1994年の統計ではオーストラリアの人口2000万人に対し、ペットが1750万匹飼われているということです。40%の家庭で犬が飼われ(310万匹)、25%の家庭には猫がいます(250万匹)。その他鳥が600万匹、魚が430万匹飼われています。

バクテリアによっておこる感染症

犬や猫による咬傷のほとんどは治療を必要としませんが、傷口から感染症がおこることもあります。犬の場合咬傷の2-20%、猫の場合は50%にまでのぼることがあります。また、猫による咬傷は骨や関節にまで達することがおこりやすく、重症になりがちです。犬や猫の咬傷はほとんどの場合複数のバクテリアが入っています。治療の重要なポイントは傷口をなるべく早く消毒することです。感染症がおこる危険のある傷ならば抗生物質の投与をします。もし破傷風の予防接種をフルに受けていない場合(初期に最低3回の接種)は破傷風の免疫グロブリンと破傷風の接種を受ける必要があります。もしフルに破傷風の予防接種を以前に受けていても最後のブースターが5年以上前でしたらブースターをしておくべきです。

猫引っ掻き熱(Cat scratch fever)
Bartonella henselae というバクテリアからおこる病気で、猫が感染の貯蔵庫です。特に子猫はこの菌による菌血症(循環血液中に生菌が存在すること、猫には症状はない)をよくおこしていて、人に感染しやすいようです。引っ掻き傷や咬傷から近位のリンパ節が1-3週間後に腫れ、化膿します。発熱、倦怠感、関節痛、肝臓脾臓肥大、脳症、視神経網膜炎、心内膜炎などをおこすこともあります。診断は血液の抗体検査で確認できます。リンパや血液の培養検査で菌を検出できることはまれです。リンパ腫やその他の疾患を除外するためにリンパ節の生検が必要となるかもしれません。免疫応答性(正常な免疫反応をする能力がある)のある人で、しかも軽症の場合は治療を施さなくても自然に解消します。もし脳症、視神経網膜炎、心内膜炎などが併発しているような重症でしたら抗生物質が必要です。

オウム病(Psittacosis)
Chlamydophila psittaci という菌で、主にオウム(parrot)、インコ(parakeet)、オカメインコ(cockatiel)が貯蔵源です。鳥が感染していれば羽毛の異常、食欲減退、鼻水、下痢などの症状がありますが、慢性キャリアで無症状のこともあります。人間には鳥の乾燥した便や感染したほこりを人間が吸うことによっておこります。あるいは感染している羽毛などを直接触った手から鼻や口の粘膜を通して感染することもあります。
人間に感染すれば軽いインフルエンザのような症状から呼吸不全をおこすような重症になる場合もあります。潜伏期間は1-4週間です。発熱、頭痛、咳が典型的な症状です。胸部レントゲンで肺炎が見られることもあります。血液検査で抗体が上昇していれば診断できます。治療は抗生物質(doxycycline が第一候補)の投与です。予防は鳥を飼っている環境をなるべく清潔に保っておくことです。鳥かごを掃除するときにはマスクをすることも大切です。

鑑賞魚水槽肉芽腫(Fish tank granuloma)
Mycobacterium marinum という菌で淡水にも海水にも存在します。主に手にある傷から感染し、慢性の皮膚におこる病変(結節、プラーク、潰瘍)です。病変がおこっているリンパの廃液範囲にそっていくつかの病変がおこるのが典型的なパターンです。診断は難しく、皮膚の生検が通常必要です。治療は長期間の抗生物質の投与です。

胃腸炎
Salmonella や Campylobacter 菌は犬、猫、鶏、蛇にも検出されています。このような動物から人間に伝染することも可能です。人間では下痢をおこします。診断は便の培養検査からです。ほとんどは自然治癒しますが、重症で長期間症状が続いている場合は抗生物質の投与が必要となるかもしれません。

ヴイールスによっておこる感染症

狂犬病(Rabies)
狂犬病をおこす Rabies virus は犬による咬傷や引っ掻き傷それに犬の唾液が傷口を汚染した場合に人間に伝わります。世界中で年間3万5千人の死者をでします。飼い犬が感染の貯蔵庫となりますが、猫やコウモリ、その他の野生動物にもみられます。オーストラリアでは狂犬病はおこりませんが、オーストラリアのコウモリに感染している Lyssavirus から狂犬病に似た病気にかかった人もいます。潜伏期間は通常20~90日ですが、短くて4日、ながくて19年というケースもあります。症状には二つのタイプがあります。ひとつは狂水症と空気恐怖症です。水を飲もうとしたり、空気が顔に当たったりすると呼吸痙縮がおこったり痙攣や肺呼吸停止がおこったりします。もうひとつのタイプは上行性の弛緩性麻痺で呼吸の筋肉にも麻痺がおこれば死に至ります。感染のリスクが高い人(狂犬病が地域流行している国への長期旅行者、野生動物やコウモリを扱う人)には予防接種が必要です。
もし、狂犬病をもっているかもしれない犬に噛まれた場合、すぐに傷口を水で数分洗い、消毒薬で消毒することが大切です。以前に予防接種を受けていない人は上記のような傷口の手入れをすること以外になるべく早く狂犬病の免疫グロブリンの投与をすることと狂犬病ワクチンを1ヶ月のあいだに5回受けておくことが必要です。以前に接種済みの人もワクチンのブースターを当日と3日目、2回受けなければなりません。

