60歳以上の人口の60%以上には何らかの睡眠障害があります。睡眠障害によって昼間の眠気、気分障害、認知機能の低下(記憶力の低下)などがおこりやすくなります。また、覚醒状態の低下によって転びやすくなり、大けがにいたることもあります。高齢者の睡眠障害は多因子の要素によることが多く、改善できる要素があるかを詳しく検討しないで簡単にベンゾジアゼピン系の睡眠薬などをすぐに使用することは望ましくありません。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の長期使用に関してのいくつかの難点があります。
*急速な認知度の低下 *重度の認知症になりやすい *反応時間の遅延
*墜落障害の危険 *断薬した場合の反跳性不眠

高齢者の睡眠障害をおこしやすい要素

*概日リズム(circadian rhythm)の変化
*睡眠呼吸障害、睡眠時無呼吸
*不穏下肢症候群(Restless leg syndrome)、周期性四肢運動異常症(Prediodic limb movement disorder)
*痛み、呼吸障害、夜間頻尿症などをおこすような基礎疾患(例えば逆流性食道炎、心不全、前立腺肥大など)
*薬品の副作用(ベータ遮断薬、副腎皮質ホルモンなど)
*薬物乱用(アルコールやカフェインなど)
*うつ病、不安症などの感情障害
*音などの環境に対しての過敏性

感情障害

うつ病の患者さんの約90%は睡眠障害を経験します。眠りにつきにくい、あるいは睡眠を夜間持続できないなどという症状がよくあります。うつ病で特徴的なのは、朝、うつ症状がひどく、一日が過ぎていくとともに軽くなっていく現象です。
また、過去にうつ病を患っていた人が睡眠障害に陥った場合、うつ病の再発が疑われます。この場合、他のうつ症状が現れる以前に睡眠障害がまずおこるようです。
不安症の患者さんも良く睡眠障害をおこします。うつ病の患者さんとは異なり、不安症の患者さんでは睡眠とその不規則さに関しての圧倒的な懸念が特徴です。やはり眠りに陥りにくい、睡眠時の覚醒多発、深い睡眠の減少などがおこります。

睡眠障害、睡眠無呼吸症

高齢者の場合、若い人と比べ、いびき、睡眠時の無呼吸現象の目撃、昼間の眠気などの症状より、 睡眠の質の悪化、夜間頻尿、気分障害、認知度の低下として現れることのほうが多いようです。
睡眠無呼吸症には閉塞性無呼吸症(上気道の閉塞によっておこる無呼吸)と中枢性無呼吸症(脳にある呼吸中枢の働きが悪くなることによっておこる無呼吸)があり高齢者の場合、中枢性無呼吸がおこることも多く、また、閉塞性無呼吸と同時におこり、複雑な起因によることも多いので、自宅でできる簡単な睡眠検査よりも検査所で泊まり込みの睡眠ポリグラムを行ったほうがいい場合もあります。
また、仰向けに寝ている場合に横向けで寝る体位よりも無呼吸の回数が多くなるケースもあります。
*呼吸中枢は脳に送られてくる二酸化炭素のレベルが低下したときに自動的に肺やお腹の筋肉を動かして呼吸を促進させる役目があります。心不全などで心臓の働きが悪くなっていると血液の循環も悪くなり、実際に二酸化炭素レベルが低下していても脳に血液を充分に遅れないことにより呼吸中枢が低下した二酸化炭素のレベルを察知できなくなったりします。また、脳疾患が原因で呼吸中枢がうまく機能しない場合もあります。
睡眠無呼吸の治療方は高齢者でも原則として若い患者さんの無呼吸症と変わらず、体位によって(仰向け)おこる場合は仰向けにならないような処置をとってみます。それ以外の場合は持続陽圧気道圧 (自発呼吸あるいは機械呼吸下の患者に, 呼吸周期の全過程で換気回路に加圧して, 気道内圧を大気圧より高く保つ呼吸管理の一方法、Continuous positive airway pressure, CPAP)を用いたり、歯の副子(デンタルスプリント)を就寝時に着用して上気道の空気の通路を確保しておく方法があります。CPAPの機械は空気圧の調整が定期的に必要ですし、デンタルスプリントは歯科医でその人にあったものを作ってもらうことが大切です。

概日リズム(circadian rhythm)の異常

*進行性睡眠覚醒移行障害(Advanced sleep-wake phase disorder) ーこれは睡眠のタイミングが早まることによっておこります。つまり、夜、希望する時間帯よりも早く眠りについてしまうことによる周期のずれです。よって朝の目覚めが早すぎ、ストレスになってしまいます。希望する就寝時間まで部屋を明るくしておいたり、昼寝を避けたりすることが大切です。また、カフェインやアルコールの乱用、あるいはうつ病の有無なども確認しておく必要があります。
*不規則性睡眠覚醒障害(Irregular sleep-wake rhythm disorder) ーこの疾患は24時間中の概日リズムがはっきりと確認できず、夜間の不眠や日中の再度の昼寝がおこります。認知症などの神経変性疾患のある患者さんや老人ホームで暮らす高齢者によくみられます。昼間は明るい光のある環境の中でなるべく組織化された活動を促し、夜は静かで暗い部屋で就寝できる
ようにすることが大切です。

