが検出されます。
症状:
よくおこる症状は頻尿、夜尿以外に陰部、睾丸や腰の痛み、それに射精のときの痛みです。急性のときのような発熱、悪寒のような症状はおこりませんし、おこる年齢層は急性の前立腺炎よりも高めです。症状は数週間、数ヶ月と長めに続きます。骨盤のあたりの痛み、不快感が慢性前立腺炎の特徴ですが、膀胱炎、尿道炎、膀胱癌、前立腺癌、尿道狭窄、直腸や肛門の病気などでも似たような症状がおこることがありますので丁寧に診察し、尿検査や超音波などの映像検査などもしてこのような他の原因を除外する必要があります。
検査:
尿の培養検査、直腸指診が必要です。病原菌がどこに巣があるのかを確認するために前立腺を指でマッサージする前とした後の尿サンプルをとってそれぞれに培養検査をすることもあります。マッサージ前のサンプルから菌が出た場合は前立腺以外の尿路に菌の巣があり、マッサージ後のサンプルから菌が培養された場合は前立腺の中で菌が繁殖している可能性が高くなります。
慢性前立腺炎以外の疾患を除外するためにはその他には腎臓、尿管、膀胱を撮す尿路超音波検査や、尿の流量、流速を計る検査、尿の癌細胞検査、膀胱鏡検査などが必要となってくることもあります。
PSA (前立腺特異抗原)は前立腺癌のスクリーニング検査として使われていますが、前立腺炎がおこっていると数値が高くなることもありますので結果の解釈には注意を払わなければなりません。
治療:
主に菌をなくすことと痛みをコントロールすることが治療の目的ですが複数の角度から治療をします。

*抗生物質 ー 以前に抗生物質の治療を受けていなければ尿の培養検査がたとえ菌を検出していなくても抗生物質を投与します。この場合、一番よく使われる薬は ciprofloxacin という抗生物質です。この薬は前立腺によく浸透し、広範囲な抗菌性をもっています。治療期間は4-6週間です。もし以前に何度も抗生物質を投与されたことがある患者さんには再度抗生物質のコースを繰り返してもあまり効果は期待できません。

*α遮断薬(alpha blocker) ー 前立腺と膀胱頸部の平滑筋のα受容体をブロックして平滑筋をリラックスさせて尿道を通りやすくさせる薬です。尿の流量をよくし、痛みを抑える効果もあります。最低3ヶ月は使うことが薦められています。Flomaxtra が代表的な薬です。

*消炎剤 ー 炎症を抑えることによって痛みを抑える効果があります。Nurofen や Narpoxen などが代表的な薬です。胃炎がおこることもあります。

*ホルモン治療 ーFinasteride という薬で、男性ホルモンの作用をブロックし、前立腺を20-30%縮小させて尿路の通過障害を緩和させる効果があります。薬の効果がみられるまでには数ヶ月かかります。性欲減退、勃起不能、女性化乳房などの副作用がおこることもあります。すでに前立腺肥大からくる症状のある人にはより効果的かもしれません。

*”自然治療” ー ヘルスフード店で売られているような”自然治療”の商品で限られた効果が出ているものもあります。Prostat/Poltit という花粉エキスや Prosta Q というバイオフラボノイドなどは慢性前立腺炎の症状を改善する効果がいくらかあるようです。

*その他 ー 抗生物質や消炎剤などでも痛みが治まらない場合は三環系抗うつ薬(tricyclic antidepressant)を使用することもあります。通常抗うつ剤として使われますが、痛みを抑える効果もあります。Amitriptyline や nortriptyline などが代表的な薬です。

*物理的療法 ー 骨盤床の筋肉強化体操をすれば症状が和らぐこともあります。  尿道、肛門のまわりの筋肉を収縮させ、骨盤床を持ち上げるようにします。オナラを止めようとしたり、排尿時に途中でおしっこを止めようとするときの要領で筋肉を収縮させます。2 秒間力を入れ、2 秒間力をぬいてください。毎回十回ずつします。2 秒、2 秒から徐々に時間を長くしていき、10 秒、10 秒になるまで続けてください。回数は毎回十回ずつです。一日にする回数は多ければ多いほど効果的です。最低、日に十回は繰り返してください。腕や足の筋肉を鍛えるのと同じ原理ですから、筋肉を使う回数が多ければそれだけ筋肉が強くなっていきます。経尿道的切除術(Transurethral resection of prostate)や経尿道的膀胱頸部切開(bladder neck incision)などの外科的治療は慢性前立腺炎には適していません。前立腺肥大や尿道狭窄なども伴っていれば手術も効果的かもしれませんが、必ずしも痛みが改善されるとは言い切れません。

慢性前立腺炎は痛みが長期間続き、患者さんの生活の質や心理状況に強く影響を与える危険もあります。泌尿器科の専門医で詳しく診療を受け、前立腺炎以外の疾患も除外してからしっかりと治療しなければならないことも多くあります。

Share This