鳥居泰宏/ Northbridge Medical Practice


心血管疾患とは、狭心症や心筋梗塞のような虚血性心疾患、脳卒中、それに末梢血管障害など、動脈硬化が主な原因となる疾患のことです。動脈硬化に対してアスピリンやコレステロールを下げる薬がよく使われますが、心血管疾患がおこるリスクを危険因子や冠状動脈カルシウムスコアーなどから計算し、そのリスクレベルによって投薬治療をするかどうかの決断がされます。アスピリンやコレステロールを下げる薬は一般的には安全な薬ですが、副作用がないわけでもありませんのでただ単純にコレステロール数値が高いというだけの理由ではなく、科学的なデータに基づいてあらゆる要素を考慮に入れて投薬治療を実施するかどうかの判断をする必要があります。

動脈の構造
右図のように動脈はいくつかの層から成り立っています。一番内側の血液と接する層は内膜で表面には内皮細胞がならんでいます。この細胞層は血液から必要な成分を取り込みますが、それ以外のものにはフィルターとして働きます。しかし、高血圧、喫煙、糖尿病などの影響でこの内皮細胞に損傷がおこると血液の中の単球という白血球が内皮細胞にくっつき、さらに内皮細胞の間のすきまから内膜に入り、マクロファージ(大食細胞)に変身します。そして血中コレステロールレベルが高いと、このマクロファージが脂肪分を取り込み、内膜層が厚くなっていきます。中膜は血管の弾力性を保つために平滑筋細胞が多く含まれています。外膜は血管のそとを包んでいる膜で、表面に細い血管が網羅していてその血管から栄養分を取り入れています。

動脈硬化の進行
人間は生まれたときから何らかの”硬化”の変化が現れはじめています。そして10歳頃から急速にすすんでいきます。これが心血管疾患(狭心症、心筋梗塞、脳卒中など)を引き起こすかどうかはその動脈硬化の度合いによります。右図のように内皮細胞の損傷により、単球が内膜に入り、マクロファージに変化してコレステロールなどの脂肪分を多く取り込み、内膜を厚くして粥状硬化班ができます。さらに進むと平滑筋細胞が中膜から内膜に移行していき、そこで増殖します。そして、脂肪を多く含むマクロファージ、平滑筋細胞、その他の物質が蓄積していき、アテローマ(Atheroma), あるいはアテローマ性プラーク(Atheromatous plaque、または粥状硬化班)というものを形成します。この粥状硬化班が大きくなると動脈の内径がせまくなり、血流が悪くなったり、場合によっては血流を遮断してしまうこともあります。また、このプラークが破裂すると血小板がその部分に集まり、血栓を作って動脈を突然塞いでしまうこともあります。このようなプラークは内膜や中膜が比較的よく発達している太い動脈や中型の動脈に発生します。心臓を供給する冠状動脈、大動脈、それに脳、頸部、手足の動脈によくおこります。さらに、血栓が崩れておこる断片が血流に乗って体内の違う場所で動脈を塞ぐこともあります。時間の経過とともにこのプラーク内にカルシウムが溜まり、石灰化が見られることもあります。

動脈硬化を促進させる危険因子
動脈硬化を進める5大危険因子は下記の通りです。
*高血圧
血圧は140/90以下であることが理想です。これ以上高いと血管にストレスがかかり、動脈硬化がおこりやすくなります。
*高脂血症
総合コレステロール、LDLコレステロール(悪玉)、中性脂肪が高く、しかもLDLコレステロール(善玉)が低いと動脈硬化を進める要因となります。おおまかな目安としては総合コレステロールが5.5 mmol/L(212mg/dl)以下であることが理想的ですが、状況によっては(例えば糖尿病もある場合)この 目標数値はもっと低くなります。
*喫煙
喫煙者は心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患をおこすリスクがかなり高まります。それ以外にも舌癌、肺癌など癌のリスクも高まります。
*糖尿病
糖尿病の患者さんも虚血性心疾患、脳卒中、足の閉塞性動脈硬化症などの発症率が高まります。血糖値のコントロールが悪いほどこのリスクは高くなります。
*肥満
BMI値=体重(Kg)÷[身長(m)x 身長(m)] が24以下であることが理想的です。
これらの危険因子をいくつも持っていれば動脈硬化のリスクは単純に2倍、3倍と増えていくのではなく、雪だるま式に増加していきます。逆に、多数の危険因子を持ち合わせていても、たとえひとつだけでもコントロールすることができれば、よい影響も雪だるま式に増えます。