不穏下肢症候群,周期性四肢運動異常症

不穏下肢症候群の発症率は女性:男性が2:1です。年齢とともに発症率は高まります。
四つの臨床診断基準があります。必ずしも睡眠ポリグラムをする必要はありません。
*足に心地悪い感覚(痛みの場合もある)がおこり、足を動かしたくなる
*足を動かすことによって症状が和らぐ
*歩き回ったり足のストレッチをすれば治まる
*ほとんどの場合は夜間に症状がおこり、特に午前12時から2時のあいだに頻繁におこるーそのため睡眠が妨げられる。
原因は不明ですが、遺伝的要素もあり、鉄分の不足にも関連があるようです。
周期性四肢運動異常症は睡眠ポリグラムで足の動きが規定数以上記録され、しかも睡眠障害をおこしている場合につけられる診断です。
不穏下肢症候群と周期性四肢運動異常症の治療法は同じです。鉄分不足があれば補給し、アルコールやカフェインは避けるようにします。投薬治療はいくつかあります。ドーパミン作用薬(パーキンソン病によく使用される薬)、抗てんかん薬、オピオイド鎮痛薬などが使用されることもありますが、副作用に注意を払いながら服用する必要があります。

レム睡眠時行動障害(Rapid eye movement sleep behavior disorder, RBD)

睡眠中に大声で叫んだり、暴れたりするなどの行動をとる疾患です。身体は休んでいて、脳が覚醒している「レム睡眠」時に起こる異常行動です。このような行動がおこったときにはすぐに目覚め、ほとんどの場合その行動をとらせた睡眠中の夢を覚えています。この現象により、睡眠中の自分やまわりの人に傷を負わせてしまうことがよくあります。50歳以上の男性によくおこりがちです。原因ははっきりとわかっていませんが、脳幹の一部に異常があり、本来、レム睡眠中は、夢の中の行動をそのままとらないよう、脳から運動神経を麻痺させ、筋肉を弛緩させて緩める働きがありますが、この機能が正常に作動せず、夢の中の行動がそのまま反映されてしまうようです。睡眠ポリグラム中にビデオを撮ったり筋電図検査も行って診断されます。この疾患はパーキンソン病やレビー小体型認知症(Lewy body dementia)の前兆であることもあります。また、脳血管障害、脳幹腫瘍、や多発性硬化症によっておこることもあります。
対処法としては異常行動による怪我を防ぐために睡眠環境から危険なものを排除し、寝具をベッドからマットレスや布団などの高さの低いものに変更したり、寝床の周囲に投げたり蹴ったりするおそれのあるものを置かないようにすることが大切です。この現象がおこったとき、家族が大声で呼びかけて身体を揺するなど、強い刺激を与えることで目覚めさせることもできます。
クロナゼパムという抗てんかん薬やメラトニンなどが使われることもあります。クロナゼパムは錯乱状態をおこしたり、眠気をおこしたり、また協調運動傷害をおこしたりすることもあるので認知症、歩行障害や睡眠無呼吸も併発している人には要注意です。

不眠症の一般的な対処法

*就寝前にコンピュータや携帯電話を使わないようにする。(ブルースクリーンが睡眠導入を妨げる)
*カフェインは正午以降、またアルコールは夕食以降は避ける
*運動は就寝時間の2時間以内にはしないようにする
*寝室は静かで涼しい環境にしておく
*ベッドで読書やテレビを見たり、考え事はしないようにする
*眠気がおこってからはじめてベッドにつくようにする。10~15分たっても眠れない場合はベッドから出て他の部屋に行く
*毎朝同じ時間に起きるようにする(前夜の睡眠時間に関係なく)
*昼寝は20分以上はしないようにする
*ベッドにいる時間を実際に睡眠している時間帯だけに制限する ー 睡眠日記を1~2週間つけ、一晩 での平均睡眠時間を算し、ベッドにいる時間をそれだけに制限する。就寝時刻はその睡眠時間の長さにあわせ、希望の目覚め時刻に起きられるように設定する。そして睡眠効率(ベッドにいる時間と 合計睡眠時間の比率)が85%を超えたら徐々にベッドにいる時間を週に15分ずつ長くしていく。
高齢者の睡眠障害にはあらゆる要素が起因となっていることが多く、睡眠薬などをすぐに使う以前に上記のような点に注意を払い、改善しなければ医師と相談して治療できるような基礎疾患の有無を確認することが大切です。

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