真菌によっておこる感染症

皮膚糸状菌 (皮膚, 毛髪, 爪などの角化組織の表面の感染を引き起こす真菌)には人間を宿主とするもの動物を主に宿主とするものがあります。もし、動物に普段宿する真菌が人間に感染した場合、人間に通常宿する真菌よりも激しい炎症がおこりますが自然回復しがちです。動物好性で人間に感染する真菌には Microsporum canis と Trichophyton mentagrophytes という主な2種類があります。犬、猫、馬、ウサギなどから感染します。頭部白癬、 須毛白癬、体部白癬をおこします。診断は毛や皮膚のサンプルを摂って顕微鏡で真菌を確認するか培養しなければなりません。頭部白癬と須毛白癬は通常抗真菌薬の内服が必要です。4-8週間の治療を要します。体部白癬の場合、数ヶ月で自然解消することがよくありますが、クリームやスプレーなどの塗布薬を使えば解消を早めることができます。酷ければ内服薬を使用することもあります。

寄生生物によっておこる感染症

トキソプラズマ(Toxoplasmosis)
猫が固有宿主です。感染している猫が接合子嚢(oocyst) を便の中に排泄します。猫は野生動物や感染している生肉をたべることによって感染します。他の動物や人間がこの接合子嚢を摂取するとその体内でスポロゾイト(sporozoite)、タキゾイト(tachyzoite, 組織内発育時に急速に増殖する発育型)、ブラディゾイト(bradyzoite, 胞子虫類のゆっくり増殖するシスト内型虫体)と発育していきます。ほとんどの人間は感染しても無症状ですが、発熱、リンパ節腫脹、脈絡網膜炎(chorioreitnitis) などがおこることもあります。免疫減弱状態(例えばHIV)の人は重症になったり以前にかかった後の潜在性感染が再活性化したりする危険があります。胎児が感染すれば大頭症、小頭症、精神遅滞、てんかん、聴覚障害、脈絡網膜炎などをおこし、死に至ることもあります。以前から接触があって抗体を持っていない母親が妊娠中に感染するとおこります。妊娠後期に母親が感染した場合のほうが胎児に感染する確率が高めですが、胎児への影響は妊娠初期に感染したときのほうが重大です。診断は抗体検査でわかりますが、急性の感染か以前から持っている感染なのかを判断することが困難な場合もあります。抗菌治療が必要なのは免疫減弱状態の患者さん、免疫状態が正常でも散在性(器官, 組織, あるいは身体中に広くまき散らされた)の感染症をおこしている患者さん、それに妊婦です。感染を防ぐことが、特に妊婦の場合最も大切です。生肉を食べないようにする、生野菜は食事前に必ず洗う、庭仕事をするときは必ず手袋を着用し、作業後は必ず手を洗う、猫の排泄物を扱わないなどの注意が必要です。あるいは妊娠中は猫との接触は避けるほうが無難かもしれません。

トキソカラ症(Toxocariasis)
主にイヌ回虫Toxocara canisの腸管外移行幼虫が幼虫内臓移行症を引き起こす疾患です。猫(Toxocara cati)から感染することもあります。内臓幼虫移行症(visceral larva migrans)は主として小児の疾病で. 幼虫は腸内でふ化し, 腸壁を穿通し, 内臓 (主に肝臓) 内を18—24か月にわたって動き回ります。無症候性の場合もありますが, 肝腫 (肥大肝に被嚢幼虫による肉芽腫性病変を伴う) , 肺の浸潤, 発熱, 咳, 高グロブリン血症, 持続性高好酸球増加症などの症状がおこることもあります。また、眼幼虫移行症(Ocular larva migrans)は幼虫が網膜に侵入し、視力低下などの目の症状をおこします。治療は副腎皮質ホルモンや抗ヒスタミンによります。予防は砂場や子供がよく遊ぶ場所で犬や猫に排便をさせないようにすることと、犬や猫と接触があった後はよく手を洗うことです。

包虫症(Hydatid disease)
Echinococcus granulosus というサナダムシで犬と羊がいる農場地域でよく見られます。人間は行き止まり宿主で、犬との接触でサナダムシの卵を不注意に摂取してしまうとおこります。腸内で卵が幼虫に変わり、循環してあらゆる臓器に散在し、嚢胞を作ります。肝臓にできることが多く、続いて肺にできますが、脳、骨、脾臓などにもできることがあります。症状は周辺への圧迫からくるものか、嚢胞が破裂することによっておこるアレルギー/炎症反応によるものです。治療は手術による摘出か経皮吸引で嚢胞をしぼませるか、駆虫剤の服用かこのいくつかの治療法の組み合わせによってしますが、石灰化していて不活性で無症状な嚢胞は治療をする必要がありません。犬の定期的な殺虫治療や犬を扱った後は手を洗うなどという点に注意しなければなりません。

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