冠状動脈石灰化(カルシウム)スコアーについて (Coronary artery calcium score, CAC score)
動脈硬化による、5年、あるいは10年先の心血管疾患のリスクを上記の危険因子を考慮して計算する方法はありますが、必ずしも完璧ではありません。CTスキャンで心臓の冠状動脈の石灰化を測る検査があります。石灰化が進んでいるということはアテローマ性プラークが多く発生しているということを意味しますが、冠状動脈の閉塞の度合いを見ることはこの検査ではできません。しかし、石灰化の度合いをスコアーで現し、スコアーの数値の高さによって心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を予知することはできます。これは、従来の動脈硬化危険因子からリスクを計算する方法よりも多少優れているようです。(ただし、この検査も完璧ではなく、CAC スコアーがゼロ、あるいは低くても粥状硬化班がおこっていないとは言い切れません。ただ、そのプラークが比較的若く、まだ石灰化がないだけかもしれません) 現在、この検査をすることが適切であると認められている状況は下記の通りです。
*従来の危険因子から計算したリスクが中度(10年リスクが10-20%)の人で、心疾患や脳疾患の症状がなく、心血管疾患の既往症もなく、年齢層45-75歳の場合、冠状動脈カルシウムスコアー検査をすることによってリスクをより低いグループかより高いグループに再分類できる。
*10年リスクが6-10%と比較的低めでも、強い家族歴(比較的若い年齢で心血管疾患をおこした近親者がいる)のある人や40歳-60歳で糖尿病を発症した人などには冠状動脈カルシウムスコアー検査を追加することによってリスクを再分類し、治療方針をより適確にすることができる。 なお、次の場合はこの検査をするメリットが認められていません。
*従来の危険因子から計算したリスクが低度(10年で5%以下)の場合
*従来の危険因子から計算したリスクが高度(10年で20%以上)の場合
*心血管障害の症状(例えば狭心症)がすでに出ていたり、あるいは既往症がある人

投薬治療について
リスクのレベルが低くても高くても食生活とライフスタイル(規則正しい生活、適度な運動、禁煙)には気をつけなければなりません。CACスコアーが100以下の人にはアスピリンやコレステロールを下げる薬は通常薦められていません。CACスコアーが400以上の人はアスピリンやコレステロールを下げる薬が使われます。また、CACスコアーが100-400の人に関しては投薬治療の推奨はそれほど強くありませんが、年齢や糖尿病、高血圧の有無なども考慮に入れて使われることもあります。

アスピリンの効果
アスピリンには消炎効果、鎮痛効果、それに解熱効果があり、風邪、関節痛、筋肉痛、歯痛などによく使われます。アスピリンはそれ以外に血管収縮を和らげる効果と血小板凝集を抑制する効果があります。この特徴が動脈硬化で狭くなっている動脈に対してベネフィットがあります。この効用で使用される場合低容量(75-100mg)のアスピリンが使用されますが、それでも消化器からの出血や脳出血などのリスクはいくらかあります。ですから、二次予防(すでに心血管疾患の既往歴がある人)で使用する場合、便益がリスクよりも高いので薦められますが、一次予防(心血管疾患がないがリスクが多少ある人)の場合、アスピリンを使うことのベネフィットとリスクが同等か、リスクのほうが高めなので、通常薦められていません。

CACスコアー検査の費用
この検査は$100-400かかります。Medicareのリベートはこの検査に関してはありません。もし、冠状動脈の閉塞がおこっているかを調べるためにはCT冠動脈造影検査かカテーテルによる冠状動脈造影検査が必要となります。